Yufi Yamamoto「こう在りたいと思う女性像を投影」-羽田沙織インタビュー-

Yufi Yamamoto「在りたいと思う女性像を投影」-羽田沙織インタビュー-

16歳で単身アメリカへ渡り、シアトルやカリフォルニアで10年以上過ごしたYufi Yamamoto。その作品はLAのレトロスクールの色調や、ストリートサーフカルチャーからインスパイアされ、サイケデリックかつポップな雰囲気が特徴的。

そして今回、Inherit Gallery(世田谷区)で開催中の展覧会『The Soft Flowers Club』を訪問し、作品に対する想いと、彼女のアートのルーツでもあるカリフォルニアライフについて、フリーアナウンサーでアートエバンジェリストとして活躍する羽田沙織がインタビュー。


Yufi Yamamoto「強く格好良い女性像を投影」-羽田沙織インタビュー-
インタビュー中のYufi Yamamotoさんと羽田沙織 Inherit Gallery(世田谷区)店内

お花のようにソフトでマイルドに生きれたら


(羽田)今回の展覧会「The Soft Flowers Club」ですが、タイトルはご自身で付けられたのですか?

(Yufi)そうです。由来としてはここ最近、描く題材にお花とか女の子とか、見て癒されるものが多くて。それは自分がそういったものを求めている事に気付いたんです。
と言うのも、10代の時に単身アメリカへ行って、一人でツンツンしたりして頑張って生きてきたんですけど、結局お花のようにソフトでマイルドに生きれたら良いよねみたいな。なんか肩の力を抜いていければ良いよねという気持ちを込めて。そういうソーシャルクラブじゃないですけど、一人ソーシャルクラブをテーマに「The Soft Flowers Club」と付けました。

(羽田)10代で単身アメリカへ行かれたのですか?

(Yufi)16歳の時にシアトルの高校へ留学しました。初めての海外経験だったのですが、英語は喋れないし、カルチャーショックも一杯あって。それで一度日本へ帰ってきたのですが、それでもやっぱり大学はもう一度アメリカへ行きたいと思って。それからはカリフォルニアにずっと住んでいました。

(羽田)どうしてアメリカの高校を出ようと思われたのですか?

(Yufi)元々外国の血が入っているので、日本で生まれてもやっぱり純日本人という意識もそれ程無くて。そんな時にお母さんに紹介されて、軽いノリで「まあいいよ」と言ったら超大変みたいな感じでした。

(羽田)アートを学ぶために留学をされたのですか?

(Yufi)いや全然。アートは子供の頃から好きで、ずっと絵を描いていたんですけど、ごく普通の留学です。

(羽田)向こうでアートを学ぶことは無かったのですか?

(Yufi)大学生の時に、学校の友達と海に入ったりして遊んでいたりもしたのですが、その一方で一人で絵も描いていたんです。アメリカでは画材代が安いので、キャンバスにアクリルで描く事を始めてからどんどんハマっていって。そうしたらローカルビールのお店で絵を飾らしてもらったんです。それが初めての展示です。
その後、日本へ帰国してからデッサン教室へ通い始めました。

(羽田)そこからなんですね。

(Yufi)デッサン教室では先生もアーティストの方だったのですが、ある時、「Yufiさんはプロのアーティストになりたいの?」と言われたんです。
その時に、自分の中でクエスチョンを出さずに「はい」って言っていた自分がいて、それで「あっ、なっても良いんだ。」って思ったんです。「なりたかったし、なっても良いし、なれるんだ」って思って。それからずっとそこに向かっている感じです。

強くて格好良い女の子をイメージして


(羽田)作風のベースはどういった所なのでしょうか。カリフォルニアライフや、LAのストリートサーフカルチャーからインスパイアされたりもするのでしょうか。

(Yufi)めっちゃありますね。元々サーフィンが好きで、サーフィン雑誌を読んだり、サーフブランドを身に着けたりしていたんです。それにグラフィックデザインも好きです。
後、70年代や80年代のようなレトロなものも凄く好きで。フリマや古着屋さんにある色とか。アメリカの街中ではそういったカラフルな服を着る人も沢山居て、そのような中で生活しながら自然と影響を受けていきました。

その他でも、ピカソやマティス、今の現代アーティストの絵の事を調べていくと、凄い色を使っているなという所もあって、自然とこういった絵の具のチョイスになっていきました。

