妖怪画家・怪人ふくふく「一枚の絵に生命力と物語をねじ込んでいく」-ARTFULLインタビュー-

妖怪画家兼イラストレーター 怪人ふくふく

20年前から、地元の広島県三原市の居酒屋などで展示を行いつつ、我流の墨彩妖怪画や武者絵など、パワフルな画風で描く。

毎年大阪で開催されるプロの妖怪系作家で構成された展示イベント「なにわ妖隗祭」に毎年参加。
イラストレーターとしては「墨絵とデジタルを組み合わせた墨彩画」を売りに活動中。

イラストレーターデビュー作は、笠倉出版社「いちばんおもしろい妖怪図鑑」※現在も電子書籍で販売中

近年は西東社「頂上決戦!世界のモンスター最強王決定戦」「戦う妖怪大百科 最恐 物の怪決定戦」「頂上決戦!UMA未確認生物最強王決定戦」のイラストを手掛ける。

地上波では、Eテレ『沼にハマってきいてみた』銭湯沼にてイラスト起用。

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熱いライバルたちに出会い、一気に世界観が変わった


Q. 作家、画家を志したきっかけを教えてください。

幼稚園の頃に、世界児童画展でなんどか入選をして「大きくなったら絵で稼ぐ!」と言っていたのがキッカケかと思います。


Q. 現在の作風までの歴史、経緯などありましたら教えてください。

上記のキッカケののちは特に何かに出展することもなく、たまに趣味で絵を描く程度でした。
絵画を意識し始めたのは中学生の頃に読んだ平山郁夫画伯の本がきっかけだったと記憶しています。

あれを読んでから「自分も描けるようになりたい!」と試行錯誤を始めましたが、もちろん独学ですし日本画の画材なんて高くて買えないのでグダグダでした。
中学高校は運動部でしたし、あくまで趣味の範疇でしか描いていません。

しいて言えば、当時の格闘ゲームや90年代アニメ黄金期の世界観にハマって毎日6時間くらいイラストを描きまくっていたくらいでしょうか(笑)



本気で「画家になる!!」と創作活動に傾倒したのは岡山の「中国デザイン専門学校」に入ってからだと思います。まだまだ明確なビジョンもない状態で「授業で絵を描けるから」とデザインの専門学校へ入学したのですが、そこで大変熱いライバルたちに出会えたことで一気に世界観が変わりました。

残念ながら専門学校は資金不足で中退しましたが、現在まであきらめずに頑張れたのは当時の友人や先生たちとの出会いがあったからだと思います。
この出会いはずっと地元に引きこもっていたらまず得られなかった刺激でしょう。



あと、専門学校で思う存分勉強が出来たことで、歌川国芳の武者絵や絵葉書などの「墨彩画」に作風の焦点をしぼれたことも大きいです。

中退後は東京で働きながら墨彩画を描きつつコンペにちまちま出す生活で、30歳手前で地元に帰省。
普通に働きながらモヤモヤと過ごしていた時「イラストレーター」という職種があることを知り、絵で稼ぐという夢に再挑戦しました。

そこから妖怪画家やイラストレーターと自称できるようになるまで10年以上かかってしまいましたが、ようやくスタートラインに立てたんだなと、今まで支えてくれた家族や友人たちに日々感謝して生きています。


「姿かたちがわからない」 その妖怪の魅力とは


Q. 妖怪画の一番の魅力、怪人ふくふくさんが惹かれている点はなんでしょうか?

広い意味で「自由」なところです。
妖怪はもともと目に見えない理解を超えたモノの総称「穏(オン)」とか「鬼(キ)」と呼ばれていたそうで、姿かたちは基本的になかったという話があります。

自分にとってこの「姿かたちがわからない」というのがとてもそそられまして、様々な逸話を紐解きながら姿を思い浮かべ、妖怪画として現代社会に蘇らせていく過程が本当に自由で楽しいのです。

ネット社会ですのでちょくちょく「(他メディア作品)のデザインのほうが良い。」とか言われますが、そんな相手の顔も見えない無責任な意見は無視ですね。



Q. “妖怪”を描くようになったきっかけなどありましたらお聞かせください。

もともとは読書専門の妖怪好きでした。
なので妖怪を描き始めたのは意外に遅く、専門学校中退後に歌川国芳の浮世絵を参考にしているうちに鬼の絵が増え、そのまま自然な流れで描くようになっていました。

ちなみに現在の看板シリーズ「百鬼夜行」を描き始めたのは27歳頃、飲み会で腐っていた私に、友人が「現状に悩むくらいだったら妖怪が好きなんだし百鬼夜行でもかけばいいじゃんw」と言われたのがきっかけです。


百鬼夜行シリーズ

Q. 妖怪は見た目はもちろん恐ろしく、危害を与える印象のある存在ですが、妖怪それぞれ悲しい過去や妖怪になってしまった経緯があったりなど、奥深い存在だと感じています。こちらいかがでしょうか?

私も同感です。
若いころにそういった深みに気づかされたのは、源頼光一行vs.土蜘蛛や酒呑童子などの話が実は「朝廷と反逆者の戦いだった説」あたりでしょうか。
あれは当時目からウロコでした。

