河本 蓮大朗

染織家・河本 蓮大朗「面白い!と思ったものに素直になることが大切」 -ARTFULLインタビュー-

“織物”を現代アートとして制作、関東を中心に精力的に活動する「染織家」 河本 蓮大朗 。

人々の生活にとって身近な「布」という素材のもつ背景やストーリーを大切に、質感や色彩を自在に操り、多彩でファッショナブルな作品を多く生み出しています。

そんな河本 蓮大朗さんに、自身の作品に対する拘りや 織物の魅力について、詳しくお話を伺いました。



河本 蓮大朗

河本 蓮大朗(かわもと れんたろう)
1991年 神奈川県生まれ
アーティスト・染織家

織物の制作を中心に、染織独自の質感や色彩と、
素材が持つ背景やストーリーを重要な要素とし、制作を続けています。
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       河本 蓮大朗
                RENTARO KAWAMOTO
   


ファッションとアートへの興味が作品の原点


河本 蓮大朗
Weaving (Gosen)

Q.作風の歴史を教えてください。

10代の頃に生まれたファッションとアートへの興味が作品の原点だと思います。
ファッションは古着が好きでよく古着屋を巡ってましたし、アートに関しては両親が美術系ということもあり小さい頃から触れる環境がありました。

進路を考えたとき、美大に行くか服飾系の専門学校に行くか迷いましたが、美大には染織を学べる学科があることを知り、ここならアートとファッション両方学べるのではないかと考え入学を決めました。

入学するとだんだん現代アートが興味の中心になってきて、そこから染織の技法を使った作品の制作をするようになりました。


河本 蓮大朗
Weaving #21

Q.現在の作風の“織物”にたどり着いた経緯などありましたら教えてください。

美大に入学し基礎的な染織技術を学ぶ中で特に「織り」が面白いと思って、それ以来ずっと織物を作っています。

細くて柔軟なものなら割となんでも織り込める自由さと、柄や素材や色の組み合わせによって得られる無限の可能性に魅力を感じました。

作品の素材には古着を使うことが多いのですが、これは私の通っていた大学に古着が素材として提供されていたことが最初の理由です。
元々古着が好きなので、素材として使うことが自分の中でとてもフィットしました。

Q.織物といえば“衣類”などが連想されますが、“アート作品”として使用することとなったきっかけなどあれば教えてください。

先ほども書いたとおり、私の興味はファッションから現代アートへと移り変わっていきました。
それは純粋に現代アートがとてもかっこよく思えたということに尽きます。

そして、服を作るよりも、作品として織物の魅力を生かした制作がしたいと考えるようになりました。


染織がもつ色彩と質感の魅力


河本 蓮大朗
Weaving#44

Q.河本さんの作品では“織物”を使用した作品が多くありますが、この織物の一番の魅力はなんでしょうか?

私が思う織物の魅力は3つあります。

1つ目は織物がもつ背景
まず織物というものは経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が構造的に交わることで出来上がります。
このグリッド状の構造は建築物や動植物の細胞や世界地図の緯度経度のように私には見えます。
また、織物には紀元前から続く人間の文明の歴史があり、現代の人々の生活もそこには含まれています。
そして素材となる生命の営み、科学的な技術や素材の発展、そんな多様なイマジネーションを与えてくれる背景が織物の大きな魅力だと思います。

2つ目は素材感(テクスチャ)
染織は英語でテキスタイルと呼ばれますが、その言葉のとおりテクスチャが重要な分野です。
織りは多種多様な素材と織り方の組み合わせによって多彩な素材感が作り出せますし、私の場合糸だけで織るのではなく古着やタオル、ファー、アルミニウムシートなどの素材も裂いて織り込みますので、更に可能性が広がります。
キラキラしていたり、ゴツゴツしていたり、モサモサしていたり、素材感によって皮膚感覚に訴えるものが作れるところが魅力的です。

3つ目は色彩
それはナチュラルなその物質自体の色だったり、染められた色だったりします。絵の具のようにキャンバスに乗ることで発色するものとは別物です。
どちらが良いという訳ではないですが、その素材自体に色がついているというのが大きな特徴です。
私はそれがとても好きで、それが素材感と相まって独特の色彩を生み出すと考えています。


使用している道具は、基本的に「アナログ」


河本 蓮大朗
制作の様子

Q.作品を制作する際、素材を染めるところからご自身でやられているのでしょうか?完成までにとても時間がかかりそうな印象ですが、製作時間についても教えていただけますか?

