鉛筆画家・土田圭介「心の揺れを表現」-ARTFULLインタビュー-

鉛筆画家・土田圭介「心の揺れを表現」-ARTFULLインタビュー-

鉛筆画による柔らかいタッチの描写で、幻想的・神秘的な世界を描き出す土田圭介。その作品からは、’シュールさ’ともいうような、どこか混沌とした表情も感じ取る事ができる。

今回は鉛筆画家・土田圭介さんに、作品に込める想い、活動についてなど、詳しくお話を伺いました。


土田圭介

土田圭介 / Keisuke Tsuchida
新潟県新潟市出身
1974.08.05生
2001 京都造形芸術短期大学 卒

主な個展
2010 土田圭介展【小野画廊Ⅱ / 東京】
2012 土田圭介展「静かな鼓動」【EHARA GALLERY / 東京】
   土田圭介展「ココロ×モノクローム」【ミレージャギャラリー / 東京】
2013 土田圭介展「まるなげの物語」【ギャラリー219 / 東京】
2014 土田圭介展「こころのままに」【ギャラリー219 / 東京】
2015 土田圭介展「光と影と絵肌と」【PIギャラリー / 愛知】
2017 土田圭介 鉛筆画の世界展【木内ギャラリー / 千葉】
2018 土田圭介 鉛筆画セレクト展「書斎と喫茶展」【artlab Melt Meri / 東京】
2019 土田圭介展「流れるこころのままに」【ギャラリー219 / 東京】
2020 土田圭介鉛筆画展「心の旅」【武蔵野市立吉祥寺美術館/ 東京】
   土田圭介鉛筆画展「心の街」【art Truth/ 神奈川】

主なグループ展
2011 expression design展【ミレージャギャラリー / 東京】
2013 Black&White展【ドラードギャラリー / 東京】
2014 空想病院展【ドラードギャラリー / 東京】
2015 Infini vol.2〜現代作家選抜展〜【スペース・ゼロ / 東京】
2016 Infini vol.3〜現代作家選抜展〜【スペース・ゼロ / 東京】
2017 ネコという、ものがたり-TH叢書 セレクション-【ギャラリー・メゾンネコ / 東京】
   Blanc et Noir 2017展【GALLERY ART POINT / 東京】
   ネコカルチャーニッポン【アートハウス庫離 / 愛知】
2018 ブレイク前夜~次世代の芸術家たち~PartⅠ【Bunkamura Gallery / 東京】
   ミニアチュールドール&ドローイング展partⅡ【スパンアートギャラリー / 東京】
   初夏のAllumage展 -ドローイング-【K’s Gallery / 東京】
   KSAC ART FESTA 2018【GALLERY21 / 東京】
2019 ノスタルジック協奏曲【Gallery Blau Katze / 大阪】
   「いんすぴ」これやん展【Corridor Gallery 34 / 東京】
   私の小さなたからもの展【銀座画廊 美の起源 / 東京】

受賞歴
2002 二科展デザイン部イラスト部門【奨励賞】
   デザイン展CHIBA200【千葉美術協会賞一席】
2003 二科展デザイン部イラスト部門【大賞】
   デザイン展CHIBA2003【会友賞】
2004 二科展デザイン部自由部門【特選賞】
   二科展デザイン部イラスト部門【奨励賞】
2005 二科展デザイン部自由部門【特選賞】
   二科展デザイン部イラスト部門【奨励賞】
2006 二科展デザイン部自由部門【会友賞】
2007 千葉市民美術展覧会【千葉市長賞】
2008 千葉市民美術展覧会【千葉市美術館長賞】
   二科展デザイン部イラスト部門【会友賞】
2009 二科展デザイン部イラスト部門【会友賞】
   千葉市民美術展覧会【依嘱優秀賞】
2014 PAINT50 VOL2【PIギャラリー賞】
2020 ワコムモノクロイラストコンテスト【最優秀賞】

主な掲載本
ナイトランド・クォータリーvol.05 闇の探索者たち/アトリエサード
ExtrART file.15 ◎FEATURE:異形の世界に住まう者/ アトリエサード
別冊TH ExtrART file.02〜日常を、少し揺さぶるイマージュ/ アトリエサード
TH No.55「黒と白の輪舞曲(ロンド)〜モノクロ世界の愉悦」/ アトリエサード

