数字で読み解く 世界のアートマーケット

はじめに 世界と日本のアート市場

 世界のアートマーケット(現代アート)は、現在約7兆円〜8兆円といわれています。経済に強い方だと、日本の国家予算が100兆円を超えているので小さいと思うかもしれませんが、日本のアート市場は僅か300億円程度に過ぎません。日本は残念ながら欧米や中国と比較しても文化事業への投資が少ない国なのです。また日本の特徴として、アートは鑑賞するモノで購入することを意識していない人が多いことも特徴です。

事実、日本人の美術館への入場者数は世界一だからです。決してアートが嫌いな国民ではなく、アートが大好きな国民性であるものの、アートを「所有する」という土壌が育っていないことが分かるはずです。日本は国土の狭さだけでなく、学校で投資教育を学ぶ機会がなく、こうした日本の教育システムも大きく影響しているはずです。実際、世界と日本のアートマーケットには、とてつもなく大きな差があるのです。

米国が世界No,1のアートマーケット

 米国が現代アートで1番大きなマーケットであり、世界全体の41%前後のシェアを握っています。つまり、現代アートの中心地は米国なのです。米国の現代アートマーケットは年間3兆円を超え、人口は3億人を超えているので、米国の1人当たりのアートへの投資額は約1万円となります。日本の1人当たりのアートへの投資額が僅か240円程度なので、いかにアートを購入する文化が育っているのか実感出来るかと思います。

 現代アートを牽引するのが世界をリードする米国メガギャラリーの存在です。例えばデイビッド・ツヴェルナー、ガゴシアンギャラリー、Paceギャラリー、ブラム&ポー、マリアンヌ・ボエスキーなど、世界的なギャラリーが日々アートサーキットの先頭で競争しているのです。それに加えてアーモリーショーやバーゼルマイアミなどのアートフェアも盛んであり、NYやLAは年中刺激的なアートを楽しむことが出来る環境が整っています。

中国が世界No,2のアートマーケット

 中国は英国を抜いて世界で2番目に大きなマーケットへと躍進しました。現在、世界全体の21%のシェアを握っています。20世紀の一時期、日本はバブル経済(80年代)に突入し、アジアのアートシーンをリードした時代がありますが、それは今や昔のことです。中国市場の特徴は、自国の現代アーティストと古美術品の人気が特に高いことです。

近年、日本にあった中国の古美術品は中国人コレクターによって買い戻されていることに加えて、中国のアーティストが世界的にも注目されています。中国経済の発展によって、アート市場も成長を続けているのです。特に注目されている上海アートシーンは、中国経済のダイナモを感じる力強さがあります。美術館の建設ラッシュなどが続いており、今後はさらに大きなアートシーンが形成されるはずです。

中東ドバイのアートシーン

 今後の現代アートシーンを引っ張る新興勢力の筆頭がドバイでしょう。そもそもドバイはアラブ首長国連邦が構成する7つの首長国の1つですが、なぜドバイが注目なのかというと、経済を見れば一目瞭然です。ドバイは元々、中東やペルシャ地域における資産をリスクヘッジする場所として機能してきました。そのため中東で最も安全な都市なのです。だからこそ世界中から多くの資本が集まり、セレブリティが集うのもそうした社会的背景があるからこそです。またドバイの1人当たりGDPは約4万700ドルとほぼ日本と変わりません。アートマーケットはまだ小さいものの、今後さらに注目が集まるアートの新興勢力として注目されています。

おわりに 世界のアートマーケットはどこまで成長するのか?

 最後に世界のアートマーケットがどこまで成長するするのか?と疑問を持った方がいるかもしれません。大前提として経済の成長なくしてアートマーケットの成長は不可能です。では経済成長に1番必要なものは何かと言えば「人口」です。歴史上、人口が低下した国で持続的な経済成長を遂げた国は存在しません。つまり世界人口の推移をみれば、今後の世界経済の成長と減速が見えてくるのです。2019年に国連が発表した世界人口の推移によれば、2100年に人口成長は止まり、約6割の国で人口減少社会を迎えているとの予測があります。このデータがどこまで正確なのかは分かりませんが、少なくと私たちが生きている間は世界人口が増加するのは間違いなく、それに比例してアートマーケットも成長を続けていくはずです。それはつまり、投資対象として有望な作品は、長期で見ていけば今後も値上がりする期待値が高いということです。国や都市の人口と経済力を調べると、アート市場の発展をある程度予測すること可能なのです。