画家・田中加織「日本庭園の圧倒的な世界観と自然をコントロールした風景の中に、人の意識を」-ARTFULLインタビュー-

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伝統的な日本庭園をカラフルに、流れるような曲線で描かれた山々や草木たちから表そうとするのは“人の意識”。

幻想的で極楽浄土のような日本庭園が織りなす美しさは我々の心を揺さぶらせる。

今回は画家・田中加織さんに、作家としての生い立ち、作品のルーツ、込める想いについて詳しくお話を伺いました。


田中加織

田中加織 / Tanaka Kaori
1982 京都生まれ
2004 成安造形大学洋画科卒業
2005 成安造形大学洋画研究生修了
現在、京都在住

主な個展
2006 「蓬莱」アートスペース虹(京都)
2008 「秘すれば花なり」ギャラリーアートコンポジション(東京) O ギャラリーeyes(大阪)
2009 東京上野松坂屋(東京) 札幌三越(札幌)
2012 「光月山」HRD ファインアート(DEMADO PROJECT)(京都)
2013 「石浮島」KUNST ARZT(京都) 「庭島」gallery near(京都)
2014 「月山水ナガルル」コンテンポラリーアートギャラリーZone(大阪)
2015 「月山水ナガルル」ギャラリーいのくま亭(京都)
2016 「落下する砂と石」ギャラリーいのくま亭(京都)
2019 「月山水ナガルル」伊勢丹新宿本店 6 階アートギャラリー(東京)

主なグループ展
2003 「Art Camp in CASO」海岸ギャラリーCASO(大阪)
2006 「Art Camp in kunst bau」ギャラリーヤマグチ(大阪)
2008 「思考と絵画」ギャラリーワークス(大阪)
「セオリーアート賞展」セオリー青山本店(東京)
「アーティクル賞展」AJC オークション(東京)
2009 「トーキョーワンダーウォール」東京都現代美術館(東京)
2010 「京展」京都市美術館(京都)
「思考と絵画 2」ギャラリーワークス(大阪)
2011 「萬福寺芸術祭 」萬福寺(京都)
「カレント展 」京都市美術館別館(京都)(2012、14 も)
「アートオークション story 」関西日仏会館(京都)
「オープンアトリエウォーク京都アペルト」(京都) 2012 「TRANSNATIONAL ART 」大阪現代美術センター(大阪)
「ギャラリーwks10 周年祭」ギャラリーワークス(大阪)
「ABEND」Gallery Ort Project(京都)
「京都オープンスタジオ」(京都)(2013 も)
「若手四人作家展 」松山三越(松山)
2013 「Common Sense of the East」Gallery 175(ソウル)
「ART ROAD 77 」ヘイリ芸術村(韓国パジュ)
「TAKE OUT ART !」gallery near(京都)(2014 も)
「ABEND vol.2」京都リサーチパーク町家スタジオ(京都)
「空想美術大賞展」伊藤忠青山アートスクエア(東京)/蔵丘洞(京都) 「tokonoma 展」gallery near(京都)
「箕面の森アートウォーク」(大阪)
2014 「ヤングクリエイターズアワード」MI ギャラリー(大阪)
「天祭一◯八」増上寺(東京)
「えんぎもの 」白白庵(東京)
「Nature Explored: Interpretation of Japanese Landscape」日本友好庭園(サンディエゴ)
「京都府美術工芸新鋭展」京都府文化博物館(京都)
2015 「感じる風景」橘画廊(大阪)
「高尾小フェス」南山城村・旧高尾小学校(京都)
「VIVID 展」ギャラリーアートコンポジション(東京)
2016 「Dancing in September」橘画廊(東京)
2017 「ギャラリーwks15 周年祭」ギャラリーワークス(大阪)
「さかずき」Art Spot Korin(京都)
「MINA-TO Art Wall Vol.8 WONDERS vol.2 Greenscape」スパイラル MINA-TO(東京)
「間取りの時」京旅籠むげん(京都)   
「若き表現者のためのコレクション展」ギャラリー菊(大阪)
「FLOATING」 HRDファインアート(京都)
2020 「NIPPON 発!現代アート展」銀座三越 7F ギャラリー(東京)

アートフェア
2008 「シンガポールアートフェア2008」
「アジアトップホテルアートフェア2008」(東京ホテルニューオータニ)
「art daegu 2008」(韓国、テグ)
2008 「シンガポールアートフェア2008」
「アジアトップホテルアートフェア 2008」(東京ホテルニューオータニ)
「art daegu 2008」(韓国、テグ)
2010ヤングアート台北 2010
2013 テグアートフェア 企画交流展 ‘RED DOTS II 韓国テグ
ART SHOPPING アートフェア IN LOUVRE, PARIS フランス・パリ
2016 アートインパークホテル東京
Innity Japan2016
2018 アートフェアアジア福岡2018 ホテルオークラ福岡
2019 アート高雄2019 台湾 
アフォーダブル・アートフェアシンガポール 