装画担当
図子慧 著「愛は、こぼれるqの音色」/ アトリエサード

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一から作り上げていく事に面白さを感じた少年時代


Q.作家、画家を志したきっかけを教えてください。

小さな頃、父がチラシに描いてくれた車や飛行機を真似してたのが私にある絵を描いた最初の記憶です。
それからは絵だけでなく粘土なども使い、何も無いところから何かを一から作り上げていく事に面白さを感じるようになっていきました。
大人になり画家になるまでの過程や思いは色々ありますが、小さな頃に抱いたその思いが一番の切っ掛けだと思います。


ボクらの翼・2008年・728×1030mm・鉛筆、ワトソン紙、木製パネル

Q.鉛筆画の魅力、土田さんが一番惹かれている点はどこでしょうか?

シンプルなところです。モノクロの制限された世界は様々な要素を削ぎ落としたからこそ見る人の想像を広げる力があると思います。

Q.「縦の線だけで描く」という技法が土田さんならではです。この技法が生まれた切っ掛け、経緯、それまでの作風の歴史など教えていただけますか?

芸短時代に様々な画材を組み合わせ平面、立体、絵本などジャンルにこだわらず独自の技術や表現方法を作ることに躍起になっていました。


ASHITA・2017年・652×910mm・鉛筆、ワトソン紙、木製パネル

しかし、そんな事を繰り返すうち徐々に違和感を感じるようになっていきました。それは「芸術」という言葉に縛られ特殊な画材や技法を使うことで自分を特別な人間、芸術家に見せようとしていたからだと思います。

そんな中で「芸術」という言葉の束縛から離れ、何かを作りたいという純粋で素直な思いを何よりも大切に制作しようと、誰もが使った事のある鉛筆だけで自分の世界を表現しようと思いました。
「縦の線だけで描く」という技法は当時デッサンから離れていて描き方を忘れていたので、何の気なしに縦の線で描いてみたという本当に偶然見つけたものです。

ですが出来た作品を見たときに自分が探していたものはこれなんじゃないかと感じました。それ以来ずっとこの技法で描き続けています。


制作過程

心の揺れを表現


Q.描くモチーフも幻想的で面白さもあり、ファンタジーな世界観で優しさを感じます。土田さんが表現する上で意識していること、想いなど教えていただけますか?

私は心を、正確に言えば心の揺れを表現してます。それは何かのモチーフに投影してという比喩的表現ではなく、より直接的な形のイメージとして一から作り上げたものとして表現しています。

「心を描く」という油断すると独善的、ナルシストで耽美的な絵になりがちなのですがそれは私の描きたいものではなく、心という題材を描きつつも感情に飲み込まれ過ぎないように、ユーモアやシュールという客観的要素を取り入れることでより真摯に作品と向き合えている気がします。


一日の終わりに・2015年・454×644mm・鉛筆、ワトソン紙

また先に述べた「私の描きたいもの」とは強いものや完璧なものではなく不完全なものです。
自身もそうなので不完全なものに共感できる部分が多く「憧れ」「未知」「後悔」「焦燥」などその先の願望や思いを愛おしくそして尊く感じ、そういったものを描きたいと思っています。

Q.描かれるキャラクターがどれも魅力的ですが、姿形のデザインやアイデア、インスピレーションはどこからくるのでしょうか?

基本、自身の心が動いたときに思いつくことが多いです。映画や音楽だけでなく、徹夜明けの朝の空気、匂いなど調子の良いときは本当にどこからでもアイデアが浮かんできます(浮かばないときは何をしても浮かびませんが)。

大まかなイメージが出来るとそれをより具体的な形にしていくのですが、その肉付け作業は表現したい雰囲気を何よりも大事に優先して考えていますが、小さな頃に見ていた漫画やゲーム、小説などの影響もかなりあると思います。


自傷と自慰・2019年・455×380mm・鉛筆、ワトソン紙、木製パネル

現在は綺麗で洗練されたものが多いですが私は80年代のバタ臭く今の人が見ればダサく隙があるもの、綺麗よりは味わいがあるものが好きなので、自身で意識していなくてもその感じは作品に出ているのではないかと思います。

Q.鉛筆画ではモノクロの表現になりますが、このモノクロでの表現について何か意識していることやお考えなどあれば教えていただけますか?

