画家・松山しげき「作品の共通テーマは”現代人”」-ARTFULLインタビュー-

アーティスト・松山しげき「作品の共通テーマは”現代人”」-ARTFULLインタビュー-

白と黒。その流線形の独特の模様が、松山の作品を強烈に印象付けます。一瞬で視界を覆い、目を奪われてしまうその模様にはどのような思いが込められているのでしょうか。

今回は、国内外でインスタレーションや平面作品を発表し活躍するアーティスト・松山しげきさんに、これまでの作品の変遷や、作品を通して考える思いなど、詳しくお話を伺いました。


松山しげき

松山しげき / Shigeki Matsuyama

1973 静岡生まれ。現在は神奈川県在住。
1998 イラストレーターとして広告やプロダクトのイラスト制作を行う。
2011 アーティストへ転向。
タブローやインスタレーションを中心に個展やグループ展等で作品発表を行う。

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現代人の生活変化と心理的影響


Narcissism : Dazzle room

Q.アーティストを志した切っ掛けを教えてください。

はっきりとした切っ掛けは覚えていませんが、昔から絵を描くことが好きだったので「絵を描くことが仕事になったらいいな」という思いはありました。

Q.ご自身の作家活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

子供の頃から映画が好きだった事もあり、実相寺昭雄監督やスタンリーキューブリック監督からは、特にビジュアル面での影響を受けていると思います。


Object

Q.松山さんの作り出す作品は、一瞬で脳裏に焼き付くインパクトがあり、観る人の感覚へ直接的にアプローチしているように感じました。作品のテーマやコンセプトを教えてください。

僕の作品に共通するテーマは「現代人」です。ネットやスマホの普及による現代人の生活の変化と、それが心理に及ぼす影響など、身の回りの事象からインスピレーションを得て作品として表現しています。

特にダズル迷彩シリーズでは、近年利用率も高いSNSの様な、写真や動画を目で見る事で情報の伝達を行う「ビジュアルコミュニケーション」に焦点を当て、「見た目」を騙すダズル迷彩を使いインパクトの強い「目を引く」作品にする必要がありました。


松山しげき

Q.松山さんの作品の多くに施されている「ダズル迷彩」について、魅力や表現したいこと、伝えたい思いなどあればお聞かせください。

ダズル迷彩とは、第一次世界大戦で艦船に用いられた迷彩塗装で、ダズル(幻惑)の名の通り、人の目を惑わす事を目的として採用されました。

レーダー技術の無いこの時代、敵艦への砲撃は目視の距離計を使い狙いを定めていたのですが、砲撃を成功させるには敵艦の進行方向や距離を正確に把握する事が重要です。


NTT docomo × rooms “Seen behind watching”

しかし、ダズル迷彩が施された艦船は、コントラストの強い複雑な柄のせいで艦船の形状の理解が難しくなり、艦船がこちらへ近づいているのか、逆に遠ざかっているのか分からず、砲撃が出来なくなってしまうそうです。

僕の作品では、このダズル迷彩をネット上のコミュニケーションに見られる差異や偏向のメタファーとして使用しています。

情報発信の在り方

Q.国内外で様々な作品の発表をされていますが、松山さんにとってターニングポイントになった作品はどの作品ですか?また、その作品に込めた思いをお聞かせください。

2016年制作の「Dazzle room」です。この作品は僕自身初めてのインスタレーション作品でしたし、鑑賞者の反応やSNSでの拡散、世界中のメディアからの取材依頼などとても多くの反響を頂きました。


Dazzle room

「Dazzle room」という作品は、インターネットが普及した現代において「情報の発信」は凄く簡単すぎるが故に責任感がなく、インターネットを通じて個人が発信する情報には発信者の偏向が含まれている可能性が高い、という事がコンセプトになっています。

Q.海外での作品発表について、難しい点や、新しい発見、今後挑戦してみたいことなどはありますか?

難しい点というと、作品自体よりも作品の輸送に関してや、企業やスポンサーがいる場合の外国語の契約書や打ち合わせ、現地での作業や画材の調達など、いつも何かしら大変な事はあります。



「今まで何をしてきたか」が重要視される国内に対して、「今何が出来るか」で評価してくれる海外では、僕の様なネームバリューの無いアーティストでもチャンスが多いので、そういう意味でもチャレンジのし甲斐がありますね。

肥大する承認欲求と匿名性

Q.「ダズル迷彩」をモチーフに描かれたインスタレーション作品の中で、大きな女性と自撮りをしている等身大の女性がいる「Narcissism : Dazzle room」という作品がありますが、こちらのコンセプトを教えてください。


Narcissism : Dazzle room

ダズル迷彩の施された部屋にいる人物は、ナルシシズムの象徴である大きな自分に紛れて存在し、スマートフォンでSNSにセルフィーをアップしています。


Narcissism : Dazzle room 制作風景

SNS中心でコミュニケーションが行なわれる現代では、いいねやフォロワー数などで素早く承認欲求を満たせますが、その手軽さゆえ「他者に認められたい」と思う気持ちがエスカレートし、誇大的な自己像「大きな自分」で更なる欲求を満たそうとします。

Q.インスタレーション作品を多く発表されている松山さんですが、人物モチーフの平面作品について、無表情でリアルな目だけが描かれているのがとても印象的でした。こちらもメッセージ性を強く感じるのですが、お聞かせいただけますか?


Portrait of dazzle

作品「Portrait of dazzle」は、SNSやブログなどインターネット上にアップロードされている無数のセルフィーやスナップなどの顔写真から、ビデオプロジェクターを使い「目」だけを正確にトレースし、肖像の輪郭はモデルとした実際の人物から、人種や性別、髪型、体型などを全く別の人間に描き変えることで、インターネットの匿名性や情報の不確かさを表現した「現代人の肖像画」です。


Portrait of dazzle 制作風景

「Portrait of dazzle」はインターネット上にアップロードされている実在の人物(の目)をモデルにしている為、この肖像画に描かれている人物は、鑑賞者の友人や家族、或いは鑑賞者自身かもしれないという可能性が示唆され、近年社会問題化しているデジタルタトゥーやディープフェイクなどを問題提起しています。

一生考え、そして「続ける」


NTT docomo × rooms “Seen behind watching”

Q. 作家人生の中で、挫折や困難を乗り越えた出来事などありましたら教えて頂けますか?

作家活動以外の部分では挫折や困難を感じる事もありますが、作家活動においては挫折とか困難というように感じたことはないので、この仕事が性に合ってるのかもしれません。

Q.今後、作家として挑戦したいことはありますか?

子供の頃、友達とVHSビデオで特撮映画を撮って編集して遊んでました。今も映像にとても興味がありますので、いずれ何かしら映像を使った作品を作りたいです。


Object

Q.最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。

僕自身も出来るか分からないので他人に言える様な立場ではないのですが、とにかく作家活動を続けること。

一言で「続ける」と言ってもこれは簡単な事では無いと思います。続ける方法は人それぞれなので自分で考えるしかないですし、これはおそらく一生考え続ける必要がありそうです。なので、僕も続けていけるよう頑張りますので一緒に頑張りましょう!


NTT docomo × rooms “Seen behind watching”

Q.今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。

2021年夏以降にパリ、ソウル、ベルリン、東京、仙台でグループ展等を予定しています。