(羽田)フォルムも凄く特徴的ですよね。

(Yufi)ヘニョヘニョしたり曲線が好きですね。太い太腿とか。華奢じゃない感じ。
それは帰国した時、日本とカリフォルニアでは、女の人の在り方が違うなと思ったんです。日本では細くて綺麗な人が凄く良いみたいな印象を受けたんです。一方カリフォルニアでは、太っていても痩せていても、魅力のある人は凄く魅力があるんです。そういった私なりの強くて格好良い女の子を絵にしている感じです。伸び伸び自由な感じの女の子が好きで、自然と線も太くなります。

(羽田)そういう事なのですね。アメリカで魅力的な女性とは、日本で綺麗、可愛い、美しいと言われるような女の子とは全然違う印象ですか?

(Yufi)美しいは美しいで共通する部分はあります。だけど東京へ戻ってきて思った事は、日本の女性も強くなってきていますが、アメリカの女性はマジで強いですよ(笑)

(羽田)日本人の上をいく?

(Yufi)もう全然。男性も女性も、人間として凄く我が強いんです。私は私みたいな感じなので。だから帰国当時は日本とアメリカとの違いに疑問を感じる事もありましたが、今はちょっと落ち着きました。

(羽田)これからは日本で活動される予定なんですか?

(Yufi)そうですね。今はどこかへ行くつもりはないので。
それに日本は日本で格好良いカルチャーもあるし、私の知らなかった同年代のアーティストも沢山居ますし。今、徐々に日本を再発見している所です。

(羽田)アメリカでインスパイアを受けた素敵なカルチャーがあると思いますが、Yufiさんから見て日本とアメリカのそれぞれの良さとはどんな所ですか?

(Yufi)日本の良さはとにかく優しい所です。そして優しいは強いと思います。10代の時は優しい事は意見が無いとか弱いと思っていた部分があるんですけど、やっぱり強くないと人に優しくなれないですから。
感動したのは東日本大震災の時、アメリカだと起こるような暴動は殆ど起きなかったし、助け合って生き抜いていたりと、単純に素晴らしいと思います。

アメリカの良い所は、自分の好きな事は好きでいて、他人がどう感じようと何も気にしない所です。それは自分のスタイルが何であろうと、自分が好きだから良いっていう性格の持ち主が大半なので、そこは凄く良いなと思います。

(羽田)Yufiさんが描く女性はアメリカの良い要素と、日本の要素もマッチしたようなイメージなのでしょうか。

(Yufi)私の描く輪郭の細さや面使いの細さは、日本にいる感じのタッチなのかなと思ったりします。でも色使いは、自分では意識していないんですけど、「日本にはないね」と日本の方から言われますね。

誰でもない誰かを想像できる自由さ


(羽田)人物の表情は敢えて無いのでしょうか?

(Yufi)無いですね。

(羽田)どうしてですか。

(Yufi)表情が見えない事で逆に見る人の想像を膨らますというか、自分自身抽象画が凄く好きで、具象画でも抽象画に近い具象画が好きなんです。多分そういったものを目指した時に、顔の表情を描く必要が私には無いというか、見えそうで見えない感じが好きなんですよ。その方が自分が絵を描く時にしっくりきますね。

(羽田)それは顔に重きを置いて無いのでしょうか。何て言うか、潜在的にその人の存在は顔では無いという所がどこかにあるのでしょうか。

(Yufi)昔からサイケデリックだったり、ちょっと見て首を傾げるような絵が好きなんです。敢えて少しグロテスクだったり。フランシスコ・ベーコンの作品であるような顔がグチャグチャな作品だったり。そういう作品がただ好きなんだと思います。
多分、顔が好きだなと思ったら凄く顔を描いてると思いますけど、制作していて「あっ、この絵これで完成だな」と思った時は、顔の無い事が多いんです。
それに顔が無いと抽象度が一気に上がるので。抽象画が好きだから、そういった要素を取り入れたいんでしょうね。

(羽田)実際に対面で人と接する時に、もし顔が見えないとしたら、自分だったらどういった所を見るのだろうかと言う事も考えさせられますね。顔が見えない事によって、佇まいやオーラを感じ取るように。

(Yufi)顔が見えない事で、誰にでもなれるみたいな所もあります。だから「これ誰かに似てる」っていう事もあるかもしれないし、誰でもない誰かを、頭に想像できるかもしれないし。そういう自由さとかも好きですね。

