画家・小林 望美 「モザイクアートは“破壊と再生” 」 -ARTFULLインタビュー-

モザイクアートで知られる画家・小林 望美さん、離れれば離れるほどに浮かび上がるモチーフ、でも細部に近づき凝視したくなるほどの美しさを放つ黄金色で縁取られたモザイクの粒たち。

今回はこの不思議な魅力をもつ“モザイクアート”の原点、小林さんの作家活動、作品に込める想い、制作過程などについて詳しくお話を伺いました。


小林 望美

小林 望美

1991 茨城県生まれ
2014 群馬大学教育学部芸術・表現系美術専攻 卒業​
2016 彫るモザイク画での表現活動を開始

[ 受賞歴・メデイア ]
2019 月刊美術6月号「藝術集団 ARTpro」のエッジィな個性派×7
2018 BSフジ「ブレイク前夜」(youtubeにて動画公開中)
2017 第2回星乃珈琲絵画コンテスト 佐藤俊介審査員優秀賞
2017 美術の窓6月号「新人大図鑑2017」期待のホープ365名を一挙紹介!/Art
Mall推薦作家
2016 KENZAN2016 LOWER AKIHABARA賞

[ 主な展示歴 ]
<個展>
2019 「ジェネリックラブ」八犬堂(東京)
2018 「夜底の惑星で、」Art Mall(東京)
2017 「心辺(こころべ)に座礁」Art Mall(東京)​

<アートフェア>
2019
「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2019」 福岡三越(福岡)八犬堂
「Infinity Japan Contemporary Art Show」Royal Nikko Taipei(台湾)八犬堂
「ART EXPO MALAYSIA」MECC Kuala Lumpur(マレーシア)八犬堂
2018
「ART FAIR TOKYO」(東京)八犬堂
​その他、百貨店や企画画廊を中心としたグループ展多数

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「首都高渋谷3号線」
2020

F8楕円/H45.5×W38.0(cm)
木製パネル、アクリル絵の具

自他の表裏一体な関係性を”誰にでもなれて、誰でもない肖像”で表現したい


Q. 画家を志したきっかけを教えてください。

私は音楽、映画、小説、漫画やアニメ、それらのおかげで自己否定の沼にはまらず、少しずつ前向きに生きてくることができました。

いつしか自分も他者へポジティブな働きかけをしたいと思うようになり、慣れ親しんだ絵を手段に表現活動をしています。


Q. 現在の作風までの歴史、経緯などありましたら教えてください。

もともとは、世間が”普通”とする物事への個人の疑問や葛藤を写実絵画で表現していました。

私は生まれつき、太田母斑と呼ばれる先天性の痣が顔や眼球広域にあり、中学生の頃いじめに対する自衛から化粧を覚えました。肌色を作り普通(マジョリティ)へ擬態したのです。

このような身体的特徴や精神面、パートナーの肖像を作品にしていました。


「birthmarks」
2015
F40号/H80.3×W100.0(cm)
太田母斑を模した粒子状の斑点を、モデル(他者)が顔以外の部位に纏っている作品
「birthmarks」(2015)
部分拡大図

そんなある時「人と違うことを武器にしてはいけないよ」と指摘され、私はその言葉を”異なることこそ、あたりまえなのだ”
そう諭されたと解釈したんです。

恐らく誰もが何かしらの”世間的普通”に否応なく擬態し生きていると私は考えます。
そういった自他の表裏一体な関係性を”誰にでもなれて、誰でもない肖像”で表現したいと模索した末、現在のスタイルに至りました。


小林 望美の“モザイクアート”とは


Q. 現在の小林さんの代名詞でもある「モザイクアート」はどのようなものなのでしょうか?

鑑賞する際、作品と距離をとることで描かれているものが何なのかを思考したり、近くでは絵肌や金属色の細工を楽しんだりできる作品となっています。


「playing house」
2018
SM号/H15.8×W22.7(cm)
木製パネル、アクリル絵の具

Q. 「モザイク」に着目したきっかけはなんですか?

ある日、動画を編集していたら画面にブロックノイズが入ったんです。映っていた人々がみんな似たような服装だったので、誰が誰だかわからなくなって面白いな。みたいなちょっとしたことがきっかけでした。


