画家・松本亮平「私の描く動物たちは私の幼馴染」-ARTFULLインタビュー

昭和会賞授賞式(プロフィール写真)

幼い頃から絵と動物が好きだったという松本さん。
画家を目指す事になったきっかけと、ターニングポイント。

そして作品の中で楽しく戯れる動物たちについて、詳しくお話しを伺いました。


頭の中の標本室(F100)との写真

松本亮平 / Ryouhei Matsumoto
1988年 神奈川県横浜市に生まれる
2011年 早稲田大学 先進理工学部 電気・情報生命工学科 卒業
2013年 早稲田大学大学院 先進理工学研究科 電気・情報生命専攻 修了
2016年 第12 回世界絵画大賞展 / 遠藤彰子賞
2018年 第53 回昭和会展 / 入選 / 日動画廊 (16,17 年も入選)
PLAS2018 CONTMPORARY ART SHOW 出展 / 韓国 ソウル
ART EXPO MALAYSIA 出展 / マレーシア クアラルンプール
2019年 第54 回昭和会展 / 昭和会賞 / 日動画廊
ART TAIPEI 出展 / 台湾 タイペイ
ART ELYSEES 出展 / フランス パリ
2020年 松本亮平展-生命の記憶- / Silver Shell(16,18,19 年も開催)
BAMA2020 出展 / 韓国 プサン
2021年 佐々木豊と9人展 / 飯田美術 (17,18,19,20 年も出展)
ART BUSAN 出展 / 韓国 プサン (19 年も出展)
他グループ展多数
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2つのきっかけから画家に向かうことになりました。


Q.幼い頃から”動物博士”のような存在になる夢があったとの事ですが、画家を志したきっかけを教えてください。

幼い頃から絵と動物が好きでした。幼少期は『動物奇想天外』( 1993年10月16日~2009年3月29日 TBS系列局 )を夢中になって見ており、そこに出演しているような動物の専門家に憧れていました。


「動物大好き」小学校1年生の頃の作品

私の場合、時とともに特に生き物(動物)への興味が深くなり、大学・大学院では生命科学を専攻し、電子顕微鏡やX線を用いて、生体高分子(たんぱく質やDNA)の研究をしていました。

しかし、そこで2つのきっかけから画家に向かうことになりました。一つ目のきっかけは、その頃研究対象としていた生体高分子の解説イラストを描いたことです。この解説イラストが雑誌『実験医学』(羊土社)で1年間連載されました。


実験医学(羊土社)「絵で見る先端分子生物学」掲載ページ

これが私の絵が広く社会に求められた初めての経験でした。自らの作品が不特定の多くの方に伝わっていく喜びを知りました。

もう一つのきっかけは専攻した学問では動物と共に生きることを生涯の職業にできなかったことです。生体高分子の研究では動物そのものに愛情を注ぐことができず物足りなさを感じていました。動物を愛しその専門家になりたいという思いから、動物の生命を専門に描く画家を目指しました。

生体高分子の研究を通して、生き物の遺伝子レベルでの共通性や多様性を知ったことは、現在の生き物たちの世界をテーマにした制作に生かされています。

Q.ご自身の活動において影響を受けた画家、人物などはいらっしゃいますか?

佐々木豊先生(洋画家、国画会会員、日本美術家連盟理事)です。


佐々木豊氏との写真

大学在学時に大学図書館の美術関連図書をすべて読破しました。古典では故岡鹿之助氏の「油絵のマチエール」、現代では千住博氏の「絵を描く悦び」などにも興味をひかれました。その中でも特に佐々木豊氏の実体験に基づく「泥棒美術学校」に強く心惹かれました。佐々木豊氏は横浜の朝日カルチャーセンターで「佐々木豊と人物を描く」教室を持っており、幸運にも私はその教室に通うことができました。

そのカルチャーセンターのメンバーの「個性の強い作品」を通して、絵の独自性の重要さを学びました。佐々木豊先生の作品に通じる一目見て誰の絵であるかわかることの大切さを。


佐々木豊氏著書

一層自分らしい楽しい表現ができるようになってきた


Q. 画家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

2019年の昭和会賞の受賞とそれに伴う会社の退職がターニングポイントです。


昭和会賞授賞式

2013年の大学院修了後は会社員として働きながら、退社後や週末に絵を描いて、公募展などに出展していました。2016年からは昭和会展に出展し、その頃から昭和会賞を目指し、受賞できたら会社を退職し絵に専念しようと考えていました。2019年には幸運にも昭和会賞を受賞することができました。

現在は大変ありがたいことに、個展や展覧会の依頼をいただけて毎日絵を描いて暮らしていけるようになりました。昔からご覧いただいている方には、以前よりも絵が穏やかで明るくなったと言われることがあります。制作に使う時間が増え精神的なゆとりが生まれ、一層自分らしい楽しい表現ができるようになってきたと思っています。