こう在りたいという女性像


(羽田)花もテーマの一つと言うことですが、今回の展覧会の作品には花がモチーフの作品も多いですね。

(Yufi)お花とか女の子って何か良いじゃないですか。見ていてほんわかするというか。それで、そのほんわかとした題材のものに、少しダークな要素も取り入れたら面白いなと思って。それにお花はイラストで描いても、芸術的に描いても心が癒されるので取り入れていますね。

そして女の子は自分がこう在りたいという女性像なんだとも思います。ケアフリーというか、ケアフリーだけどお洒落にも気を使うみたいな。そして海へ行くみたいな。他にもカラフルな感じも好きですね。

(羽田)海は一つの大きな要素なんですね。

(Yufi)16歳頃からサーフィンを始めて、最初は泳げなかったんです。それで海の無いシアトルの高校へ留学している時に、YMCAっていう凄く安いジムでクロールの練習をしてパドルが出来るようになって、ロングボードから始めたんです。そして今はショートボードに乗れるようになって。だからいつもそこにあるんです。
後はカルチャーも好きで、何かを表現したい時に自分の一部であるカルチャーが滲み出るのかもしれません。


(羽田)サーフカルチャーと言うのは具体的にどういった要素ですか?

(Yufi)サーフィンを始めた人って、めっちゃハマるじゃないですか。みんな目の色が変わるし、いきなり顔が黒くなるし。やった事のある人にしか分からない気持ち良さ、アドレナリンみたいなものとか。
それに自然とかアート的な要素も強いし、サーフボードも色んな形があるし、乗り方にスタイルが出る人とか凄く格好良いし、それに纏わるファッションもあるし。そういった一個のカルチャー的なカテゴリーに入るのかなと思います。

(羽田)私はボディーボードしかやったことはないのですが、サーフィンは凄く憧れがあります。ボディボードでも波に乗って、波と一体化するような感覚があるので、熱中する人の気持ちは良く分かります。
それに自然と一体となる。自分が波と一体化するという感覚がアートとも通ずる所がもしかしてあるのでしょうか。

(Yufi)ありますね。それにあり得ないじゃないですか。人間は水に沈むものなのに、板一本で無重力で空を飛んでいる感覚になるのはミラクルだなと思います。それに太陽が海に反射してキラキラしてたり、夕方だったら空がピンク色だったり。そういった普通の現象に人間としてジーンとしたり。

あとその他に、60年代とか70年代のアートとかカルチャーも大好きです。

(羽田)60年代、70年代ですと、生まれてないですよね。どうしてその時代を好きになったのですか?

(Yufi)16歳の時からモータウンとか聞いていたので、レイチャールズとかが大好きで。シアトルは音楽のメッカだったし、とにかく格好良いと思ったのです。それにビンテージとかアンティークの古着も昔から好きで、分からないですが古いものに心が惹かれます。
新しいものには圧倒されたり凄いなという事はありますが、格好良過ぎると言うものは、やっぱり古いものだったり受け継がれるものになります。

(羽田)Yufiさんの作品も今後時代を経ていくことで、逆説的に最先端ともなっていくのでしょうね。

(Yufi)アートは主観的だから見る人によって感想は変わるじゃないですか。だからもし私の色彩感とかに共感してくれるとしたら嬉しいですよね。



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今回のインタビューはstand.fmまたはhimalayaでもお聞き頂けます。

羽田沙織のアートチャンネル(himalaya)
https://www.himalaya.com/personal-journals-podcasts/2638310


Yufi Yamamoto Exhibition『The Soft Flowers Club』



会場:Inherit Gallery
【Instagram】

山本 ユフィ / Yufi Yamamoto



16歳で単身アメリカへ渡り、シアトルやカリフォルニアで10年以上を過ごす。その作品はLAのレトロスクールの色調や、ストリートサーフカルチャーからインスパイアされ、サイケデリックかつポップな雰囲気が特徴的。
【Instagram】

羽田 沙織 / Saori Hada
フリーアナウンサー / ラジオDJ

羽田沙織

元NHK宇都宮局キャスター、元ZIP-FMナビゲーター。
ボートレースJLCアナウンサー、テレビ埼玉「ようこそ埼玉市議会へ」、FM世田谷で活躍中。

アートが好きで美術館やギャラリーへ足を運ぶ一方、アートライターやアートエバンジェリストとしての活動も行う。
FM世田谷で毎週土曜日放送『サムディ プティ シエル』ではパーソナリティを努め、その中でアーティストやギャラリー紹介のコーナーを行う。

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