不況にも強いアート作品とは何か

はじめに

 新型コロナウィルスの影響により世界経済は後退期へと突入しました。とはいえ米国経済を見ればわかるように、株価は大きく下落したもののすぐに半値戻しを達成し、実体経済と株価の動きに乖離が出ています。これは株式市場が1年〜1年半後を織り込んで投資家が株を仕込んでいることが大きな要因です。ではアートマーケットはというと、今後しばらく低迷が続くはずです。なぜなら世界をみればまだまだ感染が拡大しており、購買行動はコロナ以前まで回復するには時間が必要だからです。今回は不況下でも強いアート作品とはどんな作品なのかについてと、現代アートを引っ張る米国と中国の関係について考察していきます。

不況に強い作品とは

【不況に強い作品】

 まず不況に左右されにくいジャンルの筆頭として「古美術」が挙げられます。なぜなら古美術の世界は目利きの世界であり、そもそも価格が一律な世界ではありません。つまり、投資という側面よりも本当に骨董が好きな人が購入することが多く、投機的な余白が少ないのです。そうしたクローズドな世界である分、作品価格の安定へと繋がっているはずです。短期的に大きな価格上昇はないものの、価格を気にすることがなく、じっくり楽しむことができるのも魅力でしょう。

【不況に弱い作品】

 戦前の19世紀から20世紀前半にかけての近代美術や戦後の現代アートは景気に左右されやすい作品と言えるでしょう。なぜなら、アートマーケットを支えている超富裕層の購買に対する動きが鈍くなるからです。そうなると、アートフェアやギャラリー、オークションなどアート全体に影響が波及していきます。またアートは生活必需品ではないため、投資家は先行きが不透明なマーケットを1番嫌います。なぜなら、作品を購入した時よりも作品価格が下落することを懸念するからです。そうすると資金がアートに流れないようになるので、アート市場の循環が鈍くなるのです。

【トップオブトップの作品は別格】

 不況による価格下落の懸念が全てのアーティストに当てはまるわけではありません。世界のトップオブトップのアーティスト作品は既に一定数の評価が定まっており、大きな値崩れは考えにくく、反対にコレクターの資金が集中してさらに値上がりすることもあるのです。またこれから世に出る若手アーティストの作品価格は安いため、多くの注目を集めやすい条件が整っており、今後、若手の世界的アーティストも出現するはずです。

新型コロナウィルスによってアートのパワーバランスが変化するのか 

 新型コロナウィルスによって今、世界経済が最も懸念しているのが米中関係の悪化です。米国は5月20日に上院議会が中国企業を上場廃止へと追い込める法案を、全会一致で可決しました。この法案により米国株式市場に上場する中国企業は、PCAOB(米公開会社会見監査委員会)という監査法人の検査を3年連続で受けなければ、米国が上場を強制的に廃止できるようになったのです。これにより米国に上場している中国企業は撤退も視野に入れているはずです。米国に上場している中国企業全体の時価総額は約1兆ドルと言われおり、その規模は米国市場全体の3.3%に上ります。米中はバイオ、5Gの分野で激しい「冷戦」に突入しており、両者の関係は今後も長引く可能性が高いでしょう。これにより中国の留学生や研究者が米国へ行くこと自体が難しくなるはずです。アカデミックな交流が途絶えることで、米中のアートマーケットも互いに悪影響を及ぼすことが懸念されます。

まとめ 米中の切れない関係とアートバランスの変化

 とはいえ米中の民間企業による経済交流の流れは止まらないかもしれません。例えば中国は世界屈指の高級ブランドの3分の1以上の売上を支える地域へと成長しています。また高級ブランドを購入する年齢層は米国や欧州に比べて20歳以上も若く、それだけ中国は可処分所得でブランド品を購入する余裕があることを意味しています。アート作品は経済や文化の中心地へと集約していくので、今後もアートの中国市場は伸びていくはずです。また中国は既に5Gの特定の分野で米国をリードしており、これは未だかつてなかったケースです。今後、米中のパワーバランスが変化するとすれば、中国のアートにおける存在感がさらに増していくのではないでしょうか。今後も世界経済が成長していくことを思えば、長期保有前提のコレクターは現状に悲観するのではなく、絶好の「買い場」が到来したと考えるべきではないでしょうか。これこそ不況下におけるコレクターのアートとの付き合い方かもしれません。