「数字で読み解く GDPとアートフェアの関係性」

アートフェアがその国の特徴や地域性、トレンドを映し出す鏡だとしたら、そこには必ず経済の流れも介在しているはずです。なぜなら私たちが生きる社会は経済なしでは存在せず、経済を通じて様々な交流が生まれているからでず。それはアートフェアも同様です。そこに需要があり経済が生まれるからこそ開催されるのです。今回は年々盛り上がりを見せる4つのアートフェアと開催国のGDPの関係性について調べていきます。

アートステージ・シンガポール

 国を挙げて文化政策に取り組むのがシンガポールです。一人あたりのGDPは約64,500ドル、日本円で約660万円前後です。日本の一人あたりのGDPが400万代前半で推移していることと比較すると、いかに高水準かがわかると思います。またシンガポールには資産1億円以上を持つミリオネアが約14万人おり、全人口の3パーセント以上が富裕層です。こうした経済的に豊かな土地で生まれたアートフェアの会場は、「マリナ・ベイ・サンズ」というシンガポールを代表するアミューズメント・コンプレックスで開催されます。2011年に生まれた若いフェアですが、今ではアジアでも有数のアートフェアへと成長を遂げています。入場者数は5万人を超え、何よりも政府の全面的なバックアップがあることも大きな強みでしょう。

アーモリー・ショー

 アートの街ニューヨークを彩るアートフェアといえばアーモリーショーです。正式名称は「国際現代美術館」(The International Exhibition of Modern Art)ですが、1913年に第1回目がマンハッタンの兵器庫(armory)で開催されたことで、現在もニックネームで定着していることも大きな特徴です。1世紀以上の歴史を誇るアートフェアとして、ニューヨークのアートシーンに欠かせない存在です。毎年入場者数は6万人以上であり、東海岸で最も影響力があるのは間違いありません。

 米国の一人あたりのGDPは約65,223ドル、日本円で約720万円です。またニューヨーク市はマンハッタン、ブルックリン、ブロンクス、クイーンズ、スタッテン島という5つの区域で構成されています。金融セクターの中心地であるニューヨークだけでも、その経済規模はGDP換算で6,000億ドル、日本円で約68兆円と中堅国家並みの規模を誇っています。今後も米国が資本主義をリードしていくことを考えると、少なくとも今世紀中は経済とアートの中心地であり続けるはずです。

アートバーゼル

 1970年代から始まったアートバーゼルは、スイス北西部の都市バーゼルで生まれました。現在はバーゼルの他にも香港、マイアミでも開催され、各都市で入場者数8万人以上を超えており、単体でもとても大きなイベントとして成立しています。現在、最も影響力のあるアートフェアといって間違いなく、世界のアートシーンを引っ張るメガギャラリーが多数参加しており、世界中からセレブリティが集まるイベントとしても有名です。本家バーゼルの都市人口は約20万人に過ぎず、いかに期間中多くの人びとが訪れているのかが分かるかと思います。

 スイスの一人あたりのGDPは約83,000ドル、日本円で約910万円です。世界の一人あたりGDPでもトップ3に君臨しており、スイス経済はアートと経済の両輪で堅調に推移しています。それこそスイスが最強の小国と呼ばれる所以でしょう。 

フリーズ・アートフェア

 アートマガジンの「FRIEZE」が主宰するイギリス最大規模の現代アートフェアです。このアートフェアは「フリーズ・ロンドン」と「フリーズ・マスターズ」に分かれており、ロンドン部門は2000年代以降の最新の現代アートを展開し、マスターズ部門は2000年以前の作品を古美術からオールドマスターまで網羅しながら展開しています。現代と伝統の2つの時間軸を感じられることも大きな強みでしょう。ロンドンという土地柄、歴史ある美術品が現代アートと絶妙なバランスで成立していることも、都市のアイデンティティを感じさせてくれます。入場者数は毎回6万人を超え、近年はLAにも進出し、更なる展開が期待されています。

 イギリスの一人あたりのGDPは42.580ドル、日本円で約470万円です。賛否はあるもののブレグジットが実現すれば、より米国との経済的結びつきが強まることが期待されています。

終わりに

 経済的な成長がある国はそれが呼び水となり、より多くの人材が集まり経済が活発になります。つまり持続的な経済成長をする国こそアートの発展には欠かせません。ところが現在コロナウィルスによって世界経済が後退しています。

特にパンデミックで苦しんでいるシンガポールはしばらく経済が停滞するかもしれず、アート産業もしばらく縮小していくかもしれません。アートが活発な場所や中心地はその国や地域の経済力や経済成長率も大きな物差しとなります。その分かりやすい例がGDPとアートフェアといえるでしょう。