彫刻家・勝木 杏吏 「 一目で目を奪うような彫刻を」 -ARTFULLインタビュー-

青く、どこまでも深く青い“鉄”。
金属を水面のように光り輝かせる彫刻家、勝木 杏吏さん。

今回は、 金属の表面を磨いた後に炙って色を付ける独自の手法にて作品制作をしている勝木 杏吏さんに、彫刻家を目指すまで、作品制作について、現在の活動について詳しくお話を伺いました。



勝木 杏吏

東京生まれ
国立音楽大学附属高等学校 卒業
多摩美術大学彫刻学科 卒業
多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程 修了

【公式HP】【twitter】【Instagram】



音楽から美術の道へ、そして彫刻との出会い


Q. 作家、彫刻家を志したきっかけを教えてください。

3歳の時、公園で有料の似顔絵を描いている人を見て衝撃を受けて以来、憧れて真似をして絵を描き始めました。

小学校から高校は音楽の学校に通っていたのですが、美術の道への憧れから進路を変更し美術大学への進学を決意します。
その段階として通っていた予備校で初めて彫刻(人の頭部の塑造でした)に触れ、自分に1番合う分野と感じたので彫刻の道へ進むことを決めました。

美術大学に入学してからはただがむしゃらに頑張ってました。その時に制作した作品がネット上に残っており、後にそれを見たギャラリーなどから声を掛けていただき、今も作家活動を続けていられます。


Q. 現在の作風までの歴史、経緯などありましたら教えてください。

大学で学内展などを経験していくうちに、絵画やデザインに比べて彫刻に目を止める人が少ないことに気付かされ、一目で目を奪うような彫刻の製作に力を入れます。なので危ういバランスで自立させる事が多かったです。

「これどうなってるの?」と思わせれば目を止めて貰えるので。それさえもないと作品と鑑賞者の間に対話すら生まれないと思っていました。(たいした造形力もなかったので)

その後、危ういバランスに+して綺麗なものを追求するうちに青い鏡面が生まれました。初めは何となしに作っていたのですが、たまたま作業場を通りかかった他学科の先生が「これ何?」と興味深そうに眺めており、素材を超越した魅力が出せているのではと思い、以後作品に取り入れるようになりました。



“金属” “鉄”に心を奪われて


Q. “金属”の一番の魅力、勝木さんが思う一番惹かれている点はなんでしょうか?

何でもできるところです。便利な車も電車も、戦う武器も鉄です。そういうところに可能性を感じており心奪われています。


Q. 勝木さんは青色、藍色が全ての作品や表現の根底にあると思ったのですが、こちらいかがでしょうか?

東京生まれ東京育ちなのですが、実家の目の前が川だったり、少し離れれば深い川もあって幼少期からよく遊んでいたので、作品を作る時によく川での事を思い出します。川=水=青と繋がるので根底に幼い頃のその記憶があると思います。

それと泳ぐ事が大好きで、海ではダイビングもするのですが、潜った先の深海は宇宙に繋がっているような気がします。そのような未知で神秘的な深い青さの海と、鉄で作り出した深い青さは自分の中では一致しています。空と海は自分の中の深いテーマです。



Q. 反対に“金属”を扱う事の苦労や難しい点などはありますか?

重い、錆びる、加工が難しい、お金がかかるなどなど沢山悩みがあります。
なので金属で作家活動を続ける人はかなり少ないと思います。

火を使うのでそれなりの設備がいるのですが、火が使えるようなアトリエを探したら相当限られてきますし。

それと、私が行っている鏡面は時間が経つとすぐにではないのですが少しずつ錆びてきます。(まだ錆びた連絡はないですが)錆も含めて鉄の魅力なのですが、ずっと綺麗なものを求められる方も少なくないので、その相違が生まれた時のことを考えると、高額なステンレスに変えて行かなければと考えています。
ただ、鉄なので何度でも再生できて綺麗になるので、生きてるうちは作品メンテナンスしますが。



制作について


Q. 制作過程について教えてください。

鉄板を溶断して表面についている黒皮を剥がし、その後削ったり磨いたりしてますが、平面を磨くのはとても難しいしお金がかかります。

その後青色にする工程も難しいので、失敗して磨き直しする時はもうやめたい……となります。



Q. 床置きの作品(画鋲のような形のもの)は、宙に浮かんでいるように見せるという試みでしょうか?

もう一つの水平線を作ることで、もう一つの世界を作り出し、異世界、過去、未来など、見る人によりその解釈が異なるのが面白いと思い作りました。


いしころあそび

私にとっては過去を繋ぐものだったのでタイトルに「記憶」と付けたのですが、実際は睡蓮と言われる事が多く、気がついたらタイトルが「睡蓮」に変えられていたこともありました。

