まるで小説を書くように、人物像を膨らませ背景の設定を考えながら描かれた美しい女性たち。
画家・加藤美紀さんに詳しくお話をうかがいました。

加藤美紀 / Miki Katoh | |
1973年 | 埼玉県生まれ |
1996年 | 女子美術大学絵画科洋画専攻卒業、文具メーカー制作室に就職 |
1999年 | フリーのイラストレーターとなる(絵本、ポスター、装丁、CDジャケット、文具、挿絵など) |
2012年 | 現代美術家 天明屋尚プロデュースにて個展。本格的に画家活動を開始 以後国内外で個展グループ展多数 |
2018年 | 着物メーカー京朋とのコラボブランド「水玉椿」誕生 |
2020年 | 初画集「百花妖炎」出版(河出書房新社) |
【HP】【Twitter】【Instagram】 |
様々な出会いが繋がって今がある
Q. 画家を志したきっかけを教えてください。
幼稚園の頃の将来の夢は既に「えかきさん」でした。父が彫刻家で美術が身近だったこともありますが、アニメの影響が一番大きかったように思います。
毎日1冊、落書き帳がいっぱいになるまで女の子の絵を描き「うまいね」と褒められるのが嬉しくて描き続け…現在に至る、という感じです。
Q. ご自身の活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?
子供の頃は「銀河鉄道999」「風の谷のナウシカ」のアニメ作品に、インターネットがなかった高校時代は実際に観た展覧会全てに影響を受けていました。
特にポール・デルヴォー、アルフォンス・ミュシャ、マウリッツ・エッシャーが大好きでした。
大学時代は日本の着物や浮世絵、妖怪絵巻に興味を持つようになり、ステーショナリーメーカーに就職し四季の便箋などをデザインするようになってからは鏑木清方、土田麦僊、橋口五葉と、少しづつ今を形成する要素が取り込まれていったように思います。

Q.作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?
絵を描くことをやめようと思ったことは一度もありません。もし職業にしていなくてもどこかでずっと絵を描いていたと思います。
ターニングポイントというか運命の出会いは数回あります。
フリーのイラストレーターとなった時に一緒にお仕事した アンティーク着物店Ponia-pon の大野らふさん。ものすごくセンスの良い人で彼女の影響で着物沼にハマり、今着物の女性を描いているのは彼女がいてこそです。

そしてイラストレーターから画家に転身するキッカケをくれた現代美術家の天明屋尚さん。小学校の教室から突然高校の教室に放り込まれるような変化とプレッシャーがありました。様々な出会いが繋がって今があると思っています。
着物コアファンに見せても恥ずかしくない着物
Q. 美人画を描こうと思ったきっかけはなんでしょうか
今まで「美人画を描こう」と思ったことは一度もありません。
昨今の美人画ブームによって周りからそう呼ばれるようになっただけのように思います。
本人としては「作品世界の主人公を描いている」というのがしっくりきます。
Q. 古くからの日本美人というよりも、現代的な美しい顔立ちの女性を描かれていますね。モデルにしている女性などはいらっしゃるのでしょうか。
大学で人物を描いていた頃は実際のモデルさんがいたのですが、それだとどうしてもイメージする世界観を表現することができず、モデルさんを描くことをやめました。

物語の人物はどんな性格で、だからこの顔つきで、この服装で、何を思ってここにいる…と小説を書くように背景や人物像を描いています。
Q.振り返る妖艶な女性や、凛と佇む女性、そして猛々しく弓を構える女性と様々描かれていますが、彼女達が着用する着物の文様や色彩には、何か込められた意味があるのでしょうか。

着物の文様には意味があったり、季節を少し先取りしたり、目的によって色柄を選び遊んで着るのが普通です。その延長線上で絵の内容や主人公の性格によって絵柄の意味や色の印象を決めています。
例えば花なら、季節、花言葉、国花県花、物語や伝説などなど、いくらでも意味を纏うことができます。
そして着物のコーディネート。竹久夢二の絵がなぜあんなに魅力的なのか?という理由に「ファッションセンス」があります。着物コアファンに見せても恥ずかしくない着物を着せようと絵柄を考えるのが一番大変です。

