画家・三輪 瑛士「見たものを見えたままに描くとはどういうことか」-ARTFULLインタビュー-

その人物、顔はその目にはどう見えたのか…
“何か”が混ざり合い、重なり合い…、写実では表せない、その目に見たものそのものを描き出す。

一度見たら頭から離れない、圧倒的な存在感を放つ作品を描く注目の若手作家、三輪 瑛士さんに、作品に込める想い、活動についてなど、詳しくお話を伺いました。


三輪 瑛士

三輪 瑛士 / Miwa Eiji
愛知県名古屋市出身
1993.05.15 生
2012 私立東邦高等学校美術科 卒
2016 金沢美術工芸大学油画専攻 卒
2018 金沢美術工芸大学大学院絵画専攻 修了
現在 金沢美術工芸大学大学院博士後期課程3年

個展・グループ展
2018 SPECTRUM (アートプラザみらい)
2019 個展 三輪瑛士展 (川田画廊)
2021 個展 三輪瑛士展 (川田画廊)

入選・受賞歴
2013 佐藤太清賞公募美術展(特選)
2014 志賀町を描く美術公募展 志賀町商工会長賞
2015 第28回日本の自然を描く展 課題部門 佳作賞
第9回全国0・SM公募大賞展 奨励賞
2017 第7回NEXT ART展 推薦
第103回光風会展 光風奨励賞
第73回現代美術展 佳作賞
第34回FUKUIサムホール美術展 大賞
改組 新 第4回日展 入選
2018 金沢美術工芸大学 修了制作展 買上
第11回プラチナアート大賞 ターレンスジャパン賞
Artist meets Art Fair 2018 入選
第41回三菱アートゲートプログラム 入選
2019  第6回 未来展 準グランプリ
アートオリンピア2019 佳作
2020 美術新人賞デビュー2020 奨励賞
2021 金沢美術工芸大学 研究発表展 買上

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ある日、絵画の魅力と可能性をとてつもない印象で突きつけられた


Q.作家、画家を志したきっかけを教えてください。

近所の高校に美術科があるのを知り、普通の勉強が嫌いで絵を描くのがまあまあ好きだった僕は喜んでそこへ進みました。
軽薄な理由ですが、「やるからには」ということでその時点で作家として生きていくことを決意しました。

しかし当然ながら具体的な展望というか、どのような作家になりたいのかまでは見えませんでした。

そんなある日に油絵画家である荻須高徳の回顧展を鑑賞したとき、僕は絵画の魅力と可能性をとてつもない印象で突きつけられました。
そこで「ああ、こうなりたい」と思えたことで、今日までやってこれたように思います。


No.1953

Q.現在の作風までの歴史、経緯などありましたら教えてください。

制作の根底にあるのは「視覚研究」です。
見たものを見えたままに描くとはどういうことか、という純粋な疑問から端を発したものです。

研究のはじめはもう何が何だか分かりませんでした。
自分の“目”を見ようとすればする程、視情報の混沌っぷりを自覚させられるのは面白くもあり、大変なものでした。

写実表現や写真なんかのようにはちっとも見えません。


No.20091

次第に画家ポール・セザンヌの関連図書を読み漁ったり、科学的観点から視覚への理解を深めるようにしたりと、自分の見方に対して堅実な分析を行うようになりました。

ですが肉眼で対象を見ることの複雑さを紐解くのは非常に困難でした。そこで僕は三次元から二次元に一旦下がることにしました。
すなわち画像を見ての制作です。

今度は自分の作品の堅さが気になってきた僕は、博士課程に進むと理論の構築よりも直感的なフットワークを磨くことに注力しはじめました。
元々美大芸大の博士課程に見る作品は頭でっかちな印象を抱いていたので、そうなりたくなかったのもあります。


“顔 ”というモチーフに興味深く向き合って


Q.2017年頃からモチーフが人物や顔を主に描かれています。このモチーフについてはどんな意図や想いがありますでしょうか。


2017.03 認識

いろんな系統の画像を見てると、やはり顔が大きく写り込んだものほど本能的な注意が向きました。

そこで改めて考えみると、人は人の顔をすごく求めるように眺めるなあとか 、かといってちゃんと見てるわけでもないんだなあといったふうに、強烈さの中に複雑な思考と冷静な情報選択が内在していることに気づきました。

