YASUKA.M

鉄錆師・YASUKA.M「朽ちて・還り・循環する郷愁に想いを込めて」-ARTFULLインタビュー-

鉄の錆を多彩な表現で描く鉄錆師・YASUKA.Mさん。
その作品は鉄の持つ硬質な感覚というよりも、どこか温かみがあったり、詫び寂びといった情緒的な表現が浮かんできます。

今回はYASUKA.Mさんに素材としての「鉄」との出会いや、作品に込める思いなどを詳しく伺いました。


YASUKA.M

YASUKA.M
東京都生まれ

YASUKA.Mの作品は一枚の鉄板を酸化させ、鉄の地肌と錆の濃淡のみで創られる。

幼い頃より芸術の道を歩み、大学で彫刻を学び、素材の持つ美しさに感銘を受けて以来、その良さをより引き立たせる作品創りを心掛けている。その為素材を中心とした制作体制をとっており、素材の内側から良い表現が生み出される様にサポート役としている。

完成した作品は、まるで彼女と素材との間にしか聞こえない対話が具現化した様である。

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錆びた状態こそが自然界での本来の姿



Q.作家、画家を志した切っ掛けを教えてください。

物心ついた頃にはもう絵描きになりたいと思っていました。
絵を描く事が大好きで、何かを表現できる事が楽しく、その時のワクワクする気持ちを大切にしています。

Q.鉄板を酸化させ、鉄の地肌と錆の濃淡のみで作品を制作するとのことですが、具体的にどのような手順で制作されるのでしょうか?

具体的な制作技法は非公開です。
鉄板を薬品で錆びさせる時もあれば、自然に任せて錆びさせる時もあります。
また、元々錆びている古い廃材の鉄を用いる事もあります。



Q.YouTubeでも作品制作過程などを投稿されているのを拝見させて頂きました。とても細かく時間の掛かる作業のように感じましたが、1作品の製作時間はどのくらい掛かるのでしょうか?

大小で制作時間が変わるというよりも、どんな錆を用いるかによって制作に掛かる時間が変わります。

じっくりと時間を掛けないと発生しない錆もあれば、錆の酸化が進みすぎないように急いで完成させなければいけない錆もあります。



Q.YASUKA.Mさんは主に「鉄」を素材として作品を制作されていますが、なぜ「鉄」を素材に選んだのでしょうか?

今の作品に辿り着く切っ掛けとなったのが大学で木彫を専攻した事です。
鉄は無機質で作業工程も危険な事が多い為、好きになれず避けていましたが、ある時、自分の作品は鉄と木を融合させなければいけない様な気持ちになり、この二つの素材の関係性などについて調べました。

そこで辿り着いたのが踏鞴(たたら)製鉄でした。この製鉄法で創られる鉄は、山から採る多くの木々と砂鉄を原料としています。その為、誕生した鉄はまるで山が小さく圧縮した姿の様だと思いました。
人の手によって創られた鉄はやがて時が経つと錆びて朽ちていきますが、この錆びた状態こそが鉄の自然界での本来の姿であり、再び山に還っていく鉄の姿です。



この様に、一見共通点の無い異素材同士が物質変化する事によって繋がり、循環するサイクルを彫刻作品として創り始めました。
今の様なフラットな作品を創り出したのは卒業後で、NYで個展をする際に壁面に飾れる作品を依頼された時になります。平面作品でも自分の彫刻のスキルと知識を生かした作品を創るには、どんな表現が良いだろうかと思い、人工物である鉄が朽ちて自然界に還ってゆく想いを託して、鉄に発生する錆だけで絵を描き始めました。

欠損のある姿は生き抜いた証


Q.YASUKA.Mさんにとって「錆」の一番惹かれている点や、扱う上で難しい点はどこでしょうか?

鉄錆はわたしのソウルメイト素材だと思います。
そう思ってしまう程、とても相性が良いです。
分からない事や思った通りにいかない事ばかりでも、それが楽しくて仕方がありません。マイナスと思われる点の全てが愛しくて大好きです。

一から表現技法を見つけなくてはいけない難しさがある分、技法を開発できた時は大喜びです。着彩ではないので思った通りの色合いが出ない難しさもあります。



しかし、そのまま現れてきた錆の表情を用いるとより一層美しい作品を創る事ができ、そこから新しい技法を発見する冒険の様な楽しさがあります。
そして、物事に起きる様々な現象や、錆に対する負のイメージと向き合う事で、より深い世界から湧き出す想像を創造する事ができます。

昨年からは色彩も表現力も一層広がり、不可能を可能にできると証明できた達成感もあります。鉄錆のお陰で“願えば叶う”を地で行く様な作品を創る事ができて本当に嬉しいです。

Q.YASUKA.Mさんの作品は、風景や生物、植物など「自然」を連想させるモチーフが多く、美しくそしてどこか懐かしい作品に心を奪われます。作品を制作される上で、表現したいことなどございましたらお聞かせください。

コンセプトとしては輪廻転生や循環、郷愁の想いを込めている事が多いです。また、モデルとなるモチーフは道端や森で拾ってくる事もあり、傷や汚れなどがある際にはそのまま写し取って描きます。

欠損のある姿は生き抜いた証であり、その姿こそが美しいと思います。
彼等の姿を誇りに思い慈しみと感謝を込めて、消えることのない美しさを描いています。



伝統的な鉄の文化にも貢献したい


Q.作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

現在の作風に至る前、全く作品を創る事ができなくなった時期がありました。
素材そのままの姿が美しすぎて、わたしが手を加える理由が見つからなかったのです。

今の作風に辿り着いてからは、どんどんイメージが湧いて作品を創り続ける事ができます。



Q.ご自身の作家活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

最近の作品制作で一番影響を受けているのは自然の理や歴史などです。特にわたしの作品は、盆栽やガーデニングと通ずる点が多いと思います。
良い表情が生まれるように環境を整えるのがわたしの仕事と思っているので、サポート役に徹しています。

Q.普段制作活動されているアトリエについて教えてください。

自宅で制作しています。
大きな作品も創れる様に、可能な限り家具は置かずに広いスペースを確保できる様にしています。
また、光の干渉でかなり表情が変わる為、アトリエはグレー・白で統一する様に意識しています。



Q.今後、作家として挑戦したいことはありますか?

錆は劣等・劣化の象徴とされていますが、わたしはそうは思いません。愛情を注げば注ぐ程、互いに向き合った時の流れが美しい錆となって現れます。錆=悪いもの、というイメージを覆したいと思います。

鉄錆の世界は奥が深すぎるので、これからも引き続き様々な技法を編み出していきたいと思います。
そうして誕生した技法で日本に受け継がれている伝統的な鉄の文化にも貢献したいです。現在、日本刀や鉄瓶に錆の絵を施す実験を進めています。



Q.最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。

誰に何と言われようとも、自分の作品を愛し通す創造家としての強さとプライドを持っていると、作品がとっても喜んで素敵な出会いを沢山運んできてくれます。

自分の心に宿ったビジョンを具現化できるのはあなただけです。
他の人では決して創ることはできません。
誰かと比較して落胆しないでください。

そして確定申告やお金の管理も忘れずに…笑

Q.今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。

個展 開催予定
<2021年>
6月 奈良県
11月 東京都

<2022年>
広島県

展覧会の詳細や新作紹介はSNSで発信しておりますので、もし宜しければご高覧頂けましたら幸いです。

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