画家・上田風子「多感な10代で受けた影響が自分のアイデンティティを形成」-ARTFULLインタビュー-

画家・上田風子「多感な10代で受けた影響が自分のアイデンティティを形成」-ARTFULLインタビュー-

幻想と現実の狭間にいるようなその長い髪の少女は何を見つめ、何を想うのか。

独特の色遣いと、神秘的ともいえる情景で様々な世界を描き出す画家・上田風子さんに、作家としての原点や、作品に込める想いや意図など、詳しくお話を伺いました。


「ともしび Ⅰ」2020年700×530mm アクリル、岩絵具/和紙

上田風子 / FUCO UEDA

1979年生まれ
2003年 東京工芸大学大学院修了。
2000年 グラフィックアート「ひとつぼ展」入選
2001年 JACA特別賞・04年VOCA展出品、他。
    初個展を行い、以後、個展・グループ展多数
2006年 国外での活動も始まり現在に至る

作品集「LUCID DREAM」(芸術新聞社)

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根底は変わらずとも、作品は年齢を重ねるにつれて変容する


「うまく踊れなかった日」2019年350×270mmアクリル/胡粉、ジェッソ、キャンバス

Q.作家・画家を志した切っ掛けを教えてください。

幼い頃から周りに色々な職業の人間がいたので、自然と自分の好きなことを仕事にしたいと思っていました。

Q.現在の作風までの歴史、経緯などありましたら教えてください。

10代の頃から根底的な部分は変わっていないように思います。作品は年齢を重ねるにつれて変容はしてきていると思います。


「眠りにつくとき」Drawings

Q.ご自身の作家活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

子供の頃は漫画や小説、映画など物語を作ることに憧れていました。多感な10代で影響を受けたものが、今でも自分のアイデンティティを形成する一部になっていると感じます。

まだインターネットもなく本屋もないような田舎で育ち、同世代の漫画やテレビはあまり与えられない家でしたので、情報源は主に図書館でした。小説だと倉橋由美子・三島由紀夫・澁澤龍彦・内田百間・ヴォネガット、漫画だと萩尾望都・三原順・吉野朔実・高野文子・白土三平・つげ義春・岡田あ〜みん、映画だと宮崎駿・鈴木清順・ピーターグリーナウェイ、などが好きで、特に澁澤の書籍からは、西洋美術や古典、近代文学や舞踏や演劇といった様々な分野への手ほどきを受けました。

澁澤経由で天井桟敷や状況劇場のポスターのアートワークへ辿り着き、細江英公の写真や、横尾忠則や粟津潔や戸田ツトム、羽良多平吉らのデザイン、宇野亜喜良や林静一、片山健らのイラストレーションなど、大きな刺激になりました。

20代では、ピナ・バウシュの来日公演を見たときに受けた衝撃が、その後の作品作りへも影響を与えてくれています。素晴らしい作品に触れると、自分が生まれ変わったような世界が違って見えるような心地になりますが、そのような瞬間をいつも大切にしています。


まるで何本もの映画が、頭の中で同時上映されているような―



Q.上田さんの作品の多くに髪の長い少女が登場しますが、モチーフの少女は特定のモデルさんがいるのでしょうか?またモチーフの少女を通して表現したいこと、また魅力などお聞かせいただけますか?

特定のモデルはいませんが、中高生の頃にファッション誌モデルのniuさんと山田麻衣子さんという方が好きで切り抜きを集めていたので、顔の造形的な原型にはなっているかもしれません。髪の毛は、空間であったり風の流れであったり情感であったり、様々なものを表現する上で非常に良いモチーフになります。

一方で、幼児期のトラウマ体験も影響していると思います。幼稚園で髪が膝近くまである先生がいたのですが、戯れに子供に髪を巻きつけては子供たちを恐怖に陥れていました。長い髪の毛に畏怖の念を感じた最初の記憶です。


「眠りにつくとき」2018年530×652mmアクリル/胡粉、ジェッソ、キャンバス

少女をモチーフとすることには、最初は澁澤の「少女コレクション序説」や倉橋の「聖少女」の影響がありましたが、今はもっと貝殻のような形骸化したイメージをあえて描くニュアンスの方が強いです。


「接吻」2014年727×530mm アクリル/胡粉、ジェッソ、キャンバス

Q.上田さんの描く作品は、現実と夢の狭間のような不思議な世界観が魅力的ですが、コンセプトやインスピレーションを受ける瞬間など教えてください。

ジャンルを問わず面白い作品に触れた後は想像力がふつふつと沸き立つのを感じます。あとは、日常のそこかしこにインスピレーションが転がっているので、思いついたらすぐメモをしてストックしておきます。頭の中では何本かの映画が同時上映されているようにイメージを膨らませているので、そこから一場面をすくい取り、作品として成立するまで丹念に磨くような気分で制作しています。


