画家・紺野真弓「デジタルイラスト的な表現をキャンバス上で試みる」-ARTFULLインタビュー

2020「Distance 1」405x250 キャンバスにアクリル

人によって見えている形に生じるズレやそれによって生まれる他者との隔たりなどを 、まるでデジタル上で描かれたように表現する紺野さん。

それは、 国内海外問わずよく言われていた ”ある感想”があったから。

画家・紺野真弓さんに詳しくお話をうかがいました。


2020「Distance 1」405×250 キャンバスにアクリル

紺野真弓 / Mayumi Konno

1987年、宮城県生まれ。
2014年より独学でアクリル画をはじめ、2015年から作家活動を開始する。
イラスト的な女性像を主なモチーフとして、デジタルイラストに使われるレイヤー効果のような表現をアクリル画に取り入れるなど、人工的で多層的なイメージを描く。
展示で作品を発表するほか、装画や楽曲のアートワークなども手掛けている。


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また絵を描いて生きていこう


Q. 画家を志したきっかけを教えてください。

幼少期より絵を描くのは好きな方で、高校の頃まではゲームのキャラクターデザイナーに憧れていたのですが、その後は絵とは関係のない道へ進み、ほとんど絵を描かない時間を過ごしました。

2014年頃に改めて自分の今後について考える時間があり、そこでまた絵を描いて生きていこうと思い至りました。その頃はまだ絵でどういう活動をしていくかは具体的に決めかねていたので、デジタルで描いた絵を発表しながら色々と模索していたのですが、ギャラリーから展示のお誘いをいただいたことをきっかけに作家としての活動の形と出会い、自分のやりたいことと合っていると感じてこの道を進むようになりました。


2020「Shape 1」457×610 キャンバスにアクリル

Q. ご自身の活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

活動において影響を受けたというよりは、ものの見方などにおいて、子供の頃から好んで読んでいた星新一のショートショート作品や学生の頃に出会ったルネ・マグリットの作品などからは大きな影響を受けていると思います。また、もともとゲームのキャラクターデザイナーに憧れていたこともあり、「FINAL FANTASY」などをはじめとしたゲーム作品のキャラクターイラストはベースになっていると思います。


2021「悪戯書きⅤ」 203×203 キャンバスにアクリル

自分の中で表現したい形に手が届いたような感覚


Q.作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

絵を再び描き始めてから半年ほどで作家活動を始めることになったのですが、作品を作りながら表現方法や軸となるようなものを少しずつ探っていくような感じでした。


2021「途切れ途切れⅢ」400×400 キャンバスにアクリル

2018年に制作にデジタルツールを取り入れたことやイギリスへの二度目の転居などの環境の変化が重なり、自分の作品の作り方を改めて考え、その頃にデジタルイラストのレイヤー効果のような表現を取り入れた作品を作り始めました。その時自分の中で表現したい形に手が届いたような感覚があり、そこから今の作品へと続いています。今思い返すとその頃の変化がひとつのターニングポイントだったと思います。


分かりあえなさ


Q.現在の作風には、どのような変遷を経てたどり着いたのでしょうか。

作家活動をはじめた頃から様々なモチーフ(額縁、ハサミ、切り花、リボンなど)を使って、見えている世界を切り取ったり加工したりするイメージを表現しようと試みていたのですが、表現できていない部分があるというか、自分の中で意味づけしているだけになってしまっているのではという思いがあって、より作品を見た人に伝わるような表現を模索していました。


2020「Monochlome Ⅰ」220×273 キャンバスにアクリル

そんな中私の作品がどのように見えているのかを考えた時に、国内海外問わずよく言われていた「デジタルの作品だと思った」という感想に何かヒントがあるように思いました。多くの人がその点から強い印象を受けているのなら、デジタルのような絵でどんなモチーフを描くかではなく、デジタルイラストのような表現それ自体によってもっとコンセプトを伝えられるのではないか?と考え、デジタルイラストで使われるレイヤー効果などの表現をキャンバス上で試みるようになり、今の作風に至ります。

どのような形で表現するのかは常に試行錯誤を繰り返していますが、それぞれ見えている世界は違っていて、それゆえにある分かりあえなさというのはテーマの根底にずっとあるものだと思います。