しかし、この作品はそこまで考えずに見ても、作品が大きいので鑑賞者が作品に入り込んでしまうのも魅力の一つだと思っています。


記憶

Q. SNSにて作品のご購入者様への配送への気配りが素晴らしく、作品への想いを感じました(手袋やメッセージを入れる、壁掛けの工具を入れる等)、勝木さんのこだわりなどお聞かせいただけますか?

もともと不器用で気が利かないタイプなので、気配りが素晴らしいと言われるとお恥ずかしいのですが……

一つずつ丁寧にお客様(友人や関わる人もそうですが)と関わるようにしています。

同世代の尊敬している作家を見ていると、作品だけではなく人としても素晴らしいので、私もそのようにありたいと思い、模範しています。


どこで活動していても、今はSNSを通じて色々な人が作品を見てくれる


Q. 作品のインスピレーションはいつ、どのようなときに浮かびますか?

普通に生活をしていてふとした瞬間に浮かびます。

生活の中に彫刻が存在することで空間が変化するのが好きなので、生活空間と共に思い浮かべる事が多いです。
野外彫刻なら、人が行き交う街中など。

学生の頃は期日にプランニングを提出しなければいけなかったのですが、プランのストックがあるタイプではなかったので苦労しました。期日は過ぎたく無かったので徹夜して絞り出して提出していました。



Q. 普段制作活動されているアトリエについて教えてください。

アトリエは毎月借りていません。他の仕事などで忙しいので、長期休暇が取れる時などに友人の伝でアトリエお借りする形で今はやっています。

しかし来年度からはまた変えていこうかなと思っています。

金属なので自宅兼アトリエは相当厳しいんじゃないかなと思います。

場所があったとしても、危険物を扱うので管理を一人で行うとなると怖いです。



Q. 大阪と東京で活動されているということですが、地域によってアート活動する上で感じる差、違いなどはありますか?

東京も大阪もそれぞれカラーがありますが、語るほど知り尽くしてはいないので何とも言えませんが…どちらも大好きです。

私は東京の知り合いがほとんどなので展示をするなら東京がいいなとは思いますが、今の時代はSNSで見かけて来てくれる方も多いと思うので、そういった意味ではどちらで展示をしても色々な人に会えると思うので楽しみです。

何年か前までは新規のお客様となると、相当なアートファンでギャラリー巡りなどをしている方といった感じでしたが、今はSNSを通じて色々な人が作品を見てくれるので本当に嬉しいです。


藍染石(壁掛)

たくさんの人が行き交う場所にドカンとピカピカな彫刻を


Q. 今後、作家として挑戦したいことはありますか?

もともとインテリアやファッションも好きなので、家に置いたら生活が面白く変化するような作品を作っていきたいのと、身に付けるもの、主にアクセサリーなども少しずつ作っていけたらと思っています。

それからパブリックアートが好きなので手掛けられればなと思います。病院や公園に設置したことはあるのですが、駅など、より人が行き交う場所にドカンとピカピカな彫刻を存在させたいです。


Q. 最後に、アートフル見ている作家達に向けて一言お願いいたします。

先日、大学を出たら彫刻家でやっていきたい、という熱い意志を持った学生さんと話をしたのですが、その時に私はあまり明るい話を出来ませんでした。

彫刻は絵画やデザインに比べ圧倒的にコストがかかるので続けるのが難しく、みんな辞めてしまいます。私の同級生や先輩後輩を見ていても続けている人は多くないです。

大学一年生の時に講義で来た女性作家さんが
「私は展示の予定がないと辞めちゃうと思ったから、大学卒業後の日程に展示を入れておいた」
と言っていたのがずっと頭に残っていたのですが、今となっては本当にそうな気がします。というか自分がそうでした。

私は大学院修了と同時に就職が決まりそのまま働いていたのですが、仕事が忙しくて作品を作る気にはなりませんでした。しかし幸運にもギャラリーから展示の誘いがあり、これをやらないと辞めるだろうなと思い、誘われたら必ず展示をするようにしていました。
別にその時売れたわけでもなく、ただお金が減っただけだったのですが、のちにその展示の写真を見た人から購入依頼があったり他のギャラリーからも声がかかったりなどしたので、今となってはやっておいて正解でした。

大学を出て10年近く経ちますが、同級生で売れている人達はそれぞれずっと制作を続けています。10年間自分が信じたことを続けるにはそれなりの覚悟がいります。でも続けてないと先の光景を見ることは絶対に出来ません。

大学時代から売れている人、あるいは大学を出てすぐに売れる人は本当に一握りなので、その段階で諦めるのはもったいないです。
少しでも情熱があるなら続けてみるのも良いのではないかと思います。
画家に比べて彫刻家は圧倒的に少ないので需要ありますし。

何より私は憧れている人達と関われることに幸せを感じます。

長くなりましたが、少しでも希望になればと思います。

勝木杏吏