画家・戸田悠理「人の見えない側面・人の多様性」-ARTFULLインタビュー

普段見えない人の一面を表現し、『人の多様性』を描く、画家・戸田悠理さんに詳しくお話を伺いました。


戸田悠理 さん
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戸田 悠理 /  YUSUKE TODA​
作家。
1991年東京都生まれ。
2015年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。

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このままここで死ぬか、
なんとか出口を見つけて生き伸びるか ―


Q.作家・画家を志した切っ掛けを教えてください。

まだ幼い頃、父親の膝の上に座って父が木版画を作っているのを一日中長いこと見ていました。そして気づけば絵描きになりたいと考えていました。

Q. ご自身の活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

これまでの人生で会った全ての人に影響を受けていますが、強いて言えば母親かも知れません。

Q. 作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

多摩美術大学に入学してから、キャンバスが狭く感じて壁画ばかり描いて描いて描きまくっていました。

そんな僕が3年の時に担当教諭の小泉俊己さんが「このままではどうにもならないから、一度キャンバスに戻ってみてはどうか?」と助言して下さりました。そしてそこからほぼ丸1年、僕は一切絵が描けなくなりました。まさに絵にかいたようなスランプでした(笑)

描きたいとどんなに強く想っても真っ白なキャンバスを前にすると筆が止まります。当時の小泉さんの言葉を借りれば「重い症状」だったそうです。

しかしなんとか1年後の卒業制作で今のスタイルに到達しキャンバスに絵を描くことが出来ました。非常に厳しい1年でしたが作家として避けられない時期でした。


Exhibition View
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Q. 現在の作風には、どのような変遷を経てたどり着いたのでしょうか。

現在のスタイルは先ほども述べましたが遡ること6年前の卒業制作でたどり着きました。それまでは結構違う絵(というか壁画)を描いていました。

当時はどこかで「このままで良いのかな?」という疑問を漠然と感じていて、担当教諭の助言もあり壁からキャンバスへ向かいました。3年生までの3年間で積み上げてきたものを全て捨て去るような覚悟だったので、必死でキャンバスに向かいました。

このままここで死ぬか、なんとか出口を見つけて生き伸びるか、といった心境でした。卒業も1年後に控えていたので排水の陣でした。そういった状況が結果的に今のスタイルの確立につながったと思います。


「I and Me Wave Hello 4」
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多様性は自分の中にも広がっています


Q. 鮮やかな色彩と、フリーハンドの白い線が加わることで、拝見していてとても楽い気分になります。この白い線にはどういった意味が込められているのでしょうか。

白い線は『普段見えない、人の一面』を表現しています。『人の多様性』とも言い換えられるでしょう。

きっかけは母親が僕が学部4年に上がったころに病にかかり亡くなったことです。情念的なことではなく、母の看病を通して人には複数の人格が隠れていることに気づいたのです。

普段私たちは例えば「働く自分」や「学生としての自分」といった自己規定をもって生活しています。でも家に帰れば違った関係があり、友人や恋人ともそれぞれの関係があります。もう少し広げると僕たちの中には忘れているだけで「子供の時の自分」や「思春期の自分」が隠れているはずです。


「Happy Things」
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SNS等を見ていてもそういう事を感じる瞬間はたくさんあると思います。そういう意味では現代はこの複数の人格に気付きやすいし、ある意味そういった状況に慣れ親しんでいると言ってもよいかもしれません。多様性は自分の中にも広がっています。

そういった普段は見えない人の側面・多様性を、「ポジティブ/ネガティブ」「善/悪」「理性/野生」という境目を超えて『肯定的』に表現しています。

Q. 作品を作成する上での、共通した「テーマ」等はありますか?

繰り返しになってしまいますが『人の見えない側面・人の多様性』がすべての作品に通ずるテーマです。


「In My Head Happy things」
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このテーマを通奏低音のようにして、その時々で出てくる絵が少しずつ変わります。

ついこの前の個展「Dreams」(2021年6月)では人のハッピーな側面にフォーカスしました。背景には2020年以降世界的に感染症が広まったことがあります。ウイルスが蔓延するにつれて世界中に閉塞的な空気感が漂い、他人を攻撃したり抑圧する風潮が強まったように感じます。