受賞歴
空想美術大賞展 2013 協賛企業シルバー賞
セオリーアート賞 2008 銀賞
成安造形大学卒業制作展 2004 優秀賞

【公式HP】【Facebook】【instagram】



意欲的に外に向けて作品を発表していた学生時代、卒業後のコンペをきっかけに今がある


Q. 作家、画家を志したきっかけを教えてください。

小さい頃から絵を描くのは得意で、高校進学の時に好きで得意な事ができる方が良いだろうと、美術科のある高校に進学しました。
だけど画家になるとか考えた事はなかったです。高校の時なんかは演劇部に入ってむしろそっちの方面に力をそそいでいたような(笑)

でもそこで絵を描く事以外に、なにかを作り上げる事の達成感と面白さを知りました。

大学はそのまま付属の美大に上がって、淡々と絵画と向き合っていたと言うか黙々と描いていて、でも学生の頃から小さなギャラリーで展示したり外に向けて発表するのは意欲的にしていた気がします。
授業でただ描いてるよりかは、何か達成感が欲しかったんだと思います。

そんなんで、なんだか気が付いたら4年間あっという間で、就活してないし、まだ絵を描いていたいと思い、1年研究生で残りました。
それも終わって。



だけど、あ~作品作りたいし展示もしたいし。と、当時使っていなかった祖父母の家をアトリエとして使わせてもらいました。

おそらく、大学を卒業して就職をしないで、絵を描く選択をした事でこれは何かしら形にしないと、親に申し訳ないと言うか(笑)
後戻り出来ないと思っていたところ、幸いにもコンペに出したのをきっかけに東京のギャラリーに声をかけていただき、今にいたるというか。

自分では画家になろうと思って絵を描いていた事はなくてイラストでもデザインでも何か描いていたくて、今でも志しているかと言えば、 どうなんだろ…

むしろありがたくも周りの方々のおかげで画家でいさせてもらっていると思っています。



Q. 現在の作風までの歴史、経緯などありましたら教えてください。

私の行っていた大学は、当時、駅から大学までの道のりが、住宅地の開発途中で何もないただ真っ直ぐな道だったんです。
その道が季節によって草木が生い茂り刈られ、また生い茂り刈られを繰り返して、毎年毎年、同じ風景を見るんです。

それがとても意図的な風景な気がして、建物も人も全然いないのに人の存在すごく感じるんです。 どうも、その感じが気がかりで、学生の頃はそんな人工的な自然が気になり公園や道路に植え込まれ整理された草木を描いていました。

それから卒業制作の時、展示場所がお寺だったんです。それでその展示部屋から見えるお庭を描いたのが、今の作風の入り口です。


ずっと人の意識はどう形に表せるのかを考えていた


Q. モチーフにされている「富士山」や「日本庭園」にはどのような想い、描くようになったきっかけなどありましたら教えていただけますか?



私はずっと人の意識はどう形に表せるのかを考えていたところ、日本庭園を見て、この圧倒的な世界観と自然をすべてコントロールした風景に 人そのモノを感じ、ここから人の意識を形に浮き出せるんじゃないかと思い、描き始めました。

住んでいる京都はたくさんお寺があるので、名称と言われる日本庭園もすぐ見に行けるのがよかったんです。
庭園を見ながら、この風景が何百年も変わらずここにあると思うと、作庭家の頭の中に入りこむようで美しいけど少し恐ろしく思えてくるんです。

富士山も始めは、庭園の中に富士に見立てた砂山や石の景色などがあって面白くて絵画の中になんちゃって富士山みたいなのを入れてたんですね。
そしたら、みんな富士山だと、青と白の山のような物を描くだけで意識的にそう見てしまう、ある種の擦り込みとアイデンティティがあるのだと思いました。
そこで富士山も作品のシリーズに加わりました。



Q. カラフルな色使いが田中さんならでは特徴的です。カラフルで可愛い印象の色の表現について伺えますか?

日本庭園だと枯山水を思い浮かべて、わびさびの地味なイメージもあるかもしれませんが、実は四季折々多様な花が咲いてとても華やかなんです。
とくに5月のツツジが満開に咲く頃は庭園のツツジの刈り込みが丸々としたピンク色になって、まさに極楽浄土の世界のようです。

私の作品の印象深いピンクは、このツツジの花の色イメージでもあります。 可愛らしさと妖艶さ、意図されたような現実離れしたこの色に、自然の美しさだけでなく人の傲慢さや触れてはいけない存在を垣間見る気がします。



