鉛筆彫刻科・シロイ「折れるからこその美しさ」-ARTFULLインタビュー-

鉛筆は誰しもが一度は手にしたことがあり、もちろん文字などを“書く”ために利用し、そして思わず「芯を折ってしまった」経験も多くの人があるのではないでしょうか。

そんな折れやすい鉛筆の芯で数々の彫刻作品を制作し、SNSでも話題の鉛筆から作られたスカイツリーを制作した「鉛筆彫刻科・シロイ」さんに、なぜ鉛筆を彫刻にしようとしたのか、その繊細な彫刻技術、今後の活動についてお話を伺いました。


鉛筆彫刻科・シロイ

新潟で鉛筆彫刻をしている鉛筆彫刻人。
もともと美術は大の苦手でしたが初めて見た鉛筆彫刻に衝撃を受け制作をスタート。
SNSにて作品を投稿しております。

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文字を書いて伝える鉛筆自体を文字に


Q. 鉛筆彫刻を始めた経緯、きっかけを教えてください。

偶然TVで見た鉛筆彫刻に感動したのがキッカケですね。

文字を書いて伝える鉛筆自体を文字にしてしまうアイディアや折れるものなのに折れないよう作る技術に衝撃を受けたのが始まりですね。


えんぴつダルマくん

Q.ただでさえすぐに折れてしまったりと難易度が高い鉛筆彫刻ですが、制作を始めてから“作品”と思えるまでのクオリティになるまでどのくらいの時間がかかりましたでしょうか?

難しい質問ですね。
その時に作り出したものは今見ると作品とは呼べないのかもしれませんが作った当時は一生懸命作ったものなので作品になります。ですので今の最高傑作も将来は作品とは呼べなくなるかもしれませんし。

ただ鉛筆彫刻を始めてから3ヶ月たったある時、急に不思議と「折れない感覚」みたいなものを感じるようになりました。…今でも折れてはいますけど。


ハートチェーン

Q.集中力、根気を要し、気の抜けない作業が続きそうな鉛筆彫刻ですが、シロイさんは元々このような作業が得意だったのでしょうか。

自分では特に集中力がある方とは思っていませんでしたね。
ただ鉛筆彫刻を始める前はプラモデルなどは好きでした。

ですが美術は全くのダメ。学生時代は美術が1番の苦手で今でも絵心は皆無でもっと美術センスがあったらうまくできるんじゃないかな~と思ったりもします。


カトラリー

Q.現在までにいくつくらいの鉛筆彫刻作品を作られましたか?

正確な数はわかりませんがおおよそ200本以上は作ってきたと思います。


折れるか折れないかの“間 ” に鉛筆彫刻の魅力がある


Q.鉛筆彫刻を作るにあたり、一番難しいところはどこでしょうか?またご自身の思う一番の魅力はなんでしょうか?

今一番難しいと感じているところは「芯径の制約」ですね。

私がよく使う鉛筆の芯径は約4mm。その上に通常の鉛筆より大きなジャンボ鉛筆もありますが約6mm。

皆さんがよく使われるHBや2Bよりも芯は太いのですがそれでも彫刻をするとなると小さなものです。
その制約の中で如何に作りたいものを表現できるかが課題です。



鉛筆彫刻の魅力は「折れるからこその美しさ」ですね。

鉛筆の芯は一歩間違えば簡単に折れてしまうもの。鉛筆を使った人は1度は折った経験があるのではないでしょうか。作るのにも形を保つにも不安定なものです。

その折れるか折れないかの間にこそ鉛筆彫刻の魅力があると思います。


電池マーク

Q.主にSNSで作品の発表、活動をされているということですが、SNSの利用にあたり何か意識していることはございますか?

SNSでの発信は「見てくれる人がどう思うか」を意識していますね。

そして私の場合は鉛筆彫刻という軸がなるべくブレないような投稿をするように心がけています。


新潟

Q.SNSでもかなりの数の作品を発表されていますが、制作ペース(1日1作品等など)や 、1作品を作り上げるのに大体どのくらいの時間を要していますでしょうか。

今私が最も使っているツイッターですと、過去作も交えての投稿をしているので多く見えるかもしれませんね。

制作時間は題材により様々ですね。例えばアルファベット1文字ですとだいたい作業時間約30分。最新作の東京スカイツリーですと作業時間27時間ほどかかっています。


スカイツリー


Q.今までで一番制作が難しかった作品はなんでしょうか。

40個の鎖を彫り出した鎖作品ですね。
作業的には同じ作業の繰り返しなのですが数が増すにつれ「ここで失敗したら今までの苦労が水の泡だ」という恐怖心との闘いでした。

終わりが見えてきた30個以降は手が震えました。



「無理だと思いこんでいたもの」にこそ挑戦していきたい

Q.今後挑戦したい、制作してみたいモチーフはありますか?

今回挑戦した東京スカイツリーもそうなのですが「無理だと思いこんでいたもの」に挑戦していきたいですね。作ってみたいんだけど今の自分の腕じゃできなさそうと思って諦めてきた題材が結構あるんです。


時計塔

Q.制作に使用している機材などをご紹介いただけますか?

私が主に使っている道具は「カッター」「デザインナイフ」「ヤスリ」「ドリル」「針」などですね。鉛筆彫刻専用の道具は今の所存在していないと思うので自分に合った道具探しも楽しみだったりします。



Q.普段制作活動されているアトリエについて教えてください。

制作は自宅の自室ですね。制作は細かな作業ですので普通の机の上で作業しています。



小さくてもいい、色んなものを積み重ねて

Q.作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

「資源の無駄」「鉛筆がもったいない」と書かれたことがありますね。

自信作のアルファベットA~Zまでを1本の鉛筆に彫る様子を動画にした「AtoZ」動画なのですが、とあるSNSのアカウントに載せて頂いた時にそのような書き込みを多くされました。

鉛筆彫刻そのものを否定され当時はかなり落ち込みましたね。



Q.今後、作家として挑戦したいことはありますか?

私はひたすらに上手くなりたいという思いで鉛筆彫刻をしてきました。

ですが、ありがたい事にSNSなどを通じて見てくれる方が増えてきましたので今後は「見てくれる方が楽しんでいただけるような作品作り」も意識して挑戦していきたいですね。


日本刀

Q.最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。

私自身「作家」と言われるとまだまだピンとこないですが「作る者」として。

色んなものを積み重ねていきましょう。「失敗」「成功」「工夫」…積み重ねた分はしっかりと作品に反映されますから。小さくてもいいのでお互い積み重ねていきましょう。