画家・秋山 佳奈子「アートで街を元気に、私にも何か出来ることがある」 -ARTFULLインタビュー-

今回のインタビューは、画家としての活動はもちろん、地元である栃木でアートで地域の問題を解決しようと町おこし活動も行っている秋山 佳奈子さんに、作品に込める想い、町おこしの活動について詳しくお話を伺いました。

秋山 佳奈子
1986年 栃木県生まれ 
2010年 多摩美術大学大学院博士前期課程絵画専攻版画研究領域 修了

近年の主な展覧会
2020年 
「描かれた水神展」小山市立車屋美術館(栃木)
2019年
「第 22 回岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館(神奈川)
「アジアホテルアートフェア釜山」 韓国    
「グロテスキュン★展 vol.5」 ギャラリー渓     
「USAGI 展」 中之沢美術館(群馬)     
「Story teller 物語を紡ぐ」 アキバタマビ 21     
「釜山国際アートフェア」 韓国    
「アートプロジェクト高崎」 高崎中心市街地(群馬) 
2018 年 
「水の中にいきづくもの展」 中之沢美術館(群馬) 
2017 年 
「WCAS アーティストインレジデンス」 Mosan Art Museum(韓国) 
「森の中の美術館ⅩⅧ」 中ノ沢美術館(群馬) 
「Ohtawara Belleville」 AaB ギャラリー(フランス)
2016 年 
「Young art Taipei」 台湾 
「Floating on Waves 2016」 アメリカ
「The 17th International Biennial Print Exhibition, R.O.C」 台湾
「アジアホテルアートフェア ソウル」 韓国 
「秋山佳奈子個展 Welcome to my underground」 ギャラリー渓 
2015 年 
「アジアホテルアートフェア香港」 香港 
「The 3rd Bangkok Triennale International Print and Drawing Exhibition」 タイ 
「2015 Guanlan International Print Biennial」 中国 
「未来展」 日動画廊 
「ART AWARD NEXT Ⅱ」 東京美術倶楽部 
「Spoon Art Fair」 韓国
2009 年度三菱商事アートゲートプログラム奨学生 
小山市若手芸術家育成支援事業助成金 

【公式HP】 【Twitter】


第22回岡本太郎現代芸術賞展
写真提供:川崎市岡本太郎美術館

“美術”なら自分の世界をもっと自由に表現できる

Q. 画家を志したきっかけを教えてください。

最初はどちらかというと高校からドラムをやっていて音楽活動をしたいと考えていました。

ジャンルはヴィジュアル系。影響を受けた90年代のヴィジュアル系バンドはコンセプトがしっかりしているバンドが多く、メイクや衣装、アートワークも含め総合芸術だと思っていてバンド活動の肥やしになればと美大進学を考えました。

ただ進学後にバンドも解散し、女性だとヴィジュアル系バンドはなかなかメンバー探しも難しく…よくよく考えてみたら自分の考えていることや世界をたまたまバンドで表現しようとしていただけだったことに気がつきました。もしかしたら自分が考えていることを美術の方がもっと自由に表現できるのではないかと思ったのがきっかけです。


Q.現在の作風までの歴史、経緯などありましたら教えてください。

パフォーマンスのプロジェクトなどに参加したこともありましたが、人との対話が面倒になり自分の世界に没頭できる銅版画での表現を選びました。現在も描いている目元を隠した「誰でもない人達」「匿名性のある人物」は大学4年の頃から作品に登場しています。「誰でもない人達」は時に「誰か」になることがあります。

世界で起きている出来事は一見他人事のように感じることもありますが、それらはいつか自分に起きる出来事かもしれない。私の描く世界も一見架空の世界のようですが、現実の出来事から感じたことを描いています。そういった基本的なコンセプトは昔から変わっていません。

