「生と死」がテーマのアートとお金の関係

はじめに

 私たち人間にとって根源的なテーマである「生と死」。これはアートの分野でも最も多く表現されている対象です。なぜなら、人間の誰もが生と死からは逃れられない普遍的なテーマであると同時に「命」そのものが強い表現であるため、作品の題材として惹かれ主題に置きやすいということもあるでしょう。今回は2名のアーティストを紹介すると同時に、「生と死」を題材にしたアーティストと「アートとお金」の関係について触れていきます。

生と死を主題に置くアーティスト

【宮島達男】

 宮島達男といえば代表作でもある「LEDのデジタルカウンター」を連想する人も多いのではないでしょうか。名実ともに日本を代表する世界的アーティストの一人としても有名です。作品の特徴であるカウンターは、数字を9から1までカウントを繰り返し、半永久的に反復が続きます。作品によって無数に散りばめられたカウンターはそれぞれに進むスピードが異なり、生や死には限りがあること、各々に寿命が異なることを感じることが出来ます。そして命という普遍的でありながら重層的なテーマを作品が与えてくれているのです。また「0」のカウントがないことも作品の特徴です。これにより数字が消えて暗闇が現れます。その時間の余白に「生と死」を極めて冷静に感じられることも宮島作品の大きな特徴でしょう。

【ダミアン・ハースト】

 生と死の問題を一貫して題材にしているのがイギリスを代表する現代アーティストのダミアン・ハーストです。例えば代表作である動物の遺体を使ったホルマリン漬け作品「Natural History」では、生物は死んだ後に腐敗するものですが、それを半永久的に留める作品を提示しました。不思議なことに死骸も「アート」に転換されることで、逆説的に「死」のイメージから遠ざかるところも面白く、その提示の仕方もハーストならではの才能でしょう。

また死に対抗し得るものをテーマに置いた作品も精力的に制作しています。例えば薬の錠剤を連想させる「スポット」という作品では、カラフルなドットを等間隔でちりばめた作品「The Spot Painting」という作品を発表しています。その他にも「アートと金」の関係を見事に暴き出した作品を発表します。それは18世紀の男性の本物の頭蓋骨を鋳造し(歯は本物)、ピンクダイヤモンドを8601個使用して表面全体を埋め尽くした「For the Love of God(神の愛のために)」 という作品です。ダイヤモンドが生の存在を際立たせ、死を遠ざ覆い尽くす作用があること、死とは何かについて新しい視点を持った作品に昇華させたことで、「ダミアン・ハースト」の名前は美術史に永遠と刻まれることが決定的となりました。この作品は発表当時(2007年)120億円という価格が付き、当時現存するアーティストの中で世界最高価格を記録しました。「生と死」「アートと経済」の結びつきの強さをアート作品を通じて証明した瞬間でもあったのです。

おわりに

 生と死は普遍的なテーマであるため、今後も多くの作品が生まれ、そのなかには歴史に残る傑作も誕生するでしょう。そして、そこには多くのお金が動くはずです。事実、ダミアン・ハーストは現在のアート界で最も資産を持つ人物であり、総資産額は1000億円以上と言われています。その他にも韓国系アメリカ人アーティストのデヴィッド・チョーはFacebookから絵の依頼があり、報酬を現金の代わりに株式でもらい、後に株価が高騰して一躍大金持ちとなりました。アートは一旦火がつくと多額の資金が動く大きなマーケットが形成されています。個人コレクターも絵を選ぶ際の選択肢のひとつとして「生と死」というテーマの強さを感じながら絵の購入を検討すると、アートの異なる魅力や新たな捉え方を発見するかもしれません。アーティストが自身の世界を表現すると同時に、多くの人々にインスピレーションを与えてくれることで、私たちはその恩恵を受けることが出来るのです。