現代美術作家・若佐慎一「生きてる実感を得られ続けられる人生が良い」-ARTFULLインタビュー-

日本の伝統的な招き猫をポップでキャッチーに描いた「招キ猫 」シリーズを始め、数々の現代アートを生み出し注目される現代美術作家の若佐慎一さん。

またその作品たちが“日本画”であるのも驚きだ。

現在、個展も開催中の若佐さんに、作家としての生い立ち、日本画の魅力、現在の制作活動や今後についてお話を伺いました。

若佐慎一 Photo by 立石従寛

現代美術作家・若佐慎一

1982年 広島生まれ
広島市立大学大学院博士後期課程 満期退学

大学で日本画を専攻 、卒業制作を同大学の首席に当たる買い上げとなる。

「日本が創るアイデンティティとは?」をテーマの軸に作品を制作。

大学卒業後、月刊美術主催公募展「デビュー」にて準グランプリ受賞。その後、国内外問わず発表の場を広げ、伝統工芸の「長艸繍巧房」への原画提供や、NYのファッションブランド「sawa takai 」、でんぱ組.incの相沢梨紗が手がける「MEMUSE」とのコラボなど多岐にわたる活動を見せる。

近年は横浜駅直結の複合型エンターテイメント施設「アソビル」で巨大壁画を制作する。

広島市立大学、円覚寺塔頭龍院庵、作品所蔵

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何かしらの変化を起こしておかないと、一生変化するタイミングを失う気がした


Q. 作家、画家を志したきっかけを教えてください。

画家を志したのは、中学2年生の年度末にあった進路面談の時がきっかけでした。そこで初めて自分の人生について向き合い、リアルに色々と想像しました。

その答えとして人生のゴールは死ぬという事なので、どうやって死を迎えるのが良いのか?を考えて、それは「生きてる実感を得られ続けられる人生が良い」という事だったので、その時に経験していた1番生きてる実感を感じていたのが、ダイエット目的で小学校から続けていたサッカーをしている時と、何か物を作っている時でした。

サッカーは走るのがしんど過ぎて、プロになるのは断念しました。(笑)何かを作る事は,続けられそうだったので、それで画家になる事を決意しました。


Q. 現在の作風までの歴史、経緯などありましたら教えてください。

作風の変化は大きく分けて2段階あります。

1段階目は学生時代です。私は大学在学中より院展(再興日本美術院展)に出品しており、その頃は所謂院展っぽい風景画を中心に制作をしておりました。



院展っぽさ(私論ですが)というのは、いくつか傾向があるのですが、写実を元にした制作スタイルによるもので、全体的にフワッとした空気感+下から光が当たって発光して見える絵画表現をとったスタイルを指します。



そして、2段階目は現在の制作スタイルです。

現在のスタイルは、日本の風土から来る宗教観を元にしたテーマ設定で、日本が近代化する中で残り続けた日本特有と考えられる価値観や文化をテーマにした作品になります。



1段階目から2段階目へと大きく作風が変化した経緯は、先ず、今から約8年半前の大学を出る半年前くらいからの変化でした。

当時、自分の院展風の作風で制作し続ける事に限界を感じており、変化しなければという強い思いを抱きつつ、数年制作し続けていました。

そして、大学も最後の年に差し掛かり、経済的、制作の場所的に自由度が高い在学中に、何かしらの変化を起こしておかないと一生変化するタイミングを失う気がして、そこで思い切って、前とは全く違う作風に舵取りをして活動を始めました。



日本画、大和絵の魅力とは

Q. 大学にて日本の伝統画法、日本画、大和絵について学ばれたということですが、その一番の魅力、若佐さんが惹かれている点はなんでしょうか?

表現の根本にある価値観が「間」という事でしょうか。

日本の表現は、対象と自分との間の見えない「間」を意識した表現が見られる所が、惹かれる根本だと思っていて、「間」がもたらす価値観が、日本人にとって唯一無二の表現が産まれる根源だと考えています。

一つ例を出すとしたら、日本絵画の特徴としてよく言われるのが「余白の美学」というものがあります。
絵画の画面構成をする上で、描かない部分を画面の空間として表現する技法です。何も「無い」所を「在る」とする為の構成です。

