画家・永瀬武志「柔らかい光、心地よい空気感を表現したい」-ARTFULLインタビュー-

体温を感じるかのような温かい肌。
何らかの意識を持っている澄んだ瞳。
そこには生が宿っている表情が描かれています。

今回は、写実表現で人物画を描く永瀬武志さんに、これまでの作風の変遷や、作品に込める想いなど、詳しくお話を伺いました。


永瀬武志

永瀬武志 / Takeshi Nagase
1979 埼玉県生まれ
2002 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業 福沢一郎賞
2004 多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻修了

個展 
2005 GALLERY b.TOKYO/京橋
2006 GALLERY b.TOKYO/京橋
2007 『Life』 YOKOI FINE ART/六本木
2008 『曖昧な精密』 馬喰町ART+EAT/馬喰町
2009 『real』 Bunkamura Gallery/渋谷
    『super real』 YOKOI FINE ART/東麻布
2010 『blooming』 YOKOI FINE ART/東麻布
2011 『生きている -super painting- 』 YOKOI FINE ART/東麻布
2013 『祈り 遊び』 YOKOI FINE  ART/田町
2016 『今この世界にいるということ』 みうらじろうギャラリー/日本橋
 
グループ展
2005 『 GEISAI 8』 東京ビックサイト
2006 『Bunkamura Art Show 2006』 Bunkamura Gallery/渋谷
2007 『アートフェア東京 2007』 東京国際フォーラム/有楽町
    YOKOI FINE ART オープニング展 『挑戦』 YOKOI FINE ART/六本木
    『ART in DOJIMA』/大阪
    『ART BEIJING 2007』/北京
    『東京コンテンポラリーアートフェア 2007』 東京美術倶楽部/新橋
2008 『ART BIJING  2008』/北京
    『「スープのために」展』 馬喰町ART+EAT/馬喰町
2009 『ART TAIPEI 2009』 Taipei World Trade Center/台北
2010 『ART TAIPEI 2010』 Taipei World Trade Center/台北
    『quartet -コドウする絵画-』 西武池袋本店アートギャラリー/池袋
    『FACES』 1223現代絵画/広尾
2011 『Find Your Favorite』 六本木ヒルズA/Dギャラリー/六本木
    『VARIA NAGOYA ART FAIR 2011』松坂屋名古屋店/名古屋
    『+PLUS THE ART FAIR 2011』 東美アートフォーラム/新橋
    『YOKOI FINE ART COLLECTION』 YOKOI FINE ART/東麻布
2014 『写真と絵画のシンクロニシティ』 Bunkamura Gallery/渋谷
2015 『ART OSAKA 2015』 ホテルグランヴィア大阪/大阪
    『ART NAGOYA 2015』ウェステインナゴヤキャッスル/名古屋
2016 『FACES and HAEDS 2016』 みうらじろうギャラリー/日本橋
2017    『ART NAGOYA 2017』 ウェスティンナゴヤキャッスル/名古屋
    『FACES and HEADS 2017』 みうらじろうギャラリー/日本橋
       『ART OSAKA 2017』 ホテルグランヴィア大阪/大阪
    『夏の夜の夢』 みうらじろうギャラリー/日本橋
2018 『ART NAGOYA 2018』 ホテルナゴヤキャッスル/名古屋
       『ART in PARK HOTEL 2018』 パークホテル東京/汐留
    『TRANSPARENT』 文房堂ギャラリー/神保町 
    『ART OSAKA 2018』 ホテルグランヴィア大阪/大阪
    『夏の夜の夢 2018』みうらじろうギャラリー/日本橋
2019 『魅惑の人物画展』Gallery ARK/横浜
    『FACES and HEADS 2019』 みうらじろうギャラリー/日本橋
    『ART OSAKA 2019』 ホテルグランヴィア大阪/大阪
『アルマ展』Gallery ARK/横浜
2020 『FACES and HEADS 2020』 みうらじろうギャラリー/日本橋
『ART NAGOYA 2020』 ホテルナゴヤキャッスル/名古屋
『魅惑の人物画展』Gallery ARK/横浜
『アストレア展』Gallery ARK/横浜
    『浮生若夢』 みうらじろうギャラリー/日本橋
    『アルマ展』Gallery ARK/横浜
    『胆大心小』 みうらじろうギャラリー/日本橋
2021 『魅惑の人物画展』Gallery ARK/横浜