技術的には写実画とは逆でモチーフや資料を見て描かないようにしています。
それは現実には存在しないものを描く場合、実在するモチーフと想像上の実在しないものを組み合わせると、情報量が違いそこに違和感が生まれるからです。

同じモチーフだけを組み合わせるならそれも可能ですが、描く物が毎回違う私のような作風だとそれが難しいので陰影は出来るだけ頭の中で考えて描いています。そしてそれが写実とイラストの中間のような私の求める画風に繋がっているのだと思います。



描くこと・作ることを人生の中心に置く


Q.一度は会社員になり、その後美大に入学し直したとのことですが、大変勇気のいる決断だったかと思います。当時の心境、想いをお聞かせいただけますか?

芸大の受験に失敗した後、会社員となり数年後転勤となりました。ひとり暮らしで一人で考える時間が多くなるとこのままで良いのかという思いがよぎるようになりました。辞意を示した時には当然ほとんどの人に反対されましたが、それでも描くこと作ることを人生の中心に置きたいと思い悩んだ末に退社を決めました。

不義理をしてしまったり綺麗な辞め方ではなく色々と後悔はありますが、この選択だけは自分にとって正しいものだったと思います。


灯り・2018年・273×220mm・鉛筆、ワトソン紙、木製パネル

Q.作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

2016年、私は作品の方向性やスケジュールなど、展示の為に惰性で描いているんじゃないかと感じるようになり、自分なりの良い作品というものが分からなくなり描けなった事です。
私は元々「こうあるべき」といういう考え方に偏りがちな性格なので、それが行き過ぎると大小はありますがこのような状態になることが多いです。

この年はそれがドツボにハマったような年で、ほぼ一年描かない状態が続きました。ですがこれは自分が描く根本を取り戻すのに必要なものだったと思います。展示のペースも制作に対する真摯さも一度立ち止まって考える時間だったと思っています。



というより、その描けなかった時間を無駄にしたくないと思いがあって、その後の制作に生かし、それまで描かなかったようなものもに挑戦し自分の世界を広げる事が出来ました。

Q.ご自身の作家活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

鉛筆画家の木下晋さんです。前情報なしで入った木下さんの個展で作品と対面した時、絵を見てはじめて静かで胸が熱くなるような不思議な感動を覚えたました。
描くものは違っても自分が感じたあの感動を誰かに持ってもらえるような本物の作品を描きたいと思いました。


記憶の旅・2019年・595×458mm・鉛筆、ワトソン紙

正しいかどうかは誰も分からないから自分の思いを大切にして欲しい


Q.普段制作活動されているアトリエについて教えてください。

昨年(2020年)までは8畳の部屋で制作スペースは1mほどのテーブルだけだったのですが、今年(2021年)はこれまでにない大作を描くために広い場所に移りました。

制作にはどうしても時間がかかってしまうので、今回の新しいアトリエでは効率化を一番に考えています。


アトリエ風景

Q.今後、作家として挑戦したいことはありますか?

今年はこれまでに描いたことのない大きさの鉛筆画に挑戦します。この作品を描き上げたときに自分の中で何か考えが変わるかもしれないのでそれも楽しみです。
後はまだイメージは固まっていないのですがなんとなく建物だけの風景画を描きたいと思っています。



Q.最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。

画家業を上手くやれていない自分が言えることは大してないですが、作家をやっていると作品についてアドバイスを受けることや色々言われることもあると思います。
ですが何が正しく、何が間違っているのかなんていうのは誰にも分からないので、もし自分がやりたい事、良いと感じるものがあるのならその思いを何よりも大切にしていって欲しいです。

Q.今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。

武蔵野市立吉祥寺美術館 個展
会期:2022年1月8日(土)~2月27日(日)
※休館日:1月26日(水)、2月16日(水)、23日(水)