アンティーク着物
Q.アンティーク着物の愛好家でいらっしゃるとうかがいました。アンティーク着物の魅力を教えて下さい。
日本が開国し海外の文化や新しい染料がドッと入ってきました。
明治まではそうでもないのですが、大正時代に入るとアール・ヌーヴォーやアール・デコ、ロシア・アヴァンギャルドなどの影響を受け、モダンでおしゃれで今見ても新しい和洋折衷の着物に変貌します。
派手で大胆な色柄、薔薇にオウムにお化粧道具、様々なアイテムが着物に描かれ、着物が最も面白い時代が大正から昭和初期の『アンティーク着物』と言われるものだと思います。
Q. お気に入りを何点かご紹介頂ければ幸いです。
ずっと貧乏でしたし(笑)
着るよりは描く方が好きなのでコレクションと言えるような名品は持っていないのですが、思い出深い着物を何点か。

着物沼にハマった初期のお気に入りや、海外の展示で着た着物など。その時の空気も思い出してキュンとします。
水玉椿
Q.2019年にコラボレーションブランド「水玉椿」を発表されていましたね。ご自身の描いた着物が絵を飛び出して、実際に袖を通された時のご感想をお願いします。

とても感激しました。着物の制作は出版業界とは時間の流れや常識が全く違います。もう永遠に着られないのでは?という不安を超えての完成でしたから何だか不思議な気持ちにもなりました。


初めて袖を通した人は私で、2019年の個展の時でした。京朋の担当者さんも『水玉椿』のロゴやグラフィックを作ってくれたデザイナーさんも来てくれて「可愛い!可愛い!」と自画自賛で褒め称えあいました。
(ちなみにまだ完成していない着物もあります。)
できることを増やし続けないと完成できない
Q.普段制作活動されているアトリエについて教えてください。
普通の部屋です。
大きい作品を描く時は大型イーゼルのある部屋で、小さい作品はパソコンも乗っている作業台の上で、資料を撒き散らしながら描いています。

小さな作品なので作業机で

Q. 今後、作家として挑戦したいことはありますか?
今までもずっとできそうにない課題に向かい合い続けている感じです。「もうできる!」と思うと次から次へと難題が現れます。描く為には描く以外のことも重要なので、本当に意表をついた方向から止めどなく…
常に既にある引き出しだけでは足りなくて、できることを増やし続けないと完成できない毎日です。正直苦しいです。
なのに朝から晩まで描いているのでマゾなのだと思います。これからもコツコツと、どうにか無事に完成させていきたいです。

Q.最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。
夢は声に出して言う!ということです。一人で成長し続けるのはとても難しいです。これから様々な出会いやキッカケで常に道を選択して行くことになります。夢を言葉にしているとそれを聞いた誰かが大なり小なりチャンスをくれます。
難しい課題やプレッシャーに真剣に対峙することで未知の才能が引き出される事が沢山あります。その為には自分の意思表示や決断はとても大切になります。お互いにがんばっていきましょう。
Q. 今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。

「大人の塗り絵プレミアム 着物姿の乙女たち」 など
グループ展「少女たちの領域2021」
会期| 2021.9.18~10/3
会場| みうらじろうギャラリー
「中島潔展」
会期| 2022.1.1~2/13
会場| 佐賀県立美術館
グループ展「鸞翔鳳集 Vol.7、Vol.8」
会期| 2022 . 1月 ~ 2月頃
会場| ギャラリーMUMON
グループ展「人形と絵の春展」
会期| 2022 . 3月頃
会場| 丸善丸の内本店4階ギャラリー
個展予定
会期| 10月頃