アート業界のオンライン販売の実績と展望

美術品売上の9.2%がEC!アート業界のオンライン販売の現在地と今後の展望

新型コロナウイルスによる店舗運営の変化、そしてこれから来る大容量通信を可能とする5G、日増しにその重要性が増しているEC(オンライン販売)。
今回は、世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル」とスイス最大の銀行「UBS」が、世界の美術品市場を調査したレポート「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2020」からアート業界におけるオンライン販売の現在地を見てみましょう。

美術市場におけるオンライン販売実績

その前に先ずは世界の美術品全体の総売上について見ていきます。
下記のグラフは2013年から2019年までの世界の美術品全体の売上の推移になります。

2019年は前年度より5.3%減の641憶ドル(約6兆8,587憶円 ※107円換算)です。2013年から見ると増減はありますが、概ね600憶ドル以上の推移となっています。
次に世界の美術品のオンライン販売での売上げを見てみます。

2019年は前年度より1.6%減の59憶ドル(約6,313憶円)です。しかし2013年から2019年までの期間を見るとほぼ右肩上がりに増加しています。そして2013年と比較するとオンライン販売の売上は190%増となり、約2倍となりました。

それでは上記の合算と、オンライン販売の売上の全体に占める割合を見てみます。

2019年のオンライン販売の売上は、全体でみると9.2%しかありません。2013年の4.9%から見ると2倍以上増加していますが、依然として10%にも届いていません。

一般小売業種とのオンライン販売の売上比較

上記グラフは美術界と一般小売でのオンライン販売の売上比較になります。美術界は先ほどのグラフ「世界の美術品の総売上、オンライン販売での売上とシェア」でもみたように、ここ3年間は8%、9%、9%と横ばいになっています。
一方、一般小売でのオンライン販売の割合は10%を超え、年々上昇しています。

美術界も今後オンライン販売が伸びてくる可能性はありますが、現時点では一般小売と比較すると出遅れています。

オンライン販売で売れている価格

それでは美術界でのオンライン販売では、どういった作品が売れているのでしょうか。ニューヨーク発のアートのオンライン販売サイト「Artsy」のデータをもとに見ていきます。

上記グラフはArtsy全体での販売数の割合(価格帯別)になります。グラフから1,000ドル~5,000ドル(約100,000円~500,000円)の価格帯の作品が42%と最も多く購入されています。

また1,000ドル(約100,000円)以上の作品を購入した割合が77%となっています。これはオンライン販売であるからと言って、低価格帯の作品しか売れないという事はないという事でもあります。

次に、上記グラフはArtsy全体での売上に占める割合(価格帯別)になります。グラフから10,000ドル~100,000ドル(約1,000,000円~10,000,000円)の価格帯の作品がArtsy全体の売上の46%と最も多くなっています。

また10,000ドル(約1,000,000円)以上の作品の売上に占める割合は69%にもなります。

先ほどの「 販売数の割合 」グラフから、10,000ドル(約1,000,000円)以上の作品の販売数の割合は18%ですが、その売上げに占める割合では69%にも昇ります。
これはオンライン販売であっても高価格帯の作品は売上効率が高い事を表しています。

まとめ

これまでのデータより美術界でもオンラインで作品を販売することは可能である事が見えてきましたが、オンライン化にはまだ出遅れています。

また「一般小売業種とのオンライン販売の売上比較」の項より、2019年の一般小売のオンライン販売の割合は14%でしたが、スペイン初のアパレル「ZARA」では、新型コロナウイルスの影響もあり、2022年までにこの割合を25%までに引き上げようとしています。

様々な業種で積極投資を行っているEC事業。美術界でももっと積極的にECへ投資を行い、これからの時代を切り開いていくことが大切なのかもしれません。