私自身、そういった概念、技法を知る前の美大受験時代からその「無い」を「在る」として捉えて、受験課題である石膏デッサンや生物着彩を制作している時に、分からないなりに対象と自分との間の見えない空間を表現しようとしていました。
その事に気づいた時は、自分が個人として生きているだけではなく、日本の風土や文化に影響を受けて日本人として生まれ育ったんだなということを実感したのを覚えています。

そういった、日本人や自分自身の根幹にありそうな価値観が、そのジャンルの生まれた背景にあることが一番魅力的だと思ってます。



Q. 一見、日本画だとは思わないほどポップでキャッチ-に描かれた招き猫、獅子など、古代と現代が混ざり合った作品は、どのような想いで生まれた作品なのでしょうか?

「時間の流れを描写する事で、普遍を表現したい」という思いがあります。

時代は常に移ろい、姿や形を変えて行きます。
しかし、その中でも、変わらないモノもあります。

そういった時代の変化の中に於いても変わらないモノにこそ、ある種の普遍が表現されていると考え、其々のモチーフのテーマの中にある時の流れを1つの作品に現して、それを表現しています。



「観る」ではなく、「体感する」


Q. 「キラキラ」だけの作品や彫刻もキラキラしているものもあったりと、この『キラキラ』がとても印象的です。「キラキラ」を描くきっかけや意図などお聞かせいただけますか。

キラキラに関しては、2つあります。

先ず、鑑賞者に直感的に興味を持ってもらう目的があります。
やっぱり光ってるモノって、単純に理屈抜きにアガルじゃないですか?笑

経験としては、ある日、デパートのアクセサリーコーナーに買い物へ行った際に、そのショーウィンドウに輝く宝石を観て、心を奪われた経験があります。

その時に、何で心惹かれたのかを考え、その理由として、単純にキラキラと光っていたからなのでは?と考えました。

キラキラ光ってるモノに対して、人は古代よりポジティブな物として捉えていて、それは人種も宗教も時も超えて今も尚愛され続けている。そこにはある種の人にとっての普遍があると考え、作品の中に取り入れています。

そして、もう一つは私の作品の重要なコンセプトの一つに「観る」ではなく、「体感する」というのがあります。その「体感」という経験を促す為の仕掛けとして「キラキラ」を使っています。



他にも私の作品の中にはツヤツヤ、ピカピカ、ザラザラ、ツルツルと言った体感する為の要素を取り入れた作品を多く制作しています。

「観る」ではなく、「体感する」という所にベクトルを向けている理由は、作品とその作品が設置されている空間は繋がっているので、その間を意識する方が自然だと思い、そこに意識を向けて制作しています。


Q. 彫刻作品も制作されており、「原宿ノ招キ猫様」など絵画作品とはまた違ったテイスト、表現をされています。彫刻作品についてはいかがでしょうか。

彫刻作品については、絵画の延長線上とも考えていて、ビジュアルとしてはハッキリとした違いに見えるかもしれませんが、意識としては絵画を制作する時と大きく離れていませんし、同じ意識を、彫刻を造る際にも適用しています。

それと後は、ただ単純に造りたかったというのがあります。

中学2年時に表現者になると志したきっかけになったことで、小学生低学年の美術の時間に、粘土でペンギンを作ったんです。それはとてもうまくできて、その作ってる時にめちゃくちゃ気持ち良かった感覚が忘れられず、今になって再熱し、彫刻作品を造り出した背景があります。

彫刻だけじゃなく、いつか、近いうちに陶芸もやりたいですね、、、

多分、何かを造っている!っていう感覚が好きでそれを実感したいんだと思います。それこそ、それが実感できている瞬間はまさに生きているって思えるので。



全てを捨てるつもりで絵柄を変え、人生の活路が拓けた


Q. 大学時代から現在まで、数々の受賞や、コラボ、個展など精力的に活動され、華々しい経歴をお持ちですが、これまでの作家人生の中で挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

全く華々しいとは自分では思ってなくて、全く何も出来てないので、焦るばかりですが、、、、
ターニングポイントといえば、先ほどの質問でお答えした、作風が変わったタイミングでしょうか。