「Recreation」
F50 墨、アクリル(昭和会賞受賞作品)

幼いころの自然との触れ合いの記憶


Q. ヒト以外の動物をモチーフに描かれていますが、作品を通して共通するテーマなどはありますか?

私の描く動物たちの世界は私自身の幼いころの自然との触れ合いの記憶です。


「水鏡」 SM アクリル

小学生のころは放課後に近所の森でカブトムシやクワガタを捕まえ、キノコや木の実を採集し、池や川で魚釣りをして身近な自然と遊んでいました。そこで見かけた生き物を図鑑で調べ、自由帳に写してその生き物を捕まえた気分になり楽しんでいました。


「蟻涅槃図」
F8 アクリル

池で釣りをしていた時には、瀕死の「ランチュウ」を見つけ、網で拾いあげ救命したことがありました。家に連れ帰った当初は弱り果て逆さまに泳いでいましたが、薬の投与と酸素の供給を続け一命をとりとめました。その「ランチュウ」も数年後に寿命により家の水槽で息を引き取りました。

このような生き物たちとの別れから、私は喪失感を受けるとともに、命が失われても形は変わらないためまた元気に動きだすのではないかという迷いがあり、死を認めることへの葛藤で動揺しました。

生き物の命を描きたいと思う理由はこのあたりの不思議さへの関心に一因があるのではと思います。画面の上で生き物たちに永遠の生を与えたいと願っているのかもしれません。


「白昼夢」 F6 油彩、アクリル

私の描く動物たちは私の幼馴染です。この最も身近な存在を通して現代に生きている感覚を描き続けていきたいと思っています。


画家が動物たちと対等な立場にある感覚


Q. 動物達が描く絵として、日本の名画が登場する作品がいくつかありますが、なぜ日本画をモチーフとして選ばれたのでしょうか。


「猫と群魚図」
F4 墨、アクリル

生き物を描いた日本の絵に強く惹かれます。国宝の「鳥獣人物戯画」を始め、伊藤若冲の「動植綵絵」、森狙仙の「猿図」、幸野楳令の「群魚図」など動物視点の作品に強く共感します。画家が動物たちと対等な立場にある感覚が好きで、動物を描いていながらも自画像のような作品だと思います。私自身もその立場から着想して動物たちの世界を描いています。


「自画像」
F10 墨、アクリル

「人形遊び」の感覚で想像しながら描いています。


Q. 普段制作活動されているアトリエについて教えてください。

私の父は高校の美術教師で、若い頃は家のアトリエで絵画制作や陶芸をしておりました。私も幼い頃よりそこで絵や工作をするなどして遊んでおりました。現在はそのアトリエを私が使い制作をしています。


アトリエ書棚

Q.楽しそうに戯れる動物たちを色彩豊かに描かれています。どのようにして描かれているのでしょうか。

動物同士の遊んでいる様子を子供の頃の「人形遊び」の感覚で想像しながら描いています。


制作風景

制作の手順としては、初めに私自身の実体験の中から舞台設定を決め、リアルに描いています。その場面が、海か川か、森か草原か、もしくは室内なのかなど分かるように現実的な描写を心掛けています。その後はその舞台で動物たちが作る物語を想像しています。物語の想像の助けに動物のフィギュアを数多く持っており、それを使って遊びながら物語を構成しています。


動物フィギュア

動物たちの物語が制作の途中で変わることもあるので、描いたり消したり試行錯誤をしながら進めています。その遊びの中から生まれる作品なので、楽しく戯れているように感じられるのかと思います。


多様化の時代


Q. 今後、画家として挑戦したいことはありますか?

国内外を問わず大作壁画や絵本の原画などの制作にも関わり、多くの方々に伝わる作品を作りたいと思っています。


「隔てるもの 繋ぐもの」
F50 アクリル

Q. 最後に、アートフルは若手画家に向けてのメディアなのですが、これから活動をしていく若手画家達に向けてアドバイスなどあればお願いいたします。


「Diversity and Cooperation」
F8 アクリル

多様化の時代なので、絵の描き方、発表の仕方などは人それぞれだと思います。自分自身が続けやすいスタイルで活動してほしいと思います。また私の作品に興味を持っていただけた方は、個展などでお会いしてその活動についてお話しできますと嬉しいです


「Artistic Swimming Birds」
F6 アクリル

Q. 今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。


「流寓」 S50 油彩、アクリル

松本敏裕✕亮平展 それぞれの表現Ⅷ
会期:2022年8月15日(月)〜8月21日(日)
会場:サブウェイギャラリーM (神奈川県横浜市西区みなとみらい6)

松本亮平展
会期:2022年10月28日(金)~11月11日(金)
会場:REIJINSHA GALLERY(東京都中央区日本橋本町3-4-6 ニューカワイビル1F)