公募展
2002 『トーキョーワンダーウォール公募2002』東京都現代美術館/木場
2003 『0号展』トーキョーワンダーサイト/本郷
2004 『トーキョーワンダーウォール公募2004』東京都現代美術館/木場
2005 『トーキョーワンダーウォール公募2005』東京都現代美術館/木場
2010 『第28回上野の森美術館大賞展』 上野の森美術館/上野
2020 『第3回ホキ美術館大賞展』ホキ美術館/千葉

【HP】 【Twitter】


光を跳ね返す

筆跡の残らないクールな描き味のエアブラシに惹かれた学生時代


Q.作家、画家を志した切っ掛けを教えてください。

子供の頃から絵を見ることや描くことが好きでした。
美大に通っている時には絵を描くこと、作品を作り上げることは既に生きがいのようになっていました。

大学を出た後も、出来るだけ絵を描いていたいと思っていたので、多摩美の大学院を修了した時、就職はせず、アルバイトをしながら個展をしたりグループ展に参加していたのですが、2005年の「GEISAI 8」という村上隆さんが催されていたアートのフリーマーケットのようなイベントに出品した時に、いくつかギャラリーから声を掛けてもらいました。

そこから、画家として活動していくようになりました。


制作風景

Q.学生時代の作品もTwitterで拝見しました(Coccoさんやお父様を描いた作品)が、学生とは思えないとても高い画力に驚きました。
かなりの努力を積み重ねてこられたと思いますが、学生時代の思い出やエピソード等ありましたらお聞かせください。

1998年に多摩美の油画科に入学したのですが、当時はゲルハルトリヒターに傾倒していたこともあり、大学2年頃から写真を利用してエアブラシで描くようになりました。
エアブラシの筆跡の残らないクールな描き味は、その当時はとても魅力的でした。


Q.写実画の魅力、永瀬さんが一番惹かれている点はどこでしょうか?

「手触り」でしょうか。
描かれている対象がこの手で触れることが出来るかのように、そこにある。そこにいるように感じること。
そう感じるとその絵から、なかなか離れられなくなります。


体温

エアブラシで写実性を追求。そして油絵へ


Q.エアブラシを使用して制作しているそうですが、写実のリアルに描く、というイメージからは遠い存在のように感じますが、永瀬さんの作品を見ると光に包まれた優しさを感じる写実画でとても美しいと感じました。エアブラシでの写実画についてお聞かせいただけますか?

1999年(大学2年)から2016年まで17年間くらいアクリル絵の具をエアブラシで吹き付けて制作していました。
始めのうちはカメラのピントがぼやけたような描き方をしていましたが、だんだん写実性を増していく方向に進んでいきました。
そして『複数、生きている』(2012年)や『社』(2013年)辺りで自分の中ではピークを迎えました。


『複数、生きている』(2012年)

『社』(2013年)

エアブラシで写実性を追求して描くことは、自分の技術では限界まできてしまったと感じました。

そこからエアブラシに絵筆の仕事をミックスするなど試行錯誤していました。
2017年、作品のモデルを家族など身近な人からプロのモデルさんにお願いするようになった頃、より実在感のある表現にしたいと考えました。
そしてエアブラシは描き出しに少し補助程度に使うに留めて、油絵の具で、筆で描くようになりました。



油絵の具で描き出した当初は、自分の中ではそれまでエアブラシをとことん突き詰めて、相当煮詰まっていましたし、油絵でしっかり描かれた写実画への憧れもあり、そして何より油絵の具の、温かみがあり、自由度の高い描き味に対する喜びが爆発して、とても感動しました。

そこから現在まで、4年間くらい、油絵の具と絵筆で人物画を描いてきました。
制作は今もとても楽しいです。油絵の具で人物画を描くことをもっと深く追求していきたいと思って日々制作しています。


Q.まるでそこで息をしているかのような、体温を感じる肌、それぞれのパーツの質感の表現が繊細で印象的です。永瀬さんが一番大切にしている肌や顔、表情の表現についてお聞かせください。