「争闘と出くわした日」2019年652×530mmアクリル/胡粉、ジェッソ、キャンバス

偶然生まれた表現も一つの個性


Q.どの作品も上田風子さんの作品だと分かるほどに、醸し出すオリジナルの世界観が独特で特徴的ですが、色使いや使用する画材、技術面で作品を制作する上での拘りなどありましたらお聞かせください。

おそらく、一番分かりやすく特徴的なのは人物の肌の色と影に入るアクアグリーンだと思います。


制作風景

一番最初は強い夏の日差しの下をイメージした作品から始まったと記憶しているのですが、その後変容を繰り返して今ではトレードマークのようになっています。

海外では(私がアジア人であるので)、濃い黄土色の肌は人種的なシンボライズの表現なのかと受け取られることもあるのですが、そのような意図があるわけではありません。 しかし海外で発表することが多くなった今、その偶然生まれた表現も一つの個性になっているのだとしたら面白いと思っています。

影のアクアグリーンは、日常と非日常を行き来するようなイメージを補強するための仕掛けとして、写真のソラリゼーションのような反転現象を取り入れています。作品制作の最後には、必ず画面に飛沫を飛ばして汚しを入れます。これはコントロールしてきた作品制作の一番最後にアンコントロールな状況をぶつけることで、自分の意識を作品から解放する儀式のようなものとして行っています。


「雷が鳴った日」2019年274×220mmアクリル/胡粉、ジェッソ、キャンバス

Q.菊のモチーフもよく描かれていると思いますが、こちらのモチーフへの拘りや描くようになったきっかけなど教えていただけますか?

通っていた小学校で毎年一人一鉢の大菊を育てさせられていました。校舎脇にずらりと並ぶ、子供の頭部ほど大きく育った大菊の美しさと恐ろしい姿の記憶がまず根底にあります。その後、作品にモチーフとして登場することが増え、2013年には大菊をテーマにした個展を行いました。


「Symbiosis 2017」2017年 1300×895mmアクリル/胡粉、ジェッソ、キャンバス

以下は大菊をモチーフとした一連の作品の ステートメント です。


本作品は美術表現における美の象徴としての女性像と大菊をテーマとしたものである。


古来中国で栽培され平安時代に日本へ渡ってきた菊は、その後観賞用として改良され 現在の「大菊」へと変容してきた。より美しくするために花弁の大きさを品種改良し、豪華絢爛な花の象徴として人々の目を楽しませてきたが、いつしか巨大な花弁を持つ大菊はその雄々しく美しい姿とは裏腹に、支えなしでは身を自立できず倒れてしまう脆さを持つ存在となる。


大菊は自然界の植物の中で唯一人間の手を離れては自生できない品種となったのである。「美」を追求する人の手でその姿を改良されてきた大菊に、理想の「美」を常に追い求め続ける人間の持つ暴力的なまでの根本的欲求を見ることができる。大菊と、美術表現において古来から理想の「美」を追求されてきた女性像を重ね合わせた視点を軸に、一連の作品は制作されている。


立体や映像も挑戦したい

Q.作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

作品を作る時はいつでも苦しく大変なのですが、それが平常な為、かえって波はないように思います。作品そのものには影響はないのですが、人との出会いや対人的な出来事が良くも悪くも状況を変える契機になることが多いです。

Q.普段制作活動されているアトリエについて教えてください。

10年以上使用している自作大型イーゼルが使いやすくて助かっています。オススメしてもあまり真似してくれる人がいないのですが、バランスボールを椅子がわりにしてから腰痛から解放されました。


自作の大型イーゼル

Q.今後、作家として挑戦したいことはありますか?

絵画以外の、立体や映像などにも興味があります。


制作風景

Q.最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。

自分自身もまだ道半ばですが、周囲を含め20年を振り返ると「続ける」ことの困難さや大切さがやはり一番大きいかと思います。本質的な軸がしっかりとある人はぶれずに長期的な活動ができるのだと思います。特にアーティストは20年30年と長いスパンで考えることが必要で、その上で作品に普遍性はあるのか、時代とどう並走できるのか、など多角的に自問自答しながら続けていくしかないのではないでしょうか。


「交歓」2017年 280×800mmアクリル/胡粉、ジェッソ、キャンバス

Q.今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。

上田風子作品集 「LUCID DREAM」
B2ポスター付き特装版

ご購入はHP、またはGallery MUMONまでお問い合わせください。
HP| https://fucoueda.com/
Gallery MUMON| https://mumon.artcafe.co.jp/


グループ展:「ephemeral〜少女たちの領域 2021」
会期| 2021年9月18日(土) ー 2021年 10月3日(日)
会場| みうらじろうギャラリー
URL| http://jiromiuragallery.com/


上田風子個展(仮)
会期| 2021年11月27(土)ー 2021年 12月15(水)
会場| 清アート
URL| http://www.kiyoshiart.com/


2人展(予定)
2022年末  ロサンゼルスにて予定