今「買い」の若手日本人アーティスト

はじめに

 新世代のアートのキーワードのひとつが「テクノロジー」です。近年、この2つの世界の境界線が溶け合うように融合しており、特に若手アーティストはそれを日常的に使いこなしており、ごく自然な形でアートに取り込んでいる作品が顕著に出現しています。今回はテクノロジーを組み入れたアート作品を発表している若手日本人アーティストを紹介します。

ライゾマティクス

 ライゾマティクスは建築、プログラミング、サウンド、Web制作、ビジネス化、デバイス、ロボット、という各々の超一流のプロフェッショナルによるクリエイティブ集団です。Perfumeの革新的とも言えるライブを支えていることで存在を知った方も多いのではないでしょうか。このライブは映像作品として、広告分野における世界三大広告賞に位置する「カンヌライオンズ国際フェスティバル」において、サーバー部門銀賞を受賞しています。組織形態はプロジェクトによって横断的に結びつくリゾームとしての共同体に近いといえるでしょう。

話題になった仕事をいくつか取り上げると、かつて大手携帯会社のCMを担当し、スマホ1つで都市機能を自由に操作できる近未来を提示しました。スマホというデバイスを使って実社会におけるフィジカルな体験を創出したのです。その他にはスポーツ界へも進出しています。特にNIKEとのコラボレーションは多くの人を驚かせたはずです。これはNIKEの新シューズ「NIKE FREE RUN+」のプロモーションにおいて「靴を楽器にする」ことを技術的に実現して世界中を驚かせることに成功させました。これにより「ナイキ・ミュージック・シュー」はその世界観も含めて高く評価されることとなったのです。最先端の技術と培われた新しいロジックの融合が最大の魅力ではないでしょうか。

ザ・ユージーン・スタジオ

 「ザ・ユージーン・スタジオ」はアーティスト寒川裕人から生まれたアイディアを具現化・事業化する組織です。トップダウン型の集団であり「All for one」の組織である点も大きな特徴でしょう。今回は代表的なプロジェクトとして「農業革命3.0」をご紹介します。これは山形県鶴岡市との共同プロジェクトであり、元々自然界に存在する機能を活かしながらバイオテクノロジーを融合させる試みとして注目されています。こうしたプロジェクトを「リビングリサーチ」と名付け、Webサイトなどでも閲覧することが可能です。

2016年には鶴岡市でインスタレーションとカンファレンスが開催され、有機食品、機能性植物などの食のあり方、バイオテクノロジーを使って廃棄物やセルロース、構造タンパク質を使って新素材を生み出し、それを家具や衣服に転用した作品が提示され、様々な有識者が交わるイベントとなりました。こうした都市のビジョンを描くコンセプトそのものがアート作品として評価されていることも、新時代のアートの提示のひとつではないでしょうか。

落合陽一

 現在、様々な媒体で登場しており、その名前を知らない人はいないでしょう。「現代の魔法使い」など様々な肩書きがありますが、ここでは「メディア・アーティスト」としての側面をご紹介します。まずアーティストとして創作の出発点にあるものは「物化する自然と情念」です。自然の風情や気配を大切にしながら、そこに最新のテクノロジーが融合することで、新しくも懐かしく感じる違和感を提示し、アートを通じたコミュニケーションを可能としてくれます。大学にある研究室の名前も「デジタルネイチャー」であり、人と機械、物質とVRの区別がない世界を創造し続けています。今、各方面からジャンルを超えて最も注目されているアーティストです。

おわりに

 このまま人工知能が発達すると、やがてシンギュラリティ(技術的特異点)が到来すると言われています。これは人間の知性を超越した人工知能が出現することを予測しており、現在、2045年頃にやってくるとも言われています。より高度な文明社会が目の前に広がったとき、実は海外も含めた各地域の思考がとても顕著に反映されるかもしれません。

実際、今回取り上げたアーティスト3名の日本的思考とテクノロジーの融合は、他国にはない感覚でしょう。今後、技術が発展していくなかで私たちの道標となりえるアーティストであり、今後さらなる世界的な飛躍が期待されます。もちろんコレクターとしては作品を所有したい「買い」の日本人アーティストであることは間違いありません。