Q. 和のモチーフでありながら、全体的に丸みを帯び幻想的です。この “形” の表現についてはいかがでしょうか。

こちらも、ツツジの刈り込みのイメージです。 丸く可愛くかりこまれてて、そこに松や石を組み合わせて鶴島、亀島、蓬莱島を作り庭を完成させています。

あとは、富士雲海や山水シリーズでも雲や水の流れの柔らかさを大切にしています。



Q. カラフルな作品が多い中、モノクロのシリーズもありますが、こちらの作品はどのような表現を試みた作品でしょうか。

よりシンプルに表現したい気持ちがあって描きました。

月も作品の中によく描くのですが、日本人には月を愛でる文化があります。
静寂な夜空の月をただ眺めていたいという気持ちをモノクロの形と構図だけで表現出来たならいいなと思い描き始めてます。

でもなかなか難しいですね。まだまだ試行錯誤です。



自分の為に描いていたけど、今は家族の為に作家でいたい


Q. ご自身の作家活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

影響を受けたとかではないのですが、日本画家の小野竹喬(おの ちっきょう)が大好きです。

自然の捉え方とか、とにかく可愛らしい絵で見てると癒されるんです。 あのような心地よい絵画を目指せたらいいなと、おばあちゃんになるまで描き続けられたら出来るかな~。



Q. 作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

挫折は常にあります。
たくさん活躍してる人を見れば、全然ダメだなーと思いますよ。

子育て・仕事・家事・制作とタスクが多いので、普通に仕事して主婦してる方が楽なんじゃないかって。 子育て真っ只中なので、制作をする体力気力を維持するのが大変だし、子供が可愛いくて母親業が頭のほぼ全てを埋めてしまうので 作家業を忘れてしまします(笑)
出来れば寝てたい・・。



作家としてのターニングポイントは、やはりコンペに出して色んなギャラリーと繋がれてた事でしょうか。 おかげでたくさん作品を出展する機会をいただき、画家として認知され作品が売れる事も増えました。
今でも様々なギャラリーとお仕事をさせてもらっているので、大変ありがたいです。

あとは、結婚した事です。
主人も作家活動をしているので、独身の時は作家活動をするにも孤独感みたいなものがありましたが、 今はお互い支え合ってる感じでとても気持ちが楽になりました。

時々一緒に展示したり、お互いの展覧会の設置を手伝ったりします。
結婚して子供が生まれて、それまでは自分の為に描いていたけど今は家族の為に作家でいたいと思うようになりました。


Q. 普段制作活動されているアトリエについて教えてください。



結婚と同時に、以前使っていた祖父母の家のアトリエを出て、一軒家(自宅)にアトリエを作りました。5年ほどたちます。

制作しながら家事もすぐ出来るように、リビングの隣の部屋がアトリエになっています。 7・5畳と広くはないですが日当たりが良いので明るいアトリエです。



何かを続けていくには一人では出来ない


Q. 今後、作家として挑戦したいことはありますか?

今は現状維持で必死ですが、子供が生まれてから大きい作品が描けてなかったので最近は大作も再開しはじめました。
目標は単純で子供が大きくなって画家としての母親の作品をより多くの人に見てもらい、「お母さん凄いでしょ~」って言えるような(笑) 自慢の母親になるために頑張りたいですね。
なので今以上に発表の場を増やしていきたいです。

そして、ずっと油絵をやっているので、やはり自分なりの油絵の描き方をまだまだ探求していかなくてはと思っています。油絵ならではのなめらかな色彩の混ざり合いや色の深さなど、まだまだ描き続けないと出来ないなと思う事がたくさんあるので、自分の成長を楽しみに制作していきます。



新たに挑戦したい事は、以前、器のデザインの仕事をしていてその時に学んだ伝統的な染付けや赤絵の技法を取り入れた作品を描きたいと 思っています。それとその時に経験した商品開発の面白さが忘れられなくて、いつか自分のブランドがつくれたらなんて思ったりしてます。 やりたい事いっぱいですね。


Q. 最後に、アートフルを見ている作家達に向けて一言お願いいたします。

皆さん、一生懸命やっておられるし、きっと精力的で力強い作家さんもいっぱいいらっしゃると思います。

頑張れる時はがんばって、でもちゃんと心と体を休めてください。
作家活動は人それぞれのペースがあってその時々に人との出会いもあります。

何かを続けていくには一人では出来ない事の方が多いので、人との繋がりを大切にしてください。



今後の展示会、活動予定

グループ展 「精神の風景 ・○▲□」
http://hrdfineart.com/exb-spirituallandscape21.html
会場:HRD ファインアート
会期:2021 年 2 月 11 日~ 3 月 27 日
時間:木曜日 11:00 ~ 15:00 / 金・土曜日 11:00 ~ 19:00
休廊:日・月・火・水曜日(事前のアポイントにより観覧可能)
〒602-0896 京都府京都市上京区上御霊竪町 494-1

個展
2021年4月20日~5月2日
Art Spot Korin
〒605-0089 京都市東山区元町 367-5
https://artspotkorin.wordpress.com