作りたいテーマはたくさん浮かぶのですが、工程が多い銅版画はどうしても完成するまで時間がかかってしまうので、並行して鉛筆やアクリル絵の具で描くようにもなりました。基本的にコンセプトがあって何の方法で作るか考えるという形なので近年は空間全体で表現することもあります。


a human farm

インスピレーションは、物語に触れた時と生きていて違和感を覚えた時


Q. 「人×生き物 の作品が印象的です。
人間が生き物の被り物をする、ということにはどんな意図があるのでしょうか?また、そのそれぞれの生き物に意味はあったりするのでしょうか。

動物を描いた作品は作品によって意味合いが異なるのですが、アレゴリー、寓意として使っていることが多いです。

ウサギを被っているバニーガールのシリーズについては、耳を付けることで可愛らしいまたはセクシーな印象を与えているバニーガールにリアルなウサギが乗っていたら、その印象はどう変化するだろうか?という考えから始まった作品です。

男性向けの女性像について違和感がまずあって、バニーガールとしてデフォルメしているところを本物に戻してみた感じですね。そして第二次世界大戦時、アメリカ軍が戦意高揚のため戦車や戦闘機にお守りとして貼っていたと言われる、セクシーなポーズをとった女性像ピンナップガールや江戸時代のグラビアともいえる浮世絵に描かれた遊女をバニーガールにしています。

他の作品に描かれる動物も何かしら例えになっています。


Japanese Bunny girl-yu-jo and kamuro-Ⅲ

Q. 着物の作品などは、モチーフは“和”でありながら色使いやテイストは“洋”の雰囲気もあり素敵です。背景や着物を描くにあたり、何か参考にしているものなどはありますか?

作品を作るときに取材から入るタイプなので家の中は資料だらけです。舞台美術、ファッション写真、動物園のパンフレット、海外のお城、きのこや金魚の図鑑などなど。着物は浮世絵などを参考にすることもあります。動物園や植物園にもよく写真を撮りに行きます。コンセプトに合わせてありとあらゆる資料を引っ張り出してくるのですが、資料探しで一日中部屋の本を漁って終わることもあります。


wish

Q. 作品のインスピレーションはいつ、どのようなときに浮かびますか?

物語に触れた時と生きていて違和感を覚えた時です。
観劇と読書が趣味なのですが、どちらも第三者の物語を体験できますよね。それらの物語に触れた時にイメージが浮かびます。

また、世の中のニュースなどを見ておかしいなと思う時、言葉よりも絵で浮かぶので、そこから作品にしていきます。


数々の作品と、アトリエについて


Q.いろんな作風、技法の作品を作成されていますが、それぞれについて教えてください。

出典: 秋山佳奈子HP ARTWORKS Painting

Paintingはアクリル絵の具で描いています。

出典: 秋山佳奈子HP ARTWORKS Printmaking

Printmakingは版画ですね。私は主に銅版画の腐食技法エッチングという方法で制作しています。
銅板に防腐剤を塗り、細い針で描画し、酸に付けます。するとニードルで防腐剤を剥がした部分が溝になり、そこにインクを詰めてプリントします。酸に浸ける時間が長くなればなるほど深い溝ができるので、時間が長ければプリント時に太い線、短ければ細い線になるのでこれらの組み合わせた線で絵を構成していきます。

出典: 秋山佳奈子HP ARTWORKS  Mixed media

Mixed mediaの表記は三種ぐらいの画材を組み合わせている作品に使用しています。HPにあるものは主に油性色鉛筆、水彩絵の具、アクリル絵の具など性質の違う画材で描いています。

出典: 秋山佳奈子HP ARTWORKS  Drawing

Drawingは油性色鉛筆のみで描いている作品です。

出典: 秋山佳奈子HP ARTWORKS Photo collage

Photo collageはソーラープレートという写真製版制作したものです。樹脂版に紫外線で写真を焼き付けるとその部分にインクが入るようになります。


Q. 制作活動されているアトリエについて教えてください。

現在栃木県足利市に拠点を置き制作しています。
夫も彫刻家なので一軒家を借り自宅でできる作業は自宅でしています。

元々足利市は繊維産業が盛んで、自宅があるエリアも繊維の買い付け市場があった場所。賑やかな場所だったので、作業時の音なども気にしない土地柄です。そこから200m先に昨年アトリエを新たに手に入れました。


