画家・新宅和音「原点は怒りと葛藤”思春期から大人の装への変貌”」-ARTFULLインタビュー-

画家・新宅和音「原点は怒りと葛藤”思春期から大人の装への変貌”」-ARTFULLインタビュー-

その少女は何を見ているのか。彼女の描くキュートな出で立ちの少女の視線は、どこか不安定であり、一方どこか強い意志を感じ取ることもできます。

今回は、印象的な少女を題材として、数多くの作品を生み出す画家・新宅和音さんに、作家としての原点や、作品に込める想いなど、詳しくお話を伺いました。


新宅和音

新宅和音 / Kazune Shintaku

大分県別府市在住
多摩美術大学大学院グラフィックデザイン科イラストレーションスタディーズ出身

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思春期の泥臭い葛藤と大人の女性の振る舞い


「悲壮な使命1」 2019年  F10号

Q.作家・画家を志した切っ掛けを教えてください。

グラフィックデザイン科に入った時点ではアニメーションや漫画、インスタレーション、立体などさまざまなことに興味があり、 大学でそれら全てを一通り試しました。 尊敬する先生方に、君には作家性があると言われたことを真剣に捉えていたので、自分はいつか作家になるんだと思い込んでいた気がします。

大学院を出てからは就職したり辞めたりで、飲食や工場のアルバイト、中学の非常勤講師をしていましたが、 ある時展示をしていた時のお客さんから”みうらじろうギャラリー”という所があなたに合っているとお薦めされてすぐ持ち込みに行き、そこから商業ギャラリーで展示をさせてもらえるようになりました。

Q.新宅さんの描く作品は、血を流していたり、目が3個だったりとどこか毒のある表現がとても印象的です。伝えたいことやエピソードなどありますか?


「火星の運河」 2020年 F6号

私はオーストラリアで中学の3年間を過ごしたのですが、帰ってきたら友達がまるで大人の女みたいな顔になっていて、思春期の泥臭い葛藤とかバカバカしさとか血が出るような苦しみとか全く忘れたような顔をしていたのが何か大変腹立たしく思えて、「あの時の私たちを思い出せよ!」みたいな、そういう怒りが今の思春期の女の子たちを描いている原点みたいな気がしています。

世間に対する怒りや葛藤でもあるけど、原点はその子たちへの怒り。

音楽や物語をイメージして

Q.「彗星」「眠り」など、細かく背景描写が描かれている作品からは、物語の様なストーリー性を感じます。こだわりやテーマなどがあればお聞かせください。

彗星


「彗星」 2019年 S4号

バンド 東京恋慕のLP”空を飛んでいればまた逢える”の ジャケットのために描き下ろした作品です。収録曲の”彗星”を聞いて、そこからイメージしたものを描きました。

背景になっている夜景は今住んでいる別府のもので、幼い頃から よく見ていた山と街の光が黒い海に反射して伸びている。私にとっての原風景です。

そこに別のMVで出てきていた日常的に着ているであろうパジャマを身につけたメンバーのドクガエルさんを巨大に描くことで、 一人きりの夜の中でどこまでも大きくなっていく寂しさを表現したいと考えました。

眠り


「眠り」 2019年 F10号

“アリス幻想奇譚”というアリスをテーマにした展覧会のために描きました。古くからアリスの物語が様々な創作の元ネタになっているのは知っていたのですが、幼少期からそれまで原作に触れたことがありませんでした。

しかし読んでみて一番に「夢オチ」の部分が印象に残り、これは夢、もしくは眠りについての物語だと思いました。
そこで自分なりに眠りと夢について描くことでそれが新たなアリスの物語になるのではないかという試みです。

Q.新宅さんの作品は印象的な表情とは逆に、POPで明るい服装や色使いがとても目を引きます。こちらの対比について伺えますか?


「今すれちがった人」 2019年 F25号

私の好きなルネサンスの肖像画では、古風で素敵な衣装や宝石、金色の装飾などが描かれています。
それらは今生きている私にとっては全く身近ではなく、それよりもフードが付いたパーカーとか、100円で買えるピンクのパッチン留めとか、インスタで見たおしゃれの女の子の髪型とかそういうものの方がよっぽど身近で興味があります。

私にとってはそれらを絵に描いた方が正直であると言うふうに考えているからです。

人生の丸ごとを表現する

Q.別府で作家活動をされているという事ですが、都内や他県での展示も精力的に行われていらっしゃいます。大変な事などあれば教えてください。


大分県別府市 風景

コロナ以前は、大分と東京を年に何回も往復する中で、特に不自由を感じる事はありませんでした。

しかしこのコロナ禍で、1年以上東京や大阪などの自分の展示に在廊をしていません。そうなると他の作家さんの展示で今の作品を見る機会がなくなってしまうため、だんだん心の何かが枯渇していってるような気がしています。

もし東京に住んでいたらもうちょっと様々な展示を見る機会があったのではないかなと考えることがあります。


大分県別府市 風景

Q.作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

質問を受けた瞬間「挫折、今だろ」とも思いましたが、常に挫折し続けていると言えるかもしれません。

自分の気分に翻弄される人生のため、この冬の間はずっと布団の中にいて絵を描く気もない状態でしたが、そういうことが今まで何回もあって描ける時は描けるし描けない時は全然描けない。


「不安」 2019年 F6号

それはもうしょうがないことで、それら人生の丸ごとを表現していくしかないのではないかと考えています。そう思えたことがターニングポイントなのかもしれないです。

Q.ご自身の作家活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

大学で最初に私の作家性を認めてくれたアニメーションの片山雅博先生、イラストレーターのスージー甘金先生。高校生の頃から今まで影響受け続けている人であれば、作家の稲垣足穂とフリーダカーロです。

海外での展示に向け働きかけ続ける

Q.普段制作活動されているアトリエについて教えてください。


アトリエ風景

ずっと6畳の部屋の中で寝起きし、大量の服もあってその中で絵を描いていたのですが、最近寝る場所と絵を描く場所を分けると、大変快適になりました。お勧めです。

Q.今後、作家として挑戦したいことはありますか?

海外で展示をしたいとずっと言い続け、働きかけていますが、まだ成果はありません。 いつかいいギャラリーで展示ができると思っています。


「Too Long in the Wasteland 1,2,3」 2020年 各F4号

Q.最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。

自分が展示したいと思えるギャラリーとか会場探し、同系統の作品を作っている仲間を得るとか、今はSNSがあれば活動に有利なことが沢山あると思います。

だけど作家活動する中で、もうSNSを見たくなくなる時が必ず来ると思うので、作家としてのアカウントとは別に、人ん家のかわいいワンチャンとか猫やアザラシだけをフォローしたアカウントも別で作っておいた方が精神の安定に良いかと思われます。

Q.今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。

グループ展「少女礼賛 -少女たちが奏でる共通認識-」
会期|6/9(水)- 6/20(日)
時間|13:00-19:00
会場|Bunkamura Gallery
URL|https://www.bunkamura.co.jp/gallery/exhibition/210609girl.html


グループ展「formation」
会期|7/2 (金)-7/14(水)
会場|新宿眼科画廊

【展示概要】
血縁関係、精神的な繋がり、社会的な繋がり、私たちは様々な形で他者と繋がっている。
そしてそれらは自己を形成するに当たって欠かせないものだ。
それぞれの作家が描く「家族」をテーマにした五人展。