冨永ボンドのアトリエ「つくるばかりが作家の仕事じゃない」-アーティストインタビュー-

作家活動をしていると、一つのあこがれでもある“アトリエ”。
いつかは自分もアトリエも持ちたい、そんな作家さん達も多いのではないでしょうか。

一言でアトリエと言っても、それはアーティストごとに実に様々で、色んなストーリーが見えてきます。

その中でも、アートフルが見つけた素敵なアトリエを持つ作家さんにインタビューをしました。

ボンドで描くボンドアーティスト、その名も「冨永 ボンド 」

木工用ボンドで描く画家  冨永ボンド Official Website

冨永ボンド

画家/現代アーティスト/グラフィックデザイナー/アートディレクター
バリトンサックス奏者/トラックメイカー(MPC Live)
臨床美術士/ボンドグラフィックス代表

佐賀県多久市のアトリエ「ボンドバ」を拠点に、アートな町おこしプロジェクトを手掛ける傍ら、フランス・パリやニューヨークのギャラリーと契約し海外でも活躍する“グローカル”アーティスト。「つなぐ(接着する)」を創作テーマに、木工用ボンドを使った独自の色彩と画法で、抽象・半抽象的な絵画を描く。即興絵画パフォーマンスや壁画創作、医療とアートをつなぐアートセラピーなど幅広い分野で活躍中。夢は世界一影響力のある画家になって、医療福祉の分野を支援すること。キーフレーズは「アートに失敗はない!」

広さ140坪のアトリエ『ボンドバ』

外観にはボンドアートが

Q. アトリエの歴史、のようなものがあれば教えてください。

ここが初代アトリエです。
福岡都心から佐賀県多久市(過疎地域)に移住した際、低価格で賃貸でき尚且つ「改装可能な老朽化した建物」を探し、2014年7月に創設しました。

Q. アトリエはどのくらいの広さですか?

約140坪あります。

富永ボンドの絵画スペース

Q. 作家活動を始めてからどのくらいでアトリエを構えましたか?

作家活動を始めたのが2009年8月で、アトリエ創設が2014年7月なので、約5年後です。

Q. アトリエは自宅内ですか?自宅外ですか?また、その理由を教えてください。

自宅外です(徒歩10分の距離)。
家の中に創作場所を設けると、ずっと仕事をしてしまうし、妻子がいると創作に集中できないためです。家庭に仕事を持ち込まないためにも、創作活動に集中するためにも、住居と作業場は隔離した方が良いと考えています。

作業台には木工用ボンドがズラリ

アトリエは好きなものを詰め込む場所、それが創作意欲につながる

アトリエの入り口には原画やグッズの物販エリア

Q. アトリエに置いてある家具、道具など教えてください。

7割が手作り、3割がヴィンテージショップやリサイクルショップを巡って仕入れたものです。好きな物、希少な物がほとんどです。

創作環境は、創作意欲に多大なる影響を及ぼします。好きなものに囲まれていれば、おのずとモチベーションは上がっていくものだと考えています。

家具以外の設備としては、ビリヤード台、ダーツマシン、麻雀全自動卓2台、防音室、ピアノ、DJ機材、ミラーボールなどがあります。

ビリヤード場には巨大ボンドオブジェが

Q. アトリエをもちたい、と思ったきっかけ、理由を教えてください。

野外フェスや音楽イベントでパフォーマンスをする「ライブペイント」というスタイルで絵を描いていたため、描く絵が大きく(基本的に幅1m~2m、大きいもので幅10m)自宅に入りきれなくなっていたため、転居のタイミングで安く改造可能な物件を探したのがきっかけです。

CELLS(Audience)
色の境目を黒に着色したボンドで縁取っている

Q. アトリエを持って良かった点、悪かった点は何ですか?

<良かった点>
アトリエの所在地が過疎地域のため、街づくりに関わることが出来たことです。
県外や市外から人が訪れるようになり(アトリエが地域の観光資源となり、アートによる地域活性化の拠点となった)、金曜日のBAR営業を通して様々な分野の人たちと交流することが出来た。

好きなものを詰め込む場所が出来たことによって、創作意欲を低下させることなく継続的な作家活動が出来るようになりました。自分に持っていないものを持っている人たちが集まってくるようになって、新たな気付きを得る機会が増え、作品に良い影響が及んだことも良い点です。

