二極化する芸術祭とインバウンド効果

はじめに

 日本では21世紀に入り「芸術祭」と呼ばれるアートイベントが日本各地、それも農村など、特に観光地ではない場所で開催されていることが多くなりました。これは他国にない日本の風土ならではの大きな特徴でしょう。特に日本は先進国のなかで1番早く人口減少社会を迎えており、それに伴い急速な高齢化による財政の圧迫など、今後も様々な課題が待ち受けています。そうした社会の在り方、関わり方を問うコミュニケーション機能として「芸術祭」が注目されている側面もあるのではないでしょうか。とはいえ近年、各地で「芸術祭」が数多く立ち上がり、農村などの過疎地域と地方都市の芸術祭ではハッキリと異なる特徴が見えてきました。今回は二極化する芸術祭とインバウンド効果について考察していきます。

大地の芸術祭とヨコハマトリエンナーレが芸術祭の方向を示した

【里山型】 

 2000年からスタートした「大地の芸術祭」は3年に1度開催されます。総合ディレクターに北川フラム氏が就任したのに続き、第4回からは総合プロデューサーに福武財団の福武総一郎氏が就任しました。これにより瀬戸内芸術祭でも活躍する両者が揃う形で現在に至ります。この「大地の芸術祭」は東京23区よりも広い地域で開催され、その醍醐味は「里山」を余すことなく使いながら現代アートを楽しめることです。世界のどこにもない新潟ならではの風景と食が合わさったことで、新潟独自の文化として注目され、年々、海外からも多くのアートファンがやってくるイベントへと成長しています。また芸術祭をきっかけに地域住民の交流が増加するなど、地域の経済効果という意味においても欠かせないイベントとして定着しています。

【都市型】

 2001年からスタートした「ヨコハマトリエンナーレ」も3年に1度開催されます。その後、日本各地で続く都市型の芸術祭のモデルケースになるなど、他のトリエンナーレのなかでも常に注目されています。最大の特徴は、毎回、新しい総合ディレクターが就任することでしょう。それに合わせてキュレーターなども選定されるため、常にアップデートされた意欲的なトリエンナーレが開催されています。また都市型ならではの機能として、横浜市で同時期に開催されているアートプロジェクトとも連携企画なども打ち出しており、観客は横浜市を点ではなく面で楽しむことができるのも大きな魅力でしょう。アートを通じて横浜という都市の違った表情を知る機会にもなっています。

インバウンドと経済波及効果

 芸術祭にはどれだけの予算が組まれ、期間中の来場者や経済波及効果がどれぐらいになるのか、数字から見ていきましょう。

・大地の芸術祭・・・予算約3億8200万、実施日数50日間で来場者数51万人を超える規模へと成長しています。経済波及効果は約46億5000万と言われています。

・ヨコハマトリエンナーレ・・・予算約9億5600万、実施日数は88日間で来場者数25万9000人を超える規模へと成長しています。経済波及効果は約45億円を超えています。

ちなみに日本で最大の芸術祭は「瀬戸内国際芸術祭」ですが、予算約12億3800万、実施日数108日、来場者数100万人を超える規模へと成長し、経済波及効果は約130億円を超えるともいわれています。

 普段、アートとは縁がない人からすれば、想像以上の規模でアートも経済も動いていると感じるのではないでしょうか。何より海外から足を運ぶアートファンだけでなく、国内でもアート作品を目指して全国から人々が集まり、国内外のインバウンドが合わさり、大きな規模へと成長しているのです。

おわりに 今後芸術祭に期待されること

 芸術祭は事前にチケットを購入してから作品を見て回る仕組みとなっています。平均2000円前後のチケットを使って、1日では回りきれない規模のアート作品をことができます。当然、宿泊など滞在時間も長くなり、それだけ多くの経済効果が期待されます。もちろん外に展示してある作品はチケットがなくても鑑賞できるので、そこは課題かもしれませんが、もう少し技術が発展すれば違う使い方もできるのではないでしょうか。例えば外のモニュメントとVRが合わさった作品にすれば、購入者だけが体験出来る仕組み作りも進められるはずです。アートを切り口に広い土地を使って開催する芸術祭の可能性はまだまだ始まったばかりです。今後の芸術祭の持続的な成長によって、日本文化を牽引する存在になることが期待されています。