でも、だからこそ人の良い側面を想像し、目を向けることを提起しました。この時代だからこそハッピーな世界観を提示したいと考えたのです。

Q. 製作時、Photoshopもご使用になる場合もあるとの事ですが、どのようにして作品を作ってらっしゃるのでしょうか。

最初は紙に鉛筆などでドローイングをします。ある程度イメージが形になってきた段階で今度はPC上でラフスケッチのようなことをするのですが、その時にPhotoshopを使います。


「Wonderland」
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僕の絵はレイヤー的な部分がありますので、人物写真の上に様々なイメージを重ねていきます。そこで自分がしっくりくるまで構成を練ってからいよいよ本画に移ります。最終的には本画の上で形が変わったり、足したり引いたりすることになります。

やはり本画では厚みをもった物質になってきますので、描いてみて初めて分かることも多いです。

Q. 作品のインスピレーションを得るために、普段から心がけている事などはありますか?

四六時中絵の事ばかり考えています。そういった意味では全ての見るものや聞くこと読むことなど、あらゆることからインスピレーションを得ているのかもしれません。


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それがゆえでしょうか、新しいアイデアが常に沸き続けているので制作が追い付かないくらいです(笑)


人の手では難しい幾何学的なパターン


Q. 2018年のニューヨーク滞在時にシルクスクリーンを習得されたとうかがいました。 どのように出会って、そして何故、作品に取り入れてみようと思ったでしょうか?

ニューヨークでは現地のアーティストのスタジオでアシスタントをしていました。その時そのスタジオではシルクスクリーンを使っておられて、先輩スタッフ達に自家製版(業者ではなく自分で版画の版を作ること)の方法を教わったので、東京の自分のスタジオにそのまま導入しました。

シルクスクリーンには人の手では難しい幾何学的なパターンなどが表現できるメリットがあります。

それを自分の絵に入れたいと考えました。実際は自分の絵に入れてみると幾何学的なパターンではなく、人のシルエットや抽象的な波の表現などに自然に変わっていきました。

Q. シルクスクリーンを取り入れる際、一番苦労したことは何でしょうか。

自家製版は版を作る際の露光時間がモノを言います。

写真の現像に似ているかもしれません。光を長く当てすぎても、短すぎても失敗してしまいます。秒単位がモノを言うこの部分に一番苦労しました。

Q. 普段制作活動されているアトリエについて教えてください。

東京足立区に自分一人のスタジオを構えています。昔はここでアーティストランスペースもしていましたが今は諸事情でスタジオとしてのみ使用しています。

一人で使うには十分な広さがあり、一日のほとんどをここで制作して過ごしています。世の中のテレワーク化が進んでからは仕事の打ち合わせすらもスタジオからzoomやSkypeなどでするようになり遠出もほとんどしなくなりました。ある意味打ち合わせは外出を兼ねた気分転換でもあったのですが、、、(笑)


Studio view
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個展直前の追込み作業風景
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作品達が僕を新しいステージに連れて行ってくれます


Q. 今後、作家として挑戦したいことはありますか?

「挑戦したい」というと肩に力が入っている感じが出てしまうかもしれませんね、、、(笑) 

絵を描くことは本当に息をするように常にその場にあることです。世の中をよく見極めて、自分が表現したいことに落とし込んでいく。それを日々丁寧に繰り返しているうちにふと「そうか、こんな表現も出来るかもしれない」と思い浮かぶ瞬間があります。、、、まあたいていは失敗するのですが(笑) 


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でもそんなこともずーっと繰り返していると時々素敵なアイデアと一緒にそれまでとは少し違う絵が描ける瞬間があります。さらにそれをもっともっとずーーっと繰り返しているとシェイプドキャンバスや立体作品が出来上がったりします。

そしてその作品達(結果)が僕を新しいステージに連れて行ってくれます。そういう意味では毎日が小さな挑戦の積み重ねのように思います。

Q. 最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。

どこかの展示会で会いましたらぜひ声をかけてください。絵やアートの話をするのが好きですので。

Q. 今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。

10月にARTTAIPEIに台湾のギャラリーから出ます。国内でも東京で秋口に展示する予定です。よろしくお願い致します。


戸田悠理 さん
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