<悪かった点>
ありません。

Q. やはりアトリエがあると作家活動が捗りますか?

捗るし、夢が膨らみます。

7年経ってもまだまだ進化中

広さ50坪のギャラリーも圧巻

Q. アトリエのこだわりを教えてください。

迸る情熱と漢の浪漫です。

Q. アトリエを作る際に苦労した点は何ですか?

建物が古いので修繕費が嵩みました。屋根を修繕するのに650万円。デコボコの床を舗装するのに40万円。防音設備に40万円。エアコンは7台購入しました。(但し、家賃は25,000円/月)

毎週金曜日はBAR営業もしている

Q. アトリエを作る際、「こんなアトリエにしたい」というイメージはありましたか?

全く無かった。アトリエに集まってくれる皆さんがしたいことを実現する形で少しずつ出来ていきました。
なお、創設から7年経った今でも、いまだ進化中です。

Q. アトリエの維持で大変なこと(メンテナンスや維持費)はなんですか?

ありません。

“アトリエ”という枠をも超えて

Q. 今後アトリエの改善をするなら何をしたいですか?

オリジナルアパレルを制作する工房と、写真撮影専用のスタジオを設けたい。
また、隣接する家屋に地域密着型・認知症対応型デイサービスの開設(3年後)、隣接する300坪の土地にアートとヒーリングをテーマとした高級宿泊施設の企業誘致(1~2年後)を計画しています。

Q. アトリエでのハプニングや、思い出深いエピソードなどあればお願いします。

アトリエ開設5周年記念イベントで、マルシェ90店舗、ライブペインター80名を招聘し開催しました。7月末の屋外、当日は晴天。ペインターの皆さんは炎天下の中、絵を描いて頂くこととなり、描くことに集中しすぎて熱中症になっていることに気付かず、救急車が出動する事態に。
一時騒然としましたが、1日で1400人の人が集まってくれて、盛況にて終えることが出来た。皆さんのおかげです。
次は10周年。その時はまた何卒よろしくお願いいたします。

アートを仕事にする為に

LINES(Multi)

Q. 最後に、これからアトリエを構えようと思っている作家に一言お願いします。  

アトリエを構えようと思っている理由にもよりますが、私は、創作拠点は”住居と別に構える”ことをお勧めしたいと思います。
つくることが大好きな我々が、日常生活の見える位置に創作場所を設けると、四六時中創作の事ばかりを考えて、空いた時間はキャンバスに向かってしまい、結果、非効率的な時間割りとなり、 クリエイティブの質さえも落ちかねない。
さらには、大切な会話や良質なアイデアを得る機会と時間をも失ってしまいます。

メリハリは大変重要です。
それは、アートをビジネスにするのであれば猶更です。
つくるばかりが作家の仕事ではありません。

好きなものに囲まれて楽しむこと、時間を思い通りに操ること、人との接点や会話を大事にすること。
これらも作家にとって重要な仕事です。

塞ぎ込んでいては、運も巡って来ず、実力も身に付かない。
実際に、私はアトリエを構えてから作品がよく売れるようになりました。

もしかしたら、アトリエを構えて先ずは「創作環境をデザインすること」が、アートを仕事にするための入り口なのかもしれませんね。
皆様の素敵なアトリエライフを心から応援しています。


No failure in Art.冨永ボンド

冨永ボンド展 オンライン2020 ~仮想のボンドアート開催中

出典: 冨永ボンド展 オンライン2020 ~仮想のボンドアート

2020年9月現在、冨永ボンドさんのオンライン展が開催中です。

コロナ禍により毎年夏季に行われていた富永ボンド展が開催できない中、最新のIT技術を模索し、自宅に居ても皆様にアートを楽しんでもらえるようにとオンラインでの開催となっています。

ボンドさんらしい、仮想から現実へつなぐ(接着する)というこの時代だからこそ生み出されたこの企画や作品を是非体験してみて下さい。

出典: 富永ボンド展 オンライン2020 ~仮想のボンドアート

今回お話を伺ったアトリエの「ボンドバ」は、こちらの360°インドアビューにてまるでアトリエの中を歩くように見て回ることが出来ます。

“画家”という名では語りつくせないほど、多才な活動をしている冨永ボンドさん。
アートの表現はいくつもあるんだという可能性の広がりを見せていただきました。
今後の活躍にも注目です。