アトリエの外観

老舗の料亭が管理していた建物で元々スキーショップだったのですが10年以上空き家でした。
「あしかがアートクロス」というイベントで展示会場として使用したご縁があり、女将さんのご厚意でお借りしています。


セルフリノベーションの様子

壁や床など直さなければならない箇所もあったので地域の方にお手伝いいただきながらセルフリノベーションしました。

1階は銅版画プレス機を置き、版画の制作スペースと、夫の木彫スペース。2階は現在東京在住の日本画の作家さんが制作されています。


1階の作業スペース
2階部分

足利市は東京から1時間半くらいの距離なので、改装を始めた頃から東京でアトリエを持つのが難しい方や大きな作品を作る方にお貸したいと思っていたのですが、すぐに決まってしまいました。

落ち着いたらアトリエ公開日を設けて、地域の方々がアートに親しんでもらえる場にできたらと思っています。


首都圏との教育格差、文化格差を目の当たりにした


Q「アートで地域おこし」をされていると伺いましたが、その活動について教えていただけますか?

まず地域を盛り上げるために大切なことは関係人口を増やすことだと考えています。

足利市では毎年春に「あしかがアートクロス」という空き店舗や古民家に作品を展示する街歩きイベントを開催していますが、そちらにスタッフとして参加しています。

足利市は歴史がある街なので古いけれど魅力的な建物がたくさんあります。こちらのイベントは使われていない空き店舗、古民家をボランティアで掃除をし、展覧会会場として使用することで建物を再活用しています。アートイベントをきっかけに他の地域から足利市に訪れていただくきっかけを作ることができたらと思っています。
また、家賃が安く東京が近いというのは強みだと思うので、制作場所に困っているアーティストを誘致したいとも考えていて、私のアトリエもその一環なのですが、空き家や使われていない公共施設をアトリエとして再活用することも進めています。


小学校で図工授業を行う秋山さん

Q.  その活動をするきっかけはなんだったのでしょうか。

大学院2年生の時に中之条ビエンナーレに出品しました。
空き店舗や文化財で展示ができることも魅力的だったのですが、その時展示だけでなく、街の人が食べ物を売っていたり、小学生がとったカブトムシを売っていたりするのを見て、アートで街を元気にすることができるんだと思い地域アートに興味を持ちました。

また、大学助手時代に過疎地域のワークショップに連れて行ってもらったことも大きいですね。首都圏との教育格差、文化格差を目の当たりにし、何かできることはないかと地元に戻ることを考えるきっかけになりました。


ワークショップの様子

Q. その他、何か力を入れている活動などはありますか?

版画のワークショップなどは積極的に行っています。大学で設備を必要としない版画の制作方法も学んだので先生方向けの講習などもしています。

また、今年から小学校の図工の授業のお手伝いもしています。足利市の小学校には図工の専任の先生がいません。
そのため簡単な教材キットなどを使用することが多いそうなのですが、それだと子どもの本来持っている能力を制限してしまうように思いました。そのため、先生方と相談し教科書の単元をより広げる形で授業を行っています。

基本的に子供たちの作りたいものを実現するためのお手伝いという感じで、やりたいことは制限しないように意識しています。


欲望の果て

Q. 今後、作家として挑戦したいことはありますか?

何年か版画をゆっくり作れる環境がなかったので、新しい技法などの研究をしていきたいと思っています。
また、作品単体でなく空間で見せることでコンセプトをより分かりやすく伝えられるような作品にしていきたいです。


混在

Q. 最後に、アートフル読者、作家に向けて一言お願いいたします。

私もまだまだなので偉そうなことは言えませんが、これまで何とかやって来れたのは海外のレジデンスでの経験が大きいように思います。慣れない土地で違う言語の人たちとコミュニケーションをしなければならないという環境は大変ですし、海外の作家さんは主張が強い方が多いので色々と鍛えられました。作品に向き合うだけでなく色々な経験が生きてくると思います。