画家・高松和樹「この世の矛盾を浮き彫りにする研ぎ澄まされた鏡」-ARTFULLインタビュー

SNS時代の匿名性を、イラストとリアルの中間、まるでフィギュアのようなビジュアルで描く画家・高松和樹さん。

詳しくお話をうかがいました。


高松和樹さん

高松和樹 /  Kazuki Takamatsu

1978年宮城県出身。
2001年に東北芸術工科大学洋画コース卒業
2002年 同大学研究生を修了し、 SNS上にある言葉を元に挿絵を描く感覚、システム化された現代社会で生きる生身の人間の心をテーマ制作をしている。

世界14カ国、49都市で展覧会を200回以上開催、日本、アジアにとらわれずアート活動を展開している。
また、NIKE ヨーロッパのプロジェクト、本の装丁、アパレル、玩具、TVCM、『Memory Tapes』のグラミー賞ノミネート楽曲の ジャケットやフランス盲導犬協会のポスターなど多数作品が使われている。


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もし出会えてなければどうなっていたのだろう


Q.画家を志したきっかけを教えてください。

昔から物作りが好きでしたが、子供の頃は発明家になりたいって憧れがあり特にアーティストになりたいという気持ちはありませんでした。

高校を卒業後は就職を考えていたのですが、進学してもう4年間遊びたいなあと、普通に受験をしたら難しそうだったので学力を重視してない大学を探したら美大でした。小学校低学年の頃から絵画教室で油彩やデッサンを習っていてそこそこ描けたので運命かなと美大へ進学。

卒業後は就職しようと思っていたのですが、ちょうどリストラ政策期にぶつかってしまい全滅。それで、起業しようと思い資本金を稼ぐために土建関係の仕事を、ですが資本金が溜まる前に会社が高齢化により解散。手元に残ったお金で出来ることを考えていたらアーティストもありかなと。

そこから、ひもじい生活を送りながら絶対に成り上がってやる!と全力でアーティスト活動を始めたのがきっかけです。

Q.ご自身の活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

多くの方から影響を受けていて全員は書ききれないので特に大きな影響を受けたお二人を。

アーティストの金井訓志先生です。
大学の特別講義でゲストで来ていた金井先生のエスキース(素案)をCGを使って描くという話を聞き驚きました。当時(90年代)はまだパソコンがさほど普及していない時代で、写真を見ながら絵を描くことすらはばかられた時代です。
衝撃を受け翌日にはパソコンを買っていました。今の制作スタイルになったきっかけです。

また、最前線で活躍されている村上隆さんが当時(2000年代)ニコニコ動画や書籍で世界のアートシーンを事細かく話されていて、自分の知っていたアートとは全然違い混乱しました。当時は賛否両論が巻き起こり誰が本当のことを言っているのか解らず、とりあえず海外進出して現場で確認しなきゃと、国際活動を意識した行動へシフトしました。(実際に海外で活動をしてみて村上隆さんの偉大さを痛感。)


現実ト妄想ノ狭間デ、

Q.作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

東京で活動を始めた当初は右も左も分からない状態でした。ですが初個展で沢山のコレクター様や先輩作家さん、ギャラリストさんと知り合い、活動の仕方や色々な事を教えて頂き本当に助けて頂きました。今も命の恩人と思い決して足を向けて寝れません。

その後、手当たり次第、国内外のアートブロガーさんや企業にDMを出しまくり、(当時はまだSNSが普及していなかった。)そんなある日、貸画廊での個展初日に、外を全く歩ける状態では無いほどの大型台風が上陸、活動資金も尽きかけ勝負をかけた展示だったので絶望。最初の4日間で来て下さったのは3人ぐらいだったと思います。そんな台風の中びしょ濡れになりながら来て下さったのが、アートブログex-chamber museumの幕内さん。

幕内さんがブログで書いて下さった記事が何故か有名アダルトサイトのニュースコーナーに取り上げられ、それを見た海外のアート系サイトに取り上げられ、巡り巡って現在メインで活動をしているアートジャンル『ポップ・シュルレアリスム』の文脈を作った評論家さんの目に留まり、海外のアート雑誌や今お世話になっている欧米のギャラリーに繋がり現在の活動へとなっています。

そして、その台風の中きて下さった、もう一人が現在のホームギャラリー【TomuraLee(元 Gallery Tomura)】の戸村さんでした。

僕の海外進出したいという気持ちを真剣に受け取って頂き、まだ利益も出ないだろう僕を海外アートフェアに出して下さったり英語の話せない僕に変わりに全力でサポートなどをして頂いています。海外フェアでも多くのギャラリーと繋がりこちらも現在の活動の基盤になっています。

もしこの時にお二人が来ていなかったら、コレクター様や先輩作家さんギャラリストさん達に出会えてなければどうなっていたのだろうと、僕にとってこの時期が最大のターニングポイントだと思っています。