作品は先に素材を染める場合もあるし、後で全体を染める場合もあります。ケースバイケースですが、染色作業は全部自分でやっています。

織る作業は、古着などを太く裂いたものを使用することが多いので割と進むのが早いです。
ただ、布を織るためには、経糸を数百本から数千本同じ長さに引き揃えて織機にセッティングする作業が必要で、それにも結構時間と手間がかかります。


河本 蓮大朗

作品の制作時間はもちろん大きさによって違いますが、大きな作品だと1ヶ月以上かかることもあります。


Q.使用している機材、道具について教えてください。

基本的にはアナログです。
織機は日本製の天秤式と呼ばれるものです。
板杼(緯糸を巻きつけて、経糸の間に通すための道具)、櫛、定規、裁ちばさみ、ローラーカッター(刃が円形のもので、古着を裂くのに使う)などなど道具はたくさんありますが、どれも市販されているものです。


織機は日本製の天秤式
河本 蓮大朗
制作に使用している道具

作品に直接的な意味は込めない、見る人にイマジネーションを与えたい


河本 蓮大朗
Weaving #3

Q.作品“Weaving #3”の「コンピューター織り」というのが気になりました。どのような技法なのでしょうか?

この作品は学生時代に作った作品で、大学にあったPCで織り柄をプログラミングできる織機で制作しています。
織り柄は経糸の制御と緯糸の入れ方によって出来上がるのですが、その制御をPCで出来るという代物です。

ただ、全て全自動で織ってくれるわけではなく、緯糸は自分で入れます。 今はその織機がないので、この技術は使えません

Q.河本さんの作品では、枠に収められているものもあれば、枠を設けず自由な形のものもあり、絵の具にはない表現が出来るのかなと感じました。こちらいかがでしょうか?

まず木枠に張られている作品ですが、これは絵画を意識した作品です。
織物を絵画のフォーマットに当てはめることで、絵の具との対比と染織がもつ色彩と質感の魅力を浮かび上がらせようと試みています。

また不定形に壁や空間に吊るす作品は、布が本来持つ柔らかさや吊るすことで生まれる皺や形、空間にフォーカスしています。


河本 蓮大朗
WP (Flow)

Q.作品のインスピレーションはいつ、どのようなときに浮かびますか?

日頃、作品のことばかり考えています。
インスピレーションは作品を作ることの中で自然と湧き出してきます。あとはとにかくエスキースを沢山描きます。

作品を織っている時はその作品に集中しますが、それが終わると頭の中で次にやりたいことが浮かんできます。特に夜は色んな作品のアイデアが出ます。本当に実現させるのはほんのわずかですが…。

Q.河本様の“織物”作品の見どころはどのようなところでしょうか?

私は基本的には作品に直接的な意味を込めません。タイトルもシンプルなものにナンバーをつけるだけです。
その方が見る側に様々なイマジネーションを与えてくれると思うからです。

作品は抽象が多いですが、それは純粋に布の色や質感を楽しみたいということなのだと思います。
そして細部に着目してみると古着が使われていたりして、その背景も想像できます。
布は生活にありふれているものなのでじっくり見るという経験は少ないと思いますが、私の作品の鑑賞を通して得られるその体験こそが作品の見所であるような気がします。


作風というのはその人自身の鏡

河本 蓮大朗
Weaving #4

Q.今後、挑戦していきたいことはありますか?

ファッションブランドとコラボレーションがしてみたいです。
廃棄になる衣服や端切れ、糸などを作品に使うのもいいし、逆に私の作品をファッションや雑貨に展開しても面白そうです。

Q.やはり河本さんと言えば織物、のように、自身の代名詞となるような作風や技法は作家としてもっていた方が良いと思いますか?

人間というのはひとりとして全く同じ容姿や思考を持つものはいません。そう考えると作風というのはその人自身の鏡であり、誰でも独自のものを持ち合わせていると思います。そして、技術はあくまで手段でしかないと思います。

「織り」に出会えたことは僕にとって大きな力になっていますが、それよりも織物に出会うまでの過程とそこから広がる思考の連鎖が私の大きな財産です。

織物で作品を作っている作家は世界中に沢山います。画家も彫刻家も同じだと思います。その中でいかにオリジナリティを出すかは、その人のパーソナルな興味を掘り下げながら、モチベーションを高く持ち、考え作り続けることだと思います。


自分の中で変化を楽しむ

Q.最後に、アートフルを見ている作家達に向けて一言お願いいたします。

私もまだまだ駆け出しの作家なのですが…。
今回のインタビューでは、私が扱う「織り」という表現に至った経緯を説明しました。
自分が染織家になるとは思っていませんでしたが、ファッションやアートへの興味から今のような表現になることは必然だったのかもしれません。
自分なりの表現方法が確立されていくには、「面白い!」と思ったものに素直になることが大切だと思います。

長い作家人生の中で私はまだ序の口ですので、これからも作品は変化していくと思いますが、そんな変化を自分の中で楽しみにしつつ、これからも作家活動を続けたいです。このインタビューが皆様の作家活動のほんの少しのヒントになれたら幸いです。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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              出典: Art Scenes