有事の金、有事のアート

はじめに

 新型コロナ・ウィルスの影響により様々な分野における人と人との交流がストップし、世界経済は景気後退期へと突入しています。例えば4月の米国失業率は過去最悪の14.7%となり、失業者数は2023万人と前例のない未曾有の時代へと突入しています。たとえ米国のFRBの金融政策は世界経済の動向を知る上で欠かせませんが、今は2008年に起こったリーマンショックを超える、前例のない金融緩和策を次々と打ち出しています。日本国内ではコロナが収束しつつあるものの、世界を見れば未だ拡大を続けており、コロナのワクチンはまだ開発されていません。こうした先行きの不透明さを最も嫌うのが株式マーケットであり、こうした有事の際に注目されるのが金やアートなどの美術品です。

これらは現物資産であるため、株式とは異なり「紙クズ」になる心配がありません。特に金の場合、株式市場と比べてその規模は10分の1に過ぎず、わずかな資金が金市場に流れることで、大きな値上がりが期待できます。今回はこうした有事の際の投資先として有望な金とアートについて見ていきましょう。

リスクヘッジとしての金とアート

 リスクヘッジとは金融の世界でよく使われる言葉ですが、有事の際にあらかじめ備えておく資産運用の戦略です。例えば株式の世界で有名な投資家レイ・ダリオは「オール・シーズンズ戦略」という投資手法を生み出したことで有名ですが、これは経済が春夏秋冬、どの季節においても資産防衛する方法として多くの投資家が参考にしています。この戦略では金を常に5%保有しています。金価格は他の金融資産との相関性が低く、もしもインフレが起きた場合には金投資のリターンが高くなることが期待されます。

つまり、金投資はあくまでも幅広く分散投資をする効果を得るために保有しておく、という考え方が一般的ですが、今後、数年間に限って言えば、金は今よりも多くの注目を集めそうです。なぜなら金の先物価格が株式チャートの「カップ・ウィズ・ハンドル」というチャートを形成しており、これは株価が新高値を更新した際に、その株価が大きく上昇することが期待されるチャートパターンのことで、金は今後も大きな価格上昇が期待されます。

 ではアートはどうでしょうか。例えば美術の世界でコレクターズアイテムと呼ばれる古切手、骨董、アールデコの調度品などは美術的知識と目利きの力が問われる分野です。そのため、ある特定分野に造詣が深いことが求められますが、投資という観点から考えてみると市場価格がある程度決まっており、大きなリターンを得るのは難しいでしょう。

ところが、第二次世界大戦後の「現代アート」に絞った場合、今後も長期的な値上がりが期待できます。なぜなら、美術の歴史から見れば歴史がまだ浅く、確固とした値段が決まっているとは言えないからです。とはいえ100年に1度といわれる経済危機の最中にあり、オークションやアートフェア、ギャラリーや美術館での企画展も延期や規模縮小が続いています。今後のアート市場はしばらく縮小することは間違いないでしょう。一時的に高額な作品の売れ行きが鈍るなどの影響を与えるはずですが、その分、手頃な価格のアート作品に注目が集まる「絶好の買い時」ともいえるのです。

特に現代アートは美術史のなかでも一番新しく歴史が浅いため、評価がそれ以前の作品と比べて定まっているとはいえません。そもそもアートが人類にとっての新しい美意識の更新なのだとすれば、アートはどんな社会や時代でも求める人が存在する現物資産です。だからこそ資産運用のポートフォリオの中に「アートを組み入れる」ことを検討する価値が十分にあるのです。

まとめ 有事の金、有事のアート

 日本でアート作品を購入しても資産運用だと考える人は少ないはずです。なぜなら先進国の中でも日本のアートマーケットは小さく、アートを購入する文化が定着していません。またお金や投資について学校で学ぶ機会がほとんどない為、資産運用という視点でもアート作品が選択肢に入っていません。有事の際に金価格が上昇するように、いざ資金が必要な時に現物資産としての強さを発揮することがアート作品の資産価値ではないでしょうか。例えば国内外の若手作家に絞って作品を収集する方法や、ある特定のアーティストの作品に絞ってコレクションするのも良いでしょう。ぜひアートを所有することに興味を持っていただけたら幸いです。

 以上、有事の金、有事のアートでした。