自由二生キル少女ノ図

イラストとリアルの中間


Q.現在の作風には、どのような変遷を経てたどり着いたのでしょうか。

最初は2000年の卒業制作展でアクリル板の層に輪切り(等高線状)の自画像を描いたのですが、やり尽くされた技法でつまらなかったので平面に戻せないかとあれこれ試していたところ、グラデーションにしてみたら面白い視覚効果に。
同時にコンセプトや自分の表現したい内容がどんどん湧き出してきました。

その後は実験を繰り返し、油粘土でモチーフを作り糸で輪切りにし、それを見ながらアクリル絵の具で描く方法をとっていましたが、個展にたまたま来てくださったCGクリエーターの方が、「これなら3DCGを使えばもっと複雑に表現できるよ。」と教えて頂きました。

ちょうどCGを勉強していた時で興味を持ち今のスタイルになりました。

Q.少女をモチーフにしている理由は何でしょうか。

たまに男性像や動物のみの作品も描いていますが、大半は女性像です。

理由はSNSなどのプロフィールアバターにアニメのキャラクターやイラスト、女性像の写真、他人の画像などを使う人も多く、本当の年齢も性別も事実か解らない。匿名性ゆえに書き込む者の本音や人間性が出やすくアバターとは裏腹に生々しさを感じます。

そんなイメージをイラストとリアルの中間、フィギュアのようなビジュアルとして作品に取り入れました。


コノ時

Q.作品のインスピレーションを得るために、普段から心がけている事などはありますか?

一つは、SNSや掲示板などから作品の主題になりそうな言葉をひたすら探しています。ネット以外では10~20代の友人達としょっちゅう電話などで雑談しながら若者の考えを聞かせてもらっています。

またアートに限らずより沢山の視覚情報を見るようにしています。


フィルターを通して心のアバターを描く感覚


Q.白と黒で表現された、天使のようでいて悪魔のようにも見える幻想的な少女の絵が魅力的だと拝見していて感じたのですが、作品を通しての共通のテーマや意識している事などはありますか?


「過去の私にありがとう。今日の私にこんにちは。 」 下絵

【制作コンセプト
作品内容はインターネット上の言葉を拾い、私のフィルターを通して心のアバターを描く感覚。現代のコミュニケーションツールの1つとしてSNSや掲示板などが在り、ここでは匿名性が高く建前や秩序が比較的少ないコミュニティーが広がる。自身を表すものは実名ではなくハンドルネーム、プロフィールアバターにはアニメのキャラクターやイラスト、女性像の写真、他人の画像などを使う人も多く年齢も性別も事実か解らない。

匿名性ゆえに書き込む者の本音や人間性が出やすくアバターとは裏腹に生々しさを感じる。そんなイメージをイラストとリアルの中間、フィギュアのようなビジュアルとして作品に取り入れた。

また、手前か奥かだけの断面図をデジタルを構成する数値として考え、光も影も排除したビジュアルに。白と黒(ブルーブラック)の2色は心のポジやネガ、善と悪、性別などをグラデーションで明確にさせない意味合いを持たせた。
現代のデジタル素材(3DCG)とアナログ素材(絵の具を使った手仕事)をハイブリッドに併用する事により、システム化された現代社会に対して生身の人間が持つ揺れ動く心情を表現。

製作工程、素材にも意味を持たせている。アナログ(手で描く)→デジタル(描かない)→ファクトリー(大量消費、他人に委ねる)→アナログ(結局は自分が製作している?)美術史の流れを製作工程を通して表現している。
さらに奥行きだけで表現する意味本来、具象絵画は光と影、色、線、奥行き(バルール)を用い表現するのが一般的であるが、そこから奥行きだけを残し、必要最小限のミニマルな具象絵画を表現。これには、現代社会の効率化の意味も持たせています。

ネット上で目にする大人になりきれない純粋な感情の中にこそ、この世の矛盾を浮き彫りにする研ぎ澄まされた鏡が存在し、そこに現代の象徴があると考え現在の作品スタイルに至った。


過去の私にありがとう。今日の私にこんにちは。

【よく使うモチーフの意味】

《後光》 = 崇高性と時間(時計)
《金魚》 = 人工的に品種改良された鑑賞目的の生物。
《菊の花》 = 人工的に品種改良された観賞用の植物、あの世とこの世を繋ぐ花。
《髑髏》 = 死、内面
《ツノ、動物の耳》 = 人間であることを拒絶。
《人形》 = 心を閉ざした人間。
《下にある霧》 = 自分が今どこに居るのか解らない。
《渦》 = まとまらない考え。 or 苦悩 or 世の中に対する不満。
《モヤ、湯気のような物》 = 負の感情から漏れ出る臭気。
《装飾》 = 歴史、文化、世論
《スピーカー(メガホン)》 = 外部から強制的に与えられる情報。
《武器、兵器》 = 破壊 or 防衛、奪い去る者の象徴(敗者) or 正義の象徴(勝者)
《ガスマスク》 = 外部から身を守る道具。
《鎖》 = 強制的な強い束縛
《身体にまとわり付く服以外の布》 = 思いやりなど優しさからの束縛。
《柵》 = 囲われた安全圏、囲われた強制空間(自分の意志を出させない場所)。
《物の上に被せられた布》 = 中身がわからない。 or 隠したい、忘れたい。
《波》 = 力強さ(大)、穏やかさ(小) or  全てを洗い流す存在(大) 
《都市》 = 関わりのない人が大勢住む場所。世の中の多数の常識。
《左右対称》 = 合理性を求めているが完全な左右対称ではない。(世の中に感じる矛盾)
《文字》 = 誰かに伝えたい心のメッセージ。
《炎》 = 情熱、怒り、決意
《花》 = 美しさ、希望