当時、大学を出る間際に院展風の作品から、現在のスタイルに変化した訳ですが、その際には色々と意識の変化がありました。

中学2年時に、生きてる実感を得続ける為に絵描きになったにも関わらず、大学を出る間際の院展時代はとてもそんな状態じゃなかったんです。



これから、どうやってご飯食べるのか?一生、院展ぽい作品を描き続けるのか?みたいな、そう言った事を永遠と考えてました。

その時に、中学2年時で考えてた事を思い出し、全てを捨てるつもりで絵柄を変えました。
変えた時には周りから色々と言われましたね。。

当時、教えて頂いていた先生には絵柄を急に変えた為か、その絵を描いて以来、口をきいてもらう事無く大学を出ることになりました。笑

しかし、その画風を変えた一枚目で、月刊美術が主催する公募「第1回デビュー」にて準グランプリを受賞し、その後の作家人生の活路が拓けました。

月並みですが、やはり自分と向き合い、行動を起こす事で結果はちゃんとついてくるんだなと実感したのを覚えてます。それが私にとってのターニングポイントだったかなと思っています。


Q. ご自身の作家活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

高島野十郎と曾我蕭白でしょうか。
高島野十郎は大学の博士課程で論文のテーマにもしました。

野十郎の生き様、画家としてのスタンスに、日本人が見る画家の理想系があると考えたんですよね。
あと、作品も勿論好きです。

曾我蕭白は絵柄も見てもそうですが、かなり異端ですよね。オリジナリティがあるというか、、、且つ技術も最高にうまい、、というか凄い。。

ある本で読んだ蕭白の言葉で、「画が欲しければオレのところに来い。絵図が欲しいなら円山応挙のところへ行け!」みたいな話があって、そういうマインドは単純にかっこいいし、言ってることもわかる感じがして、自分としてはグッときました。



Q. 普段制作活動されているアトリエについて教えてください。

アトリエ兼自宅となっています。アトリエと言っても8畳程の広さで、十分な広さとは言えないので、もっと活躍して、環境をよくしたいですね。

拘りポイントというか、必須になっているのが音楽ですかね。



制作してる時は、100%音楽か何か音を流しています。その制作工程に一番合う音楽をかけて、自分をのせるようにしています。

音楽があると、絵に没入しやすくなるんですよね。絵の世界と、そうじゃない時の間を繋いでくれる役割といった感じでしょうか。音楽があると、絵を描いてない世界と絵を描いてる世界が溶け合い、それを作品に込めることが出来た時は大体良い作品になっていますね。


自分は何がしたいのか? 今ほど作家として活躍し甲斐のあるタイミングは中々無い


Q. 今後、作家として挑戦したいことはありますか?

先ほど少しお話ししたように、陶芸には興味があります。近いうち、挑戦したいですね。

あと、ここ最近、海外での発表が出来てないので、そちらでも発表が出来るように活動していきたいです。

後は、ある意味で、既存の作家という枠を外した活動が出来ればと思ってます。

勿論、絵を描くというのは中心にはあるのですが、それに捉われず、自分がエモーショナルになれる事があれば積極的に実現したいです。それが結果として、自分のオリジナリティにも繋がり、最終的に作品の強さにも反映されると思うので。



Q.  最後に、アートフルを見ている作家に向けて一言お願いいたします。

私自身、まだまだ殆ど実績が無い若手作家だと思ってる所があり、一緒に同じ未来を目指してる一人の作家としての一言になりますが、現在はコロナ禍ということもあり、世の中の混沌ぷりは半端ないと思うのですが、だからこそ余計に自分は何がしたいのか?が問われる時代なんだろうなと思っています。

価値観が定まっていない時代に於いて、新たなフラッグが求められる時代となり、これ程作家として活躍し甲斐のあるタイミングは中々無いのかなと考えています。

なので、自分が自分に何をしたいのかを問いかけ続け、皆さん其々の場所で、自分の思いの純度を深めつつ表現して行動を起こしましょう。


今後の展示会、活動予定

現在、京都の祇園にある「ygion」というクリエイティブ雑居ビル内にて個展を1月23日まで開催中です。
お近くにお越しの際は是非ご来場頂けると嬉しいです。

若佐慎一 個展「WAKASALAND」
日時:2020.12.18(FRY)〜2021.1.23(SAT)
14:00-21:00
月曜・火曜 ・12月28日〜1月5日 休廊
場所:y gion 4F
京都市東山区弁財天町 19 Ygion4F / 京阪本線「祇園四条」「三条」駅、徒歩 3 分
http://www.ygion.com/
※コロナの状況によって営業時間等変わる恐れがあります。ご来場の際は事前にWEBSITEか、直接ご確認下さい。