肌を描くのは一番というくらい興味がありますし、描いていて楽しいです。
モデルさんの個性、モデルさんを撮影したときの光の状況などにより、肌は様々な色合いを見せます。それは何色と一言で言えるものではなく、とても微妙で複雑です。

油絵の長く時間をかけて熟成させるような描き方は肌を描くのに適していて、何度描いても、絵の具が肌の質感、色合いに変化していく過程は神秘的で、描いていて、とても喜びがあります。


『vivid』 制作過程

『vivid』

目鼻口などのパーツを描くこともとても興味深いです。
それぞれに視覚、嗅覚、食べること、喋ることなどの機能を持つ目鼻口などのパーツですが、組み合わさり、顔となると何かしらの表情を表します。


希望の絵

人間は他者の顔に何らかの表情を感じずにはいられないと思います。
絵の中の人物像に、喜怒哀楽のようなわかりやすい表情ではなく、何か具体的にはわからないけれども、その人の個性を表す表情が宿ったように感じる瞬間が、描いていて、あります。
それはその作品が、自分の絵画表現において課しているハードルをひとつ達成した時でもあります。


柔らかい光、心地よい空気感みたいな「心地よさ」を表現したい


Q.写実画でありながら、永瀬さんらしさ、リアルである以上に表現したいことなどございましたらお聞かせください。

リアルである以上に表現したいことがあるとしたら、「心地よさ」だと思います。
僕の絵を見てくれた人がみなそう思うとは限らないのは当たり前の前提ですが、
自分としては、作品から、柔らかい光、心地よい空気感みたいなものが現れて欲しいなと思っています。


揺れ

Q.作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などありましたら教えて頂けますか?

先ほどもお話ししましたが、最近ではやはり画材を変えたことです。

アクリル絵の具とエアブラシから、油絵の具と絵筆で描くことに変えたことはとても大きな出来事でした。エアブラシ作品が、技法的にも売れ行き的にも行き詰っていた2016~2017年頃、 油絵の具と筆に切り替えたことはまた新たな可能性が目の前にバッと広がった感じでした。



Q.ご自身の作家活動において影響を受けた作家、人物などはいらっしゃいますか?

写真と絵画の関係性、抽象と具象の垣根のなさなどにおいてゲルハルトリヒターにとても影響を受けました。
ワイエス、ロペス、フロイド、ベーコンも大好きで、それぞれの写実性、人物表現に影響を受けました。


興味のあること、楽しいことを続けて、発展させて欲しい


Q.普段制作活動されているアトリエについて教えてください。

アトリエは、5年くらい前から自宅の一室を使っています。広さは10畳くらいです。それまでは実家のはなれを使わせてもらっていました。
こだわりはそんなにないのですが、できるだけシンプルに、余計なものは置かないようにしています。


制作風景

Q.2018年にアートスクールを開かれ、講師もされているとのことですが、きっかけやスクールを通して伝えたいことなどございましたらお聞かせください。

2010年から10年ほど絵画教室の講師として勤めていました。その経験を生かして2018年からは自分の教室を始めました。

生徒さん一人ひとりが絵画に対して、どんな感性と経験値で、どんなことに喜びを感じて、どんなことに悩みながら、制作しているのか考えながら、想像しながらご指導しています。

そしてその生徒さんが絵を描くことがより好きになって、楽しく描き続けられるように、サポートしていきたいと考えています。


淡い光

Q.今後、作家として挑戦したいことはありますか?

対外的に、具体的にというのはすぐには思いつかないのですが、作品ひとつひとつが、ちゃんと描く喜びやエネルギーに満ちたものにしていきたいです。


Q.最後に、アートフルは若手作家に向けてのメディアなのですが、これから作家活動をしていく若手作家に向けて一言お願いいたします。

ぜひご自分の興味のあること、楽しいことを続けて、発展させていただきたいです。
それがポジティブに周りの人を巻き込んでいけるように、広がっていけるようになっていただければと思います。


Bright

Q.今後の展示会や活動予定等ございましたらお願いします。

3月13日から3月28日までみうらじろうギャラリーのグループ展「FACES and HEADS 2021」

6月24日から7月3日までGallery ARKのグループ展「アストレア展」に出品いたします。


『安心』 制作過程

『安心』