「グンジョウシテイル Ⅲ」
2016
F0号/H14.0×W18.0(cm)
ミクストメディア

また、当時見た映画で、写真に映っている人物をピクセルになるまで拡大していくシーンがありました。とても印象深く、ブロックノイズもピクセルも、ある種モザイクだなと感じたんです。

それからモザイクに着目すると共に、自分が表現したいこととの関係や可能性について思案するようになりました。


人の視点の数だけ、新しい見え方や見解の可能性がある


Q. 描かれているモチーフは人物であったり、風景であったりと様々ですが、どのように決められているのでしょうか?


「ドリフター」
2017
ジャケット/H30.0×W30.0(cm) 木製パネル、アクリル絵の具
歓楽街を歩くカップル(画面奥)と老人(画面手前)

その時々の展示テーマに合わせ決めています。
基本は自身で撮影した写真を用いますが、カメラマンにシチュエーション撮影を依頼したり、パブリックドメインになった巨匠のマスターピースをオマージュしたりすることもあります。


制作メモ
「introduction」
「introduction」hocmage of Albrecht Durer
2020
F4号/H33.3×W24.2(cm)
木製パネル、アクリル絵の具
Albrecht Durer 「Adam und Eva」(1507)オマージュ
2枚1組の作品をあえて1枚絵にしつつも、中央の歪んだ違和感に個体差や性差といった現実的 な境界線を残し、モザイク画で”誰にでもなれて、誰でもない”個体差はあれど皆等しく「人間」 であることを表現している。

Q. 2人の人物が描かれているものなど、表情や細部が見えず、「どのようなシチュエーションなのだろう?」「どんな関係性の2人なんだろう?」など様々な想像ができます、こちらについてはいかがでしょうか?

まさにそういった想像を掻き立てることも狙いの一つです。
モザイクアートの特性上、離れて鑑賞するほどモチーフの実体が浮き上がってくるのですが、それは鑑賞者の知識や経験、想像力で補われるものです。
つまり人の視点の数だけ、新しい見え方や見解の可能性があるんです。


「唇、そして終わりに甘く転がる」
2019
F50号/H91.0×W116.7(cm)
木製パネル、アクリル絵の具
model:エカトモ/凛音 Photo:takenoko

会場では作品を通したコミュニケーションも生まれ、描き手の私にも新しい発見があり、それは双方にポジティブな働きかけをしていると思っています。


“破壊と再生” 、そして画面へ関心を誘うための装飾性


Q. 一般的なモザイクはマスが正方形ですが、小林さんの作品では不均一なマスで描かれているにもかかわらず、モチーフがしっかり分かるようになっているのが不思議です。どのように描いているのでしょうか?

伝わりやすさを意識しモザイクの度合いを調整することがあります。
しかし見え方については、描き方よりも人間の脳の補正機能に左右されていると考えます。


「hold me tight」hocmage of photograph
2018
P10号/H53.0×W41.0(cm)
木製パネル、アクリル絵の具
ベッドの上で抱き合って眠る男子カップル

人は大体の色や形といった情報があれば、脳で記憶と結びつけ、イコールとなった形が見えてくるものです。
なので、実際に描かれているものと違うものに見えることもありますし、「何が描かれているか全く分からない!」という方も、少し説明やヒントを与えると「もうそれにしか見えない!」と言われることが多々あります。人間っておもしろいですよね。


Q. モザイクのマスの線は“描く”ことも可能ななか、“彫る”という形で表現しているのにはなにか意図があるのでしょうか?


「息をするうにも金がいる」
制作の様子

現在は、モザイク化と彫る行為の両方でモチーフを分解したあと、金属色の流し込みで再構築する
“破壊と再生”のような意図、そして画面へ関心を誘うための装飾性を担わせています。
彫ると画面に陰影が生まれるので、どの角度から鑑賞してもキラキラと光が揺らぐような視覚効果が得られるんです。

