アートの経済的価値と重要性とは何か

 今回はアート作品がどのように経済的価値を持つようになるのか、その仕組みと価値体系がいかに重要なのかについて解説していきます。

ゴッホを生んではならない

 画家ゴッホは生前1枚しか絵が売れなかったという逸話はあまりにも有名ですが、どんなに才能に恵まれたアーティストも作品を誰にも見てもらえなければ、地球上に存在していないのと同義となってしまいます。もっと正確に言えば、アートワールドで評価され歴史に名を残す為には、アーティスト本人の努力だけでは極めて難しいと言えるでしょう。なぜなら、アーティストが創作活動に集中出来るような環境づくりと作品のPR・販売をするだけでなく、美術館や顧客との交渉などのマネジメント業務を行う必要があり、その為にはアーティストを支えるギャラリストの存在が必要不可欠です。

その他にも作品に新たな文脈や価値を見出す優れた批評家や作品の展示構成を考えアーティストの全体像を提示するキュレーターの存在。それから作品購入を通じてアーティストを支え、美術館などにも貸し出しをするコレクターの存在。これらが合わさりアートワールドが形成され、アートを通じた経済交流が生まれ、作品の付加価値が形成されていきます。そしてインターネットによって世界中で情報が共有できるようになった現在は、それ以前よりも「才能の発掘」が分かりやすくなり、ゴッホのようなケースが生まれにくくなっているのは間違いないでしょう。

 では次にアート界を動かす主要なプレイヤー達をご紹介します。

フランソワ・ピノー

 グッチ、イヴサンローラン、バレンシアガなどのブランドを傘下に収める「ケリング」CEOでありながら、オークション会社クリスティーズのオーナでもある世界的な現代アートコレクターとして名を馳せる人物こそ、フランソワ・ピノーです。次にどんな作品を購入するのか、世界中のアート関係者が常にその動向を注視しています。また直近ではパリにある元商品取引所だった建物を建築家の安藤忠雄が改修設計した私設美術館「ブルス・ドゥ・コメルス」が今年の6月に開館予定でしたが、新型コロナウィルスの影響により来年春へと延期されました。一体どんな美術館になるのか想像するだけでも今から待ちきれない気持ちになります。

イーライ・ブロード

 米国を代表するコレクターとして必ず名前が挙がる人物といえばイーライ・ブロードではないでしょうか。元々の素養が商才に長けており、まず13歳の頃に切手の収集と販売で身を立て、20歳の頃には史上最年少で公認会計士の資格を取得しました。そこから不動産や保険で財を成し、ビジネス界で大成功を収めます。その後、LAにあるカウンティ美術館の分館としてブロード現代美術館をオープンさせます。直近では2015年に同じくLAに現代アートに特化した「ザ・ブロード」をオープンさせ、建築や作品だけでなく、入場料が無料であることも話題を呼びました。

チャールズ・サーチ卿

 兄弟で起業したサーチ&サーチ社を世界でも有数の広告代理店へと成長させます。とはいえそこに至るまでに会社の資金繰りで必要な資金を捻出する為に、コレクションしてきたアート作品を売却することで逆境を乗り越えてきました。その後大きな転機が訪れます。まだ無名アーティストであったダミアン・ハーストらが組織した若手アーティストの展覧会「フリーズ」に注目し、精力的にコレクションするようになります。当時、購入したアーティストがYBAのメンバーであり、そのなかでもダミアン・ハーストは後に世界的アーティストへと駆け上がっていきます。作品価値が数百倍へと値上がりした作品もありますが、後にYBA作品のほとんどをオークションで売却し大きな波紋も引き起こしました。とはいえ、投資と売却という大胆なスタイルで資産価値を上昇させたのは間違いなく、サーチ流の売買は賛否はあれど、投資家やコレクターにとっては学ことが多いはずです。

まとめ 今こそ日本もアートの経済的な価値に気づくべきだ

 アート界の様々なプレイヤーによって作品の「価値付け」がされなければ、「アート作品」としての世界的評価を得られることはありません。では日本はどうなのでしょうか?1980年代のバブル景気の際に印象派の作品を沢山購入したことにより、私たちは海外でも見ることが出来ない名画に触れることが出来ます。しかし現代アートに関しては、日本人アーティストの優れた作品も海外へと流出しています。今こそ新しいアートの価値を経済も含めて創ろうとする人材が必要ではないでしょうか。