今井アレクサンドル「作品を描く事は僕にとっては呼吸」-羽田沙織インタビュー-

1980年代から数多くの有名企業をスポンサーに、ライブペインティングや商業施設のディスプレイなどアートイベントのプロデュースを積極的に行ってきた今井アレクサンドル。

アンフォルメの代表的な画家である今井俊満を父に持ち、高校卒業後にはロンドンへ渡り有名写真家、デビット・ベイリーに師事する。

そして今回、下北沢GALLERY HANAで開催中の展覧会『CANNONBALL-ぼくたち-』を訪問し、展覧会についての展望と自身のアートに対する想いを、フリーアナウンサーでアートエバンジェリストとして活躍する羽田沙織がインタビュー。


インタビュー中の今井アレクサンドルさんと羽田沙織 GALLERY HANA(下北沢)店内

絵を描く事は僕にとっては呼吸


熊をモチーフとした作品

(羽田)今回の個展『CANNONBALL-ぼくたち-』では可愛い熊がモチーフになっている作品が多く出品されていますが、どのようなコンセプトがあるのでしょうか。

(今井)熊のモチーフはたまたま。熊は売れるのよ。1,000枚位売れたよ。
僕は多作だから作品はバンバン出来るんです。だけどその時にイメージやモチーフを考えてる段階でアウト。作品を描く時にこう描こうとかじゃない。出来ちゃうんですよ。

(羽田)それはイメージが浮かんでくるという感じなのでしょうか。

(今井)いや、もう呼吸ですよ。呼吸なんですよ。

(羽田)呼吸。呼吸って凄いですね。

(今井)そう。だから作品を毎日100枚は描きます。それは何でも描きますよ。作品の注文が入った場合、それが車だったり、人の顔だったりしても何でも描きますよ。

(羽田)毎日100枚描くっていうのは、素人目線では描く事が本当に嫌になっちゃう気がするのですが、そういった事はないのでしょうか。

(今井)ないない。呼吸だもん。だって食べるでしょ。寝るでしょ。それと一緒。だから家のベッドの脇には絵の具と紙が置いてあって、起きたら直ぐ描ける。サボんないように。

(羽田)起きて直ぐに何が浮かぶのでしょうか。

(今井)分かんない。浮かばない。でも出来ちゃう。

(羽田)眠いなと思いながらも筆を持つと作品が出来ちゃうんですか。

(今井)そう。絵描きって自分が無いんです。僕は自分が無い。だから出来ちゃう。絵を描いて売るだけで、もう自分自身って無いんです。『(作品を )買ってって。1枚でも買ってって』ってそれだけです。後は何にもないですよ。絵だけですよ僕。

(羽田)それでは作家にとって絵を売るとはどういった事なのでしょうか。

(今井)評価ですよ。僕の評価。だから作品を買わないでFacebookで”いいね”だけ付けて貰っても、しょうが無いんです。作品は買って貰ってなんぼです。売れた数が僕の評価ですよ。

必死だから、作品を売る為に命を懸ける


不動明王をモチーフとした作品

(羽田)こちらの作品のモデルは何なのでしょうか。

(今井)お不動様。

(羽田)この作品は何か切っ掛けがあって描かれたのでしょうか。

(今井)神頼み。必至だから。絵描きは生きるか死ぬかで毎日絵を描いているから。そりゃアマチュアは違うけど、僕らは生きるか死ぬかですよ。

腰掛けの自称絵描きは一杯いるけど、僕らは本気だから。毎日展覧会、展覧会と必死なんですよ。だから作品を売る為に命を懸けているんです。
だって売れなかったらどうすんのよ。食べれないじゃない。必死なんですよ。

他の職業をやりながら絵を描いている人は知らないが、僕はこれ一本だから緊いんです。それで1憶、2憶と売らないといけないんです。売れないとギャラリーや他の誰にも相手にされないし。そしたら頑張るしかないんですよ。

(羽田)なかなか売れない作家や、絵描きで生計が立てられない作家も多いと思いますが、どうしたら良いのでしょうか。

(今井)売らないのよ彼らは。売れないんじゃない、売らないんだよ。土下座したって、人を殺したって売るよ俺。

(羽田)それだけの想いを持って作品を創作・販売されているのですね。今井さんは売れなかった時はどうされたのですか?