以来、顔というモチーフに興味深く向き合っています。


2018.07 「馬」を求める視覚

Q.顔の中にまた顔や、別の“何か”が重なっているような、“何か”に壊されているような表現が印象的です。この表現についてはいかがでしょうか。


No.21011

観察者の立脚点を固定しているにも関わらず、対象の全体を見てると思ったら極端な細部が視野を埋めたり、同じような部分を行ったり来たりするといった、時間変化が著しい視覚状況の描写を目指した末の表現です。

あらかじめこうしようと練った構成はほとんどなく、いずれも過去の制作経験に基づいた場当たり的なものです。


Q.モチーフの崩し加減といいますか、ぼかし具合が作品によって異なっていたり、崩し方も“ズレ”だったり、“歪み”であったり多様です。この違いについて教えていただけますか。


No.21012

モチーフの印象やその時々の問題意識によって表現は絵ごとに異なります。

そもそも同じような絵を描きたくないというのも大きな理由かもしれません。


絵画によってどのような方向に導けるかを考え実践


Q.海外の政治にまつわる情景を描いている作品も近年制作されていますが、こちらはどのような想いで描かれた作品なのでしょうか。


No.20051

はじめは政治という場とそれに付する緊張感という主観性に面白味を感じ、形や色によってどう表現されるのかを試したくて手掛けました。


No.19101

次第に政治の場に対する鑑賞者の反応という一種の作用であるとか、「政治家」という厚いフィルターによって無視される彼らの個人としての尊厳に注目し始めて、現在はそれを絵画によってどのような方向に導けるかを考え実践しています。


Q.宮本浩次さんの「異邦人」のMV内に登場する絵画は、三輪さんがMVのために制作された作品だそうですが、とてもインパクトがあり、MVの中でも重要なシーンの一部となっていました。こちらの作品について、どのような想い、イメージで制作されたのか教えていただけますか。



こういう裏話みたいなのはどこまで話して良いのか分からないのでざっくり言いますと、MVの方向性からしてとにかく「崩壊」の印象が強かったので、細かい部分を制作の方と話し合いながら僕のタッチを生かすように描きました。

また僕の色もどんどん出してくれて良いとのお達しもあったので、仮のMVをひたすら見ながら僕自身のイメージを作り上げていきました。

何よりも今までの活動では作品が主役だったのに対し、今回は自分の外部にある世界観の一要素として成立させなければいけなかったので、新鮮なプレッシャーを感じてました。


Q.現在在学中ということですが、今年も個展をされたり精力的な活動と学業を両立する上での苦労などはありますでしょうか。


No.21021

とりあえず描いていれば評価してくれるのが美大なので、そういった苦労は基本的に無かったのですが、最近は博士課程の研究発表展(卒業制作展のようなもの )の直前に個展を入れてしまったことで大変なことになりました。


Q.ご自身の作家活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?


No.21023

やはり最初にも挙げた荻須高徳です。その時々で気になる作家も現れますが、彼だけは一貫して好きです。

絵具がモノとなって定着し、画面に空気をつくるという魔法のような理想を多くの作家が目指してきましたが、それを実現できているのは彼の作品だけでないかなと個人的に思っています。


“欲求”を各々の制作に向けていってほしい


Q.普段制作活動されているアトリエについて教えてください。



一昨年までは大学内の広々とした教室を使っていたのですが、新型コロナによって大学の出入りに制限がかかりだしてから面倒くさくなり、今は借家に画材と作品を持ち込んでずっと引きこもっています。



なのでこだわりも無くただただ狭いという印象です。もうすぐ引っ越します・・・。


Q.今後、作家として挑戦したいことはありますか?

具体的に何をするというのはありませんが、長期的には日本における作家観や作家自身の在り方を広げていけたらいいなと考えています。


No.19112

Q. 最後に、アートフルを見ている作家達に向けて一言お願いいたします。

僕も若く経験が浅いので大した言葉は出てきませんが、日本で見る作品って内容がすごく偏っている気がするので、皆さんの内に潜む「もっとこういうのがあったらいいのに」という欲求を各々の制作に向けていただけると、世の中もっと楽しくなるんじゃないかなと思います。

その対象は、社会、自分自身、大切な人、自然環境・・・なんでもいいと思います。
一緒に頑張りましょう。


No.1931

今後の展示会、活動予定

個展 川田画廊 2022年7月1日(金)-16日(土)