Q.すべての作品で3Dの様な、彫刻のような、奥行きと立体感があります。デジタルとアナログのハイブリットで作成されているとの事ですが、どのようにして描かれているのでしょうか。

アナログで原案 → 3DCGで下絵 → 印刷工房でジクレー → アクリル絵の具でエアブラシ&筆で手描きの手順で描いています。


「ヒトガタ参」 制作過程1

「ヒトガタ参」 制作過程 2

「ヒトガタ参」 制作過程 3

「ヒトガタ参」 制作過程 4

「ヒトガタ参」 制作過程 5

自分の願望や理想はどんどん口に出してみる


Q.国内外で広く活動されてらっしゃいますが、日本と海外の違いなどを感じることはありますか?

個人的には大きな違いは感じません。
もちろん国ごとに文化の違いはありますが、個人の考え方や性格の違いが大きく、それは日本人も一緒だと思います。強いて言えば言語が英語なのと鑑賞者から見て未知の文化圏なので作品説明が必要というぐらいです。

よく国内で日本のアートのここがダメだと耳にしますが、今はグローバルに活動している日本人は沢山いますし、アメリカなどは人種のるつぼなので、その中の一つの国籍に過ぎないと思っています。


貴方の翼

また、ギャラリーに関してもそれぞれジャンルや特色があり、国として括るのは難しく感じます。海外での活動で一番驚いたのは日本の老舗画廊さんが世界有数のメガギャラリーと取引やお仕事をされていた事です。当時日本のアーティストたちの間で古いアートマーケットの体質が悪害みたいな話をよく聞かされていましたが、あれは何だったんだろう?と今はそう感じます。

Q.普段制作活動をされているアトリエについて教えてください。

仙台の実家で制作をしています。3つのスペースに分け、
・寝室兼デジタルスペース。(限界がきたら即寝れる。)
・エアブラシやスプレーガンを使う大きめな倉庫に換気扇をつけたスペース。
・筆塗りなどのアナログ作業部屋の3箇所に分けて使っています。


アトリエ

作品が白黒なので埃が入るとすごく目立つので、後者2つの部屋は制作中に埃が入らないように、ブロアーで作業着の埃を落としたり、水を入れたスプレーガンで空気中に舞っている埃を落としたりなど徹底管理しています。


OLYMPUS DIGITAL CAMERA

Q.今後、作家として挑戦したいことはありますか?

街中の空中に巨大な立体動画を投影して作品のキャラクターを音楽とともに行進させたいという憧れがあります。現在の技術では空中に巨大な3D投影はまだ難しいのですが、どんどんテクノロジーが進歩しそろそろなのではとワクワクしています。

また、オリンピック開会式のドローン3D投影は盲点で度肝を抜かれ感動しました。新宿東口の巨大猫などの擬似3D湾曲ディスプレイもとても興味があります。


歴史

Q.最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。

自分の願望や理想はどんどん口に出してみる。
誰かが叶えてくれたり協力してくれます。例えば授業中に消しゴム貸してと友達に言えば大概貸してくれると思います。それと一緒でそれを簡単に出来る人の耳に入ると協力してくれる可能性がぐんと上がります。もちろん、協力するだけの価値があるかどうか?本当にできるのか?など判断されると思います。なので自分が今できる範囲の願望を口にどんどん出して見るのもありかな思います。

上記のように歳をとると老婆心からついついいらん事を言ってしまいがちですが、自分の時代を生きて!見てきた事も経験ももったく違う時代を生きています。余計な意見に振り回されず自分の時代をしっかり生きて活動してください!

Q.今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。


私達ハ私達ダケノ装飾ニ乗リ、誰カ
ラモ妨ゲラレル事無ク人生ヲ歩ム。

今どきアート The5Arts
会期|2021年 7月3日(土)-8月27日(日)
時間|9:30-17:00 (入館は30分前まで)
休館日|月曜日(8月9日は開館)、8月10日(火曜日)
入場 | 一般600円/大学・高校生400円/中学生以下無料 
会場|富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館

THE LITTLE PRINCE  75th Anniversary Group Show
会期|2021年 8月14日(土)-9月17日(金) 
入場 | 無料 
会場|COREY HELFORD GALLERY(ロサンゼルス)
HP|https://coreyhelfordgallery.com