実は彫らずに線を描いていた時期もありました。彫るきっかけになった作品があるんです。
それが、「息をするうにも金がいる」(2016) 彫るモザイク画の初作です。


「息をするうにも金がいる」
2016
P25号/H60.6×W80.3(cm)
木製パネル、アクリル絵の具

生活に困窮した際、人間は何もせず横になっているだけでも生命の維持にお金が掛かることを痛感しました。そこで横たわる人物を描き、モザイクの輪郭線を血管に見立てて彫ったんです。
そこへ金銭の暗喩として黄金色を流し込んだのが彫るモザイク画の始まりでした。


Q. これはモザイクアートで描くには難しいな、というモチーフはありますか?

表現したいテーマ上、これからも描き続けるモチーフですが、写実の頃から人物を描くことは大の苦手でした。それはモザイクアートになった今でも変わりません。
不得手な分、描くたびに新しい気づきや成長を実感できるので苦ではなく、楽しんでいます。


制作過程について


Q. 制作過程、制作時間について教えてください。

サイズや彫り込み具合で制作時間はバラバラですが、月に2~3作品を同時進行で描いています。

まず、モチーフに合わせた下地を作ります。


作品「賭博」の下地

下書き後、アクリル絵の具で着彩をしていきます。
このとき画面に調子をつけるため、一粒ずつ少しでも混色を変えるのがこだわりです。


下書き、着彩後の様子

着彩が完了したら、彫刻刀で粒の輪郭線を彫っていきます。
彫刻刀は1.5mmの丸刀と三角刀を使い分け、幅に変化を持たせています。


モザイクの粒が掘られた様子

最後に、面相筆などを用いて彫った溝へ金属色を流し込み完成です。

彫った溝へ金属色が流し込まれ、完成
拡大図

Q. 今後、作家として挑戦したいことはありますか?

どのような形で表現したら、より多くの人を対象に楽しませることができるのか、もう少し視野を社会へ広げていきたいと考えています。
一時期、SNSで「識別できる色数のテスト」が流行りました。私に見えている色数と他人とにはあたりまえに差があります。

いつか、色に捕らわれることなく触感も楽しめるような作品に挑戦したいと試行錯誤中です。まずは実験用に、先日エンボス加工が施されたアクリル板を購入しました。

他にもルッキズム的観点から、美人画を意識したモザイク作品をもう少し描いてみたいです。

「きみによく似た『何か』」
2018
F20号/H72.7×W60.6(cm)
木製パネル、アクリル絵の具
model:sodom
「美人画」とは何か。モザイクで描かれた女性像に鑑賞者は何を見出すか問う作品。

世界三大美女などの肖像画をオマージュ作品にするか、モデルをそういったスタイリングで撮影し、絵に描き起こすのも楽しそうだなと思っています。


些細な日常も多角的な視点で


Q. 最後に、アートフルを見ている作家に向けて一言お願いいたします。

たくさんの人が様々な理由や思いから各々の表現活動を行なっていると思います。
誰もが誰にも劣らない存在です。

私自身、首の皮一枚で繋がっているような毎日ですが、続ける人は続けるし辞める人は辞めるものです。これは何事に対しても言えます。

いつ死んでしまうか分からないし、いつ死にたくなるかも分からない、今を育める瞬間は人生で一度きりなので、ぜひ、些細な日常も多角的な視点で過ごしてみてください。

思いがけないヒントや気づきがあるかもしれません。
ありがとうございました。


小林 望美 今後の展示情報


■グループ展
2021年 3月17日(水)〜23日(火)
-新しい絵肌への挑戦- New Surface展
会場:大丸東京店 10F美術画廊

■ 個展
2021年 11月
会場:MEDEL GALLERY SHU (帝国ホテルプラザ東京)
詳細については順次SNSやWEBサイトへ更新します。