頼光に討たれた時の捨て台詞が「鬼に横道(邪道、不正)はなきものを!」と、勧善懲悪とは言い切れない後味を残すなど、
酒呑童子だけでもちょっと調べだしたら泥沼なので、妖怪はおススメです。



Q. 一番好きな“妖怪”はなんでしょうか?またその理由を教えてください。

やっぱり酒呑童子ですね。
武者絵との相性も良く、人間臭さが残っているのもいいです。
あと、子供のころの私がいじめられっ子だったため、力強い鬼に憧れているというのもあります。



ストレスを妖怪画にして発散


Q. 怪人ふくふくさんの描く妖怪画は妖怪なので“恐い”ももちろん感じますが、躍動感があり生き様が見えるようで“カッコいい”と感じました。妖怪を描く際、一番大切にしていることはなんでしょうか?またご自身の描く妖怪画で「これだけは負けない」というポイントなどあれば教えてください。

たしかに「カッコイイ」作品作りはいつも大事にしている部分です。

躍動感については、一枚の絵にいかに生命力と物語をねじ込みつつカッコよくするか?と試行錯誤した結果の副産物といえるかもしれません。



これらがうまくハマると、私自身嬉しくて自分の作品をニヤニヤしながら額装して飾っていますが、上手くいかなかったときはお通夜のようなテンションになります(笑)
「これだけは負けない」という部分ですが、私の絵は完全に私だけの世界なので、そもそも負けなどない思っています。


Q. 作品のインスピレーションはいつ、どのようなときに浮かびますか?また、“妖怪”のイメージ、姿のイメージなどはどのように膨らませているのでしょうか?(妖怪の姿、実物を見ることが難しい為)

ぶっちゃけ仕事のストレスですね(笑)

普段は客商売もしており、世の中素敵な人ばかりではないので「怒り、憤懣」がたまりやすく、正直嫌ですけれども重要なインスピレーションの源です。

私生活で他人をぶっ飛ばすのは犯罪ですから、そのストレスを妖怪画にして発散しています(笑)


妖怪のイメージについては、妖怪の逸話を調べているうちにイメージが固まってきます。
江戸時代の妖怪だからこんな服装にしようとか、山に暮らしているからこんな食生活だろう、とか、そういった積み重ねで完成していきます。


「画業の夢」を諦めようかと、でも「絵を描くこと」を辞めたいと思ったことは一瞬たりともない


Q. 作家人生の中で、挫折やターニングポイントとなった出来事などがありましたら教えて頂けますか?

挫折しかなくてどこから言えばいいのかわかりませんが、一番きつかった時期は地元に帰ってからの3年間がまず浮かびます。

20代の頃は、絵が売れなくても気楽に続けて行こう!と活動していましたが
30歳を通過しても相変わらず商売下手だった私は「画業の夢」をあきらめようかと揺れていました。

しかし面白いもので、私が「転職します。」と上司に相談した次の日「いちばんおもしろい妖怪図鑑」の依頼がきて「やっぱりやめません!」と上司に前言撤回する事になりました(笑)
これで自分も画業の道が開けた!と思っていましたが、世の中甘くありません。

そこから6年間ほどは大きな仕事も取れずかなりきつい時期でした。いま思うと相当病んでいましたね。
妖怪の御縁で「なにわ妖隗祭」の参加作家として誘われなければ、あの辺で画業をあきらめたかもしれません。

しかし誤解してほしくないのですが「絵を描くこと」を辞めたいと思ったことは一瞬たりともありません。


Q. 普段制作活動されているアトリエについて教えてください。



自宅です。
ふつうの古い賃貸アパートで、私のアトリエは6畳の自室兼寝室なので作業スペースは実質一畳くらいだと思いますが、狭いスペースでいかに効率よく絵を描けるか考えて配置しています。


愛用の筆

大きい作品は家族が寝静まった後に台所でブルーシートを敷いて描いています。


自分で彫った落款の数々

海外でも認めてもらえる妖怪画家に


Q. 今後、作家として挑戦したいことはありますか?

最近はイラストレーターとして忙しくなってきましたが、求められる内容はパソコンで描くイラストが主流です。

しかし、私の持ち味は墨彩画なので、この本来の画風で妖怪図鑑の商業出版が出来たらうれしいなと思っています。
あとはすごくザックリですが、海外でも認めてもらえる妖怪画家になりたいです。海外のアートに対する懐の広さは日本とは比べ物になりませんからね。



Q. 最後に、アートフルを見ている作家に向けて一言お願いいたします。

制作だけにかまけず、宣伝や営業の勉強をしたほうが良いと思います。
私はこれを怠ったため、いまだに苦労しています(笑)


今後の展示会、活動予定

毎年大阪にて11月ごろ開催の「なにわ妖隗祭」に参加、展示。

2021年2月2日(火)~7日(日)
「鬼彩【肆】~藝術的“鬼”展覧会」 (ギャラリーソラトB/京都・東山)にてゲスト展示
<鬼>をテーマに自由に表現する展覧会第4弾。