2019「Empty 1」406×508 キャンバスにアクリル

Q.女性の顔面にジグザクの斜線が書き込まれていたり、抱えられたテディベアがブレている作品が多いですね。こういった効果はどのような意図があって追加されているのでしょうか。


2020「Images Ⅳ」457×610 キャンバスにアクリル

人は無意識に(時に意識的に)フィルターを通したり一部だけを切り取ったりして物事を見ています。同じ場所に生きていても、見えている世界は同じではありません。

モチーフに重ねられたレイヤー効果のような表現は、物事を見る際にかかっているフィルターや、人によって見えている形に生じるズレ、またそれによって生まれる他者との隔たりなどをレイヤー(層)として表現したものです。


2019「Eraser 1」180×240 キャンバスにアクリル

画像編集ソフトのブラシツールで塗りつぶしたり消したりしたような形は、見えている色や形が人によって加工されているというイメージを強調しています。

Q. こちらをじっと見つめる謎めいた女性をお描きになられていますね。紺野さんの描かれる女性にはモデルがいらっしゃるのでしょうか。

モデルはいません。

特定の人物ではなく、画像編集ソフトやアプリで加工した写真やイラストなどのように整えられたイメージとして描いています。


2020「Images Ⅱ」 356×457 キャンバスにアクリル

「謎めいた女性」と見えるのは、人物をひとりのキャラクターとして描いていないので、人物の背景や人間性のような部分が見えないからではないかと思います。

Q.紫を基調とした作品が多いですが、拘りなどありますか?

活動初期の頃は意識的にいろんな色を使おうとしていたのですが、だんだんとピンクや青の絵の具ばかりを選ぶようになって今の色になってきました。


2019「Images 」457×610 キャンバスにアクリル

Q.まるでデジタルイラストのレイヤー効果のような表現で描かれていますが、どうやって描いているのでしょうか。

デジタルイラストのように地の絵に色を重ねているわけではありませんので、そのままの色でキャンバスに一層で描いています。レイヤーの部分を先に描いてしまうこともありますし、全体を同時に描くこともあります。

制作過程1

制作過程2

制作過程3

制作過程4

どのように受け止められるのかをより意識

Q. 海外のアートフェアにも参加されたご経験があるようですが、日本と海外の違いなどを感じることがあれば教えて下さい。

海外での展示では日本国内で展示するときよりも「日本の作家」として意識される点でしょうか。

日本では私が日本で生まれ育ったということが注目されることはあまりありませんが、海外ではそれは私を説明する上でひとつの大きな要素となります。

海外での展示の経験から、私の作品がどのような背景を持って生まれ、どのように受け止められるのかをより意識するようになったと思います。


2021「Nothingness Ⅲ」 273×273 キャンバスにアクリル

Q.普段制作活動をされているアトリエについて教えてください。


住んでいるところの写真

今は自宅の一室で制作しています。引っ越しや移動が多く、場所によって元から置いてある机や椅子を使ったりもしますので、あまりこだわりはないです。


作業部屋の写真

基本的には持ち歩きできるイーゼル、筆、絵の具があればどこでも描けます。あとは下絵を描く時や小さな作品を描くときに卓上イーゼルを使うこともあります。


使っている画材等

少しずつ自分の形を作っていくこと


Q. 今後、作家として挑戦したいことはありますか?

作家としてはこれからも引き続きひとつひとつの制作に取り組んでいくだけだと思っています。

個人的には最近は3DCGを勉強したりしているのですが、他にも色々なツールや画材など新しい感覚に触れていきたいと思っています。


2019「Filter 2」 410×273 キャンバスにアクリル

Q.最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。

いろんな物事や視点に触れて、少しずつ自分の形を作っていくことができればいいと思います。


2020「見えるもの見えないもの 1」305×305 キャンバスにアクリル

今はSNSやインターネット上で他の作家の情報や活躍が大量に流れ込んできます。人と比べてしまうことや焦ってしまうこともあるかもしれませんが、回り道や無駄だったように思える時間も、それを選んだということが自分を形成するひとつの要素となると思いますので、大切にしてほしいと思います。

Q.今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。


2020「Distance 2」405×250 キャンバスにアクリル

2022年1月 グループ展/東京

2022年3月 グループ展/パリ

2022年3月 グループ展/東京

2022年5月 個展/東京