(今井)売る為に手段を選ばないよ。そりゃ言えない事もやりますよ(笑)だから売れるっていうのは奇跡なんですよ。

作品は誰でも買える。それが良いんです。


今井アレクサンドル

(羽田)今年に入ってコロナの問題がありますが、影響はありますか。

(今井)変わらない。儲かってる(笑)
だってコロナは関係ないじゃん。ピカソだって戦時中、ナチス占領下のパリへ絵を売りに行ったでしょ。藤田嗣治も軍人の絵を描いてさ。死ぬのが怖くないじゃん。そんなのどうでも良いじゃん。絵以外の事は。僕は死ぬ覚悟でやってるから。コロナを跳ね除けて。

絵が大事だからこうやって展覧会をやらせて貰って、助けて貰って、皆に買って貰って。それが幸せなんですよ。そんなコロナ如きで影響を受けるなんて、とんでもないですよ。

(羽田)それでは今後も勢力的に展覧会を開催されるご予定なのでしょうか。

(今井)今年は10月にまたこのGALLERY HANAでやりますよ。

(羽田)そうなんですね。しかし今も引っ切り無しにお客様がいらして、皆様作品を買われていかれていますね。

(今井)僕が一番嬉しかったのは、主婦が楽しい絵でも家に飾りましょうと言って3,000円で僕の作品を買ってくれたんです。それが凄く幸せだった。どういう意味かと言うと、子供がいて絵に3,000円って、やっぱり余裕がないですから。でも3,000円で買ってくれて。そういった普通の人が絵を買ってくれる事が楽しいの。それが嬉しいの。

(羽田)私もそうだったように一枚の絵を、家に飾る事から全ては始まると思います。

(今井)僕の絵は子供でも買えるんです。小学生には安く販売したり。ギャラリーって敷居の高い所が一杯あるじゃないですか。まあ高いのも良いんだけど。僕の絵の場合は誰にでも買って貰う。

(羽田)やっぱり作品が一つ家にあると、だんだん欲が出てきて、季節毎に絵を掛け替えたいなとか、そういった欲も出てきますよね。

(今井)日本は元々掛け軸文化でしょ。浮世絵とか。江戸時代の浮世絵は100円とか50円位ですよ。誰でも買えるんです。それが良いんですよ。

(羽田)普通の展覧会は、作品を綺麗に並べて、値段が決まっていてといった形式が普通だと思いますが、今井さんの展覧会では作品についてのお話を直接伺え、値段もフレキシブルで、作品も壁から外して手渡しで見せてくれる事に驚きました。

(今井)だって巨匠以外、高いのってあり得ねぇじゃん。ピカソやウォーホルは分かるよ。そうじゃなければ無名じゃん。無名の奴が何言ってんのって感じでしょ。そんなの買える訳ないじゃん。ピカソやウォーホルならしょうがないよ。それ以外どうだって良いじゃないですか。大したことないんだから。偉そうにしてらんねぇじゃん。

うちの親父は、アナーキーでダンディで少数派って言ってたんですよ。やっぱりそれが入っているんでしょうね俺にも。


『CANNONBALL-ぼくたち-』の展示風景 GALLERY HANA(下北沢)

今井アレクサンドル個展 『CANNONBALL-ぼくたち-』

会期:2020年 8月15日(土) – 9月7日(月)
開館時間:12:00-20:00
※最終日9月7日を除く月曜・火曜休廊 / 最終日は18:00まで
会場:GALLERY HANA
住所:東京都世田谷区北沢3-26-2
※下北沢駅 [小田急線 東口・京王線 中央口] 徒歩5分
電話:03-6380-5687

【HP】【 Twitter 】 【Instagram】

GALLERY HANA

今井 アレクサンドル / Alexandre Imai
1959年 パリ生まれ

今井アレクサンドル

アンフォルメの代表的な画家である今井俊満とオーストリア人の母の間に生まれる。5歳までパリで過ごし、日本へ帰国。

高校卒業後、ロンドンへ渡英し有名写真家、デビット・ベイリーへ師事。帰国後、1980年代から有名企業をスポンサーに、ライブペインティング、商業空間のディスプレイなどアートイベントを多数開催。多くの受賞歴や展覧会を開催するほか、「ブースカ東京散歩」などブースカシリーズの写真集の出版も行う。

【Twitter】【Instagram】【Facebook】

羽田 沙織 / Saori Hada
フリーアナウンサー / ラジオDJ

羽田沙織

元NHK宇都宮局キャスター、元ZIP-FMナビゲーター。
ボートレースJLCアナウンサー、テレビ埼玉「ようこそ埼玉市議会へ」、FM世田谷で活躍中。

アートが好きで美術館やギャラリーへ足を運ぶ一方、アートライターやアートエバンジェリストとしての活動も行う。
FM世田谷で毎週土曜日放送『サムディ プティ シエル』ではパーソナリティを努め、その中でアーティストやギャラリー紹介のコーナーを行う。

【